見出し画像

「世界一周する」と親に伝えるのに1週間かかった話

私は両親と離れて暮らしている。
親とめちゃくちゃ仲がいいわけじゃないので定期的に連絡をとったりはしていないし、何でもかんでも報告したりはしていない。
転職したことや一時期フリーターだったこともわざわざ報告しておらず、実家に帰ったときに、そういえば私転職したんよね。とさらっと言うくらい。
これも仕事の話にならなければ多分言わなかったと思う。

そんな感じではあるが、さすがに仕事を辞めて1年間世界一周する件については事前に報告しなければと思った。しかも直前ではなくてかなり前に。
仕事を辞めて今の部屋を解約するので、出発までの期間実家に滞在することになるだろうからそのことを伝えたかったのと、万が一反対された場合、親を説得するのにどれくらいの期間を要するか予測ができなかったからである。

世界一周すると親に伝えるのに一週間かかった理由は反対されるのが怖くてビビってしまったからである。いい大人なのに情けないのだが、怖いものは怖いのだ。

私の親は正直よく分からない。
大学を出て就職して正社員として働いて結婚して出産する、といった昭和の価値観での「普通」の人生を送ってほしい、その道を外すのは許さない、という考え方の持ち主だと思っていた。

私は田舎で生まれ育ったのでイレギュラーな生き方をしている人に出会う機会がなく、それが「普通」だと思っていた。なので大学を出て就職して正社員として働いてまでは踏み外さずしっかりと歩んでいた。

しかし1年ちょっとで新卒で入った会社を辞めたいと言い出し、転職活動を始めた時(当時は実家暮らしだったので転職活動をしていることを親は知っていた)、父から思いもよらない言葉が飛び出したのだ。

「転職するくらいやったら留学でもして何か武器を付けてから転職したらええんとちゃうか?」


え?まじ?
正社員でちゃんと働いてほしいんと違うん?
留学とか響きはいいけど無職になるんやで?
世間体とか気にするから目立つことしてほしくないんと違うん?

父からしてみれば何のスキルもないのに転職するよりは、仕事でも使える英語力を身につけてからの方がいい会社に入れる、あくまでも就職のために言った言葉だと思うが、父からそんな提案が出るとは思わなかった。

あの時の私は「普通」の人生を歩んでほしいという親からの呪縛にとらわれていたので、ほんまにいいんかな?何か裏があるんじゃないか?と疑心暗鬼になっていたが、元々海外に住むことへの憧れは人一倍あったので父からの提案を素直に受け止め、語学留学+ワーキングホリデーでカナダに1年半暮らすことになるのだった。

もしかすると親は「普通」の人生を送ってほしいとそんなに思ってないんじゃないかと思ったのだが、そうではなかったみたいだ。

仕事に関しては正社員で働くというこだわりはあったようだ。
カナダから帰国後、転職活動をしていた。
独り立ちしたかったので実家を離れ大阪か京都で働くつもりで就活をしており、面接のたびに実家がある滋賀から大阪や京都へ行く生活をしていた。
そんな生活をしている中で、別に正社員じゃなくてもいいんじゃないか?派遣でサクッと働くのもよくないか?と思い派遣会社に登録をした。それが父に知られた時に驚くくらいキレられた。父にあんなにキレられたのは生まれて初めてやったと思う。派遣はすぐに契約が切れて仕事がなくなるから辞めろとのことだった。やはり正社員で安定して働いてほしいという思いはあったみたいだ。

そんなこんなで結局私は大阪の会社で正社員として働くことになったのだが、ずっと親から縛られていた感覚があったので、その呪縛から解放されたい!という反動で30歳をなるのを機に正社員を辞めてみた。派遣やフリーターを経験してみたのだ。冒頭で書いたようにそれを親に言わなかったのは、あのキレられた経験があったからである。

色々あって今はまた正社員として働いている。
仕事を辞めて世界一周をするなんて言ったらなんて言われるんだろうか。
さすがにもういい歳なので好きにしたらいいよと言われるかもしれないし、キャリアを捨てて自分の好きなことをするなんて許しませんと言われるかもしれない。
普段電話をかけないので電話で言うのはなんだかとても大そうな話をするみたいになっちゃうからLINEで言うことにした。
6月中には言う!と決めたのだが、iPhoneのメモ帳にLINEで送る文章を何度も書いては直して、書いては直してを繰り返し、LINEに文章を打つも勇気が出ず送信ボタンを押せずが1週間続き、結局親に伝えることができたのは7月7日の七夕の日であった。
夜にLINEを送り、返信の内容が怖いので朝までLINEを見ず、1人よりも人がいる場所の方が怖さがマシになると思い通勤電車の中で返信を見た。

「〇〇(私の名前)のやりたいようにやってください。あなたの人生なので私たちは反対はしません。悔いのない人生を送ってほしいと思っています。」


電車の中で涙が出るのをこらえた。
このLINEの文章を見るたびに泣けてくるし、今この文章を打ちながら泣いてしまっている。
呪縛から解き放たれたような、いや、そもそもそんな物はなくて私が勝手に作り出していたのかもしれない。
まぁ、それか諦められているだけかもしれないけど。笑

自分の親がこの人たちでよかったなぁ。なんて思ったりもした七夕の日。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?