お勧め”シリーズ本”#3 「刑事マルティン・ベック」シリーズ
今回は、ちょっと渋めの警察小説を紹介します。マルティン・ベックは、マイ・シューヴァルとペール・ヴァールーの夫婦が合作した警察小説に登場する架空の警察官です。アメリカや日本でも、二人の合作によるミステリーはありますが、夫婦合作というのは大変珍しいと思います。また、この物語の舞台は、北欧スウェーデンの首都であるストックホルムです。
マルチン・ベックを主人公とした長編10冊からなるこのシリーズには、「犯罪の物語」というシリーズ名がつけられているそうです。このシリーズ本の邦題は以下の通りです。
『ロゼアンナ』『煙に消えた男』『バルコニーの男』『笑う警官』
『消えた消防車』『サボイ・ホテルの殺人』『唾棄すべき男』
『密室』『警官殺し』『テロリスト』
特に第4作目の『笑う警官』は、エドガー賞長編賞を受賞した人気作で、舞台をサンフランシスコに移した脚本で映画化されています。映画のタイトルは「マシンガン・パニック」です。
このシリーズ本は、大学生の時にミステリー好きの同級生に教えてもらって、全巻読破しました。この一連の作品は、当時のスウェーデン社会の変遷を丹念に描いています。この本を読めば、当時のスウェーデンの世相や雰囲気が感じられると思います。作中には多くの人物が出てきますが、長期間の話なので、最初の方の作品で捕まった犯人が、後半の作品で刑期を終えて刑務所から出所したりもします。
この作品には天才的に事件を解決する主人公は出てきません。ワクワクするようなどんでん返しなどもありません。ストーリーも主人公も地味ですが、警察官たちが積み上げていく事件解決までの道のりが、丁寧に描かれています。ストーリー展開の早い現代的な小説を期待して読むと、期待外れに終わります。
さらに、同僚の刑事たちもとっても地味です。ただし、シリーズを読み進めるにしたがって、段々と同僚刑事たちの人柄がわかってきます。その中でも、一番頼りになる部下がグンヴァルト・ラーソンです。このグンヴァルトは一匹狼的な孤高の刑事で、主人公以上にカッコいいと私は思いました。
また、グンヴァルトの親友エイナール・ルンも控えめな性格ですが、良い味を出していました。エイナールの奥さんは、ラップランド出身のサーメ人(イヌイット的な扱い?)で、同僚たちから揶揄われます。スウェーデン社会にも、人種差別的なものがあることを、この作品で初めて知りました。これらの小説は、当時のスウェーデン社会の縮図であり、普通の人々の生活の話でもあります。
一冊一冊も、とても面白いのですが、是非シリーズ10巻を通して読んで欲しいシリーズ本です。
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