犬と猫

 「犬と猫です。どうぞ!」司会の呼び出しと小気味よいリズムの音楽が彼らを出迎える。
犬と猫は互いの肉球を合わせ、決意を決めた表情で見つめ合い年に一度、いや彼らにとっての人生を賭けた舞台にかけていった。眩い照明と多くの観客が彼らを出迎える。


「どうも。犬と猫です。名前の通り犬と猫のコンビでやらせてもらってます。向かって左の僕が猫、右にいるのが犬です。」
猫くんは前足で自分と犬くんを指し観客に自分たちを紹介する。
彼らが出ているのはドッグショー?それともキャットショー?いや、違う。全ての若手動物たちの憧れ、アニマルワングランプリ、通称A−1グランプリだ。

「猫くん、そんなこと言わなくても見ればわかるよ。あと猫は手に触ったら爪を出してきますよ。僕らね。さっき、頑張ろうぜってグータッチしたんですよ。そしたら、猫くん爪出してきて、僕の肉球傷つけてきたんですよ。」
犬くんは観客に自分の前足を向けて見せる。

「猫やねんからしゃあないやろ。犬のくせに細かいにゃ。犬は大らかなんちゃうんか。」

「何を言ってんだよ!犬だって細かい性格の犬だっているよ。そういう思い込みで僕らを飼って、思ってたの違うって人間は捨てるんだよ。野良猫と違って野良犬になったら、結構犬生ハードモードだよ。」

「まぁ確かに野良猫の友達はいるけど、野良犬の友達はおらんにゃ。俺が猫って言うことを差し引いても少ないな。そういう面では犬は大変かもしれんな。しかし、君はわんわん、わんわんうるさいな。」

「また、決めつけて、犬だからわんわんって。そうじゃない犬もいます。」

「おらんやろ。にゃーにゃーでも言うんか。」

「バウバウ。」

「おぉ、アメリカ式。」
猫くんは思ってもいなかったか発言かのように黒目を大きく見開いて観客を見る。
「俺、そんな吠え方のヤツ、猫生で見た事ないで。あとニワトリのクックドゥドゥルドゥー。あれもようわからん。どんな耳しとんねん。動物界から言ってやる。why アメリカン ピープル!」
猫くんは両手を広げて、観客に訴えた。

「おぉ、猫くんからの一言、全米が泣くね。」「何を映画の予告みたいに言っとんねん。」
猫くんが鼻で笑う。

「あのさ。」
犬くんが話題を変えるようにトーンを落として話し出した。
「なに。」
「人間になった時のために働く練習しときたいなって」
「そうか、なにがしたいんや。」
「サッカー選手。」
「君がサッカー選手したら、ずっとボール追いかけてまうやないかい。」
猫くんは呆れたように笑った。

「いまの話してるんじゃないだろ。人間になったらって言ってんじゃん。」
犬くんはバウバウ怒った。
「すまん、すまん。ほんにゃら練習しようか、ここにボールがあるとして…。」
猫くんが床を指した瞬間、犬くんは腹ばいになりボールを抱えるような動きをした。
彼は左右を交互に見やり、誰にも渡さないという執念の眼で睨んだ。

「いやいや、想像だけで落ち着きなくなってるやん。」
「あっ」
犬くんは我に返る。
「ごめん、ごめん。ボールを想像したら、つい。」
「想像だけでこんなんやったら無理やろ。人間になる前に練習はやめとき。あと、君の前足、それ人間でいうとこの手や、完全にハンド、反則。あと口、それに関しては反則かどうかはわからんけど、ボール咥えてドリブルするやつなんかおらん。」
「うん、でも前例を変えていこうと思って。」
犬くんは申し訳なさそうに上目遣いで猫くんにいう。
「嘘言うな、君にそんなに志ないやろ。ボールが好きすぎるだけや。それにボール咥えるような奴は試合に出してもらわれへんって。」
「そうなのかなぁ、じゃ違う仕事の方がいいかぁ。」
「警察とかいいんじゃない。今の経験も活かせそうやし。」
「猫くんね、簡単に経験活かせそうとか言うけど、警察犬になれる犬はエリートでだいたい犬種はシェパードとかでしょ。僕の犬種は無理。」

「なんか悲観的やな、犬ってもっとこう天真爛漫っていうか、元気な感じ?そういうのが溢れてるけど君は全然違うね。」
「犬イコール元気っていうイメージね。そのイメージ、ほんと生きていくの大変。僕の飼い主もね。むかし留学してたんだけど、その時日本人はすごい真面目だよね、礼儀正しいしとか色々言われて、いい人ぶるの大変だったって言ってたよ。僕もね、ことある事にしっぽ振ったり愛嬌出したりするのつらい時あるんだよ。」

「にゃんかそんな事で悩んでるのが日本人っぽいし、気にしてる自分も犬って感じするけどな。」

「うーん、なんか向いてる仕事ないかなぁ。」
「もう人間になっても漫才やるしかないんちゃう。君とやったらまたコンビ組んでもええで。」

「また、漫才師かぁ」
犬くんはそうは言ったもののしっぽをぶんぶん振っていた。
「まぁ考えてあげてもいいよ。」
「にゃんでそんな偉そうやねん。」

二匹はこの舞台を大いに楽しんでいた。
結果は振るわなかったが、幸せな時間だった。

帰る時に猫くんは言った。
「来年もまた頑張ろうな。」
犬くんは照れながら頑張ったら、ボール奢ってくれるかと聞いた。

「頑張るのは当たり前や、優勝したらなんぼでも奢ったる。」

彼らはまた来年の出場を優勝を目指しそれぞれの家に帰って行った。

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