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映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(Dark Waters)トッド・ヘインズ 2019年11月 米国 

(2021年12月27日鑑賞)

この作品も、鑑賞直後に感想をメモしていた。近頃、急速に社会問題化してきているので、加筆して掲載したいと思います。

***

米国で実際に起きて、今も続いている実話をドラマ化した作品。
 世界最大の化学製品製造会社デュポンは、社内の研究調査によりフッ素系炭素化合物(PFAS)(*)が人体に甚大な被害が生じるという事実を掴みながら、長年にわたり隠蔽を図り、デュポンの製造工場で働く従業員や、密かに汚染物質を廃棄した地域に暮らす住民に甚大な健康被害与え、人命をも奪ってきた。この映画は、その被害者たちの弁護士が、様々な妨害や政治的な圧力を受け、社会的孤立状態に陥りながら、信念を曲げずに、事実を掘り起こし責任を追求し奮闘する姿を描いている。因果関係の科学的調査は、第一線の3人の科学者に委ねられたが、結論を出すまでになんと7年もかかり、PFASが各種の癌をはじめとする様々な疾病を引き起こしたと認定された。それでもデュポン社は、徹底的な抵抗、引き延ばし、切り崩し作戦をとり、この集団訴訟はいまだに続いている。
 余談ではあるが、この映画の中で、被告企業であるデュポン社の元最高経営責任者が、弁護士たちに囲まれ、証拠書類を次々に突きつけられ追及される場面を見ていて、自分自身が、かつて、米国での集団訴訟で、被告会社の代表として渡米し、同じような立場に置かれ、ソニー製プロ用大型ビデオカメラが自分だけを大写しにして回り続ける中、宣誓証言(**)のあと二日間、複数の相手側弁護士から詰問され続けた経験を思い出した。この時は、二晩一睡もできなかったことも懐かしく思い出した(***)。

(*)PFAS:非常に難分解性が高く自然環境に広く拡散し生体内に蓄積することから「永遠の化学物質」と呼ばれ、パーフルオロオクタン酸(PFOA)及びパーフルオロスルホン酸(PFOS)に代表される。約5千種類存在する。正式名称は、「パーフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物及びこれらの塩類(PFAS)」。PFASは70年以上に渡って便利なフッ素系界面活性剤として幅広い用途で使用されてきた。長年の研究によって、発がん性や生殖毒性などを持つ物質である可能性が極めて高いことが判明してきている。

(**)Do you swear that you will tell the truth, the whole truth and nothing but the truth?
→ Yes, I do.
なお、このビデオは、和解に達することができず裁判所で争うことになった場合、陪審員が見て、彼らが下す判決の判断材料になる。ポイントは、証言をする人間の顔だけが大写しで撮られる点にある。言い澱んだり、緊張したり、自信なさそうな顔や落ち着かない仕草は、必然的に嘘をついている、何かを隠していると受け取られる。訴えた側の弁護士の質問、それはしばしば詰問調になるのだが、彼/彼女の顔は全く映されない。私の場合は、相手側の弁護士チームの代表は女性だったが、彼女は、質問する際、終始、私を睨めつけて、怯えさせ、脅すような顔つきをし続けていた。その彼女の顔は、全く記録されないのである。

(***)この集団訴訟の結末は、低額での和解で決着したので、実質的に"勝った"のだが、2年以上にわたる訴訟期間に、毎月1億円以上が米国の法律事務所に支払われており、結局のところ、"勝った"のは弁護士(事務所)と言える。これは、訴訟社会米国では当たり前となっており、訴える方や訴えられる方ではなく、弁護士(事務所)が常に"勝つ"構図になっている。

 米国バイデン大統領は、大統領選挙運動の際に、PFAS を有害物質に指定し、PFAS の基準値を設定することなどを約束している(軍人だった息子を癌で亡くしており、原因がこのPFASの過剰な体内被曝だと確信しているようだ)。バイデン政権発足後、公約通り規制強化の動きが進んでいる。米国国内の軍事基地で使用している消火剤によって 飲料水などが PFAS に汚染されている疑念があることのみならず、PFAS は全米のコミュニティで蔓延しており、「深刻な健康問題」を引き起こすと懸念されている。その中には、Covid-19 ワクチンの「効果を低下させる」という懸念も含まれている。

 日本でも、米軍基地が集中している沖縄で、PFASの飲料水汚染が深刻であり、横田基地周辺の地下水汚染も明らかになっている。東京都多摩地区、とりわけ、府中市や国分寺市の飲料水の汚染も明らかになっているが、横田基地からの地下水汚染の影響ではないかとの疑念が持たれているものの、因果関係は確定していない。
 昨年(2021年)、私も会員になっている「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議(JEPA)」が主催した衆議院議員会館で開かれた緊急院内集会に参加した際に、日本でも上述のように汚染が極めて深刻なことを肌で感じた。

 なお、時を同じくして、新年(2022年)1月19日に、
「有機フッ素化合物と子どもの健康」北海道大学大学院保健科学研究院 池田敦子教授の講演が行われた。(オンライン視聴)
 2001年から実施されている「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」では、多種類の有害化学物質と子どもの成長の因果関係を調査した結果、PFASの低用量曝露が、性ホルモン撹乱作用を含む健康被害の原因であると発表されている。
 環境省のバイオモニタリング調査でも、ほぼ100%の日本人の血液から検出されている。現在進行中の、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」では、PFASも検査対象となっているが、調査結果は未発表の段階である。

後記:
 この有機フッ素化合物による飲料水汚染と健康被害の危険については、JEPAによる粘り強い市民運動に加え、その後、NHK「クローズアップ現代プラス」や、東京新聞などのリベラルなジャーナリズムによっても取り上げられるようになり、汚染地域の地元の市民運動の高まりも見られるようになってきた。

JEPA:
https://kokumin-kaigi.org/?page_id=7137

東京新聞:
https://www.tokyo-np.co.jp/article/234470

NHKクローズアップ現代プラス:
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4280/

大阪府摂津市に住む市民団体「PFOA汚染問題を考える 会」:
https://www.change.org/p/化学物質汚染に怯える市民からのお願いです-ダイキン工業は-pfoa汚染の調査と対策を行ってください?utm_content=cl_sharecopy_35226300_ja-JP%3A6&recruiter=1201629187&recruited_by_id=8ebbdb70-af2c-11eb-893f-ef3e94230a54&utm_source=share_petition&utm_medium=copylink&utm_campaign=psf_combo_share_initial&utm_term=97851c5421f344879866ff333714a132

ビッグ・イッシュー(THE BIG ISSUE JAPAN447号2023-01-15 発売):
「探査報道」が明らかにしたダイキン「PFOA公害」中川七海
https://www.bigissue.jp/backnumber/447/
(https://peplatform.org/jaward/2022/prize-1.html)

(終わり)

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