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【カンヌライオンズ2023 視察報告_vol.1】超個人的2023受賞作15点紹介

こんにちは。DeNAデザイン本部の飯島です。

2023年6月19日(月)〜23(金)の5日間にわたって、フランス カンヌで開催された「カンヌライオンズ 2023 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」に、DeNAデザイン本部から3名で参加してきました。

ここでは、極めて私的な偏った内容ではありますが、備忘メモも兼ねて受賞作の一部を紹介させてもらいます。


CANNES LIONSの公式サイト

このサイトでは、参加者のID・PASSを入力することで、過去を含めた受賞作品、エントリー作品を閲覧することができます。この仕組みに、帰国後に気づきました。

会場でも、全ての作品をPCで閲覧することができ、これに結構な時間を使ってしまったことが今になって悔やまれます。次回参加の際は、これを肝に銘じておきたいと思います。

B1フロアでは、全てのエントリー作品が視聴可能
大量のカテゴリと事例が用意されています

それぞれのエントリー作品には、説明用の2分程度のMovieが用意されています。これを見ることで、それぞれの作品の意味や意図、効果を知ることができるのですが、これがほぼもれなく本当に良くできています

以下で紹介する作品の中で、もし興味のある作品があれば、ぜひYouTubeなどで検索して見てほしいです。とっても理解が進みます。このMovieの出来が受賞に大きく影響しているんだろうな...は疑う余地がありません。

受賞作品の紹介

それでは、Outdoor部門を中心に15点の受賞作品を紹介していきます。
(紹介の順序に意味はありません。)

1. A British Original


Brand:British Airways
Agency:Uncommon Creative Studio, LONDON
Award:Outdoor, Grand Prix etc

旅行の目的を聞かれるアンケートなどでよくある、ビジネス?観光?その他?の選択肢。現実の旅行の目的はこんな選択肢だけではくくれない!を様々な媒体を利用して展開したキャンペーン。

例えば、
・昨日、吐く息が白くなったから
・月曜のランチにワインを飲みたいから
などなど

この「旅行の目的」のバリエーションのユニークさが肝ですが、これがGrand Prixか…という印象ではあります。

2. IKEA WINDOW SHOPPING


Brand:IKEA
Agency:RETHINK, TRONTO
Award:Outdoor, Silver etc

生活費の上昇がみんなの生活を圧迫している昨今。だったら、個人の家の壁面と家を広告媒体にしちゃえ!というアイデア。
(それによって、媒体費をその家の住人に還元します。)

一般人の家の(窓のある)壁面を広告媒体として利用し、その家の中で実際に使用されているIKEAの家具をプロモートするというキャンペーン。

媒体主も出稿主もハッピーなアイデア。

3. Heinz Ketchup Fraud


Brand:HEINZ KETCHUP
Agency:RETHINK, TRONTO
Award:Outdoor, Gold etc

ハインツの広告は個人的にとても好きなものが多いです。ここから続けて3つ紹介します。

HEINZがケチャップブランドとしていかに信用されているか!を事実を元にプロモートしている広告です。レストランのテーブルに置いてあるHEINZのケチャップ容器。でも実は、この中身はHEINZのケチャップじゃなくて…という事実をうまく利用したアイデアです。

このグラフィックは写真自体も素敵ですが「EVEN WHEN IT ISN'T HEINZ,  IT HAS TO BE HEINTZ」のコピーと合わさって、より写真がよく見えます。(数種のバリエーションがあります。)
とてもシンプルなのに、とても強いメッセージを感じました。

4. Heinz A.I. Ketchup


Brand:Kraft HEINZ
Agency:RETHINK, TRONTO
Award:Social  Influencer, Silver etc

続いて、ケチャップといえばハインツだよね!をアピールする広告です。

『Ketchup Bottle』のキーワードを与えたAIが描いた絵がハインツそのものだった!という、とてもシンプルでわかりやすいキャンペーンです。その結果生まれたビジュアルをそのまま広告ビジュアルとして使っている「AIによって作られた、世界初のキャンペーン」とのこと。

SNSやメタバース、また現実にもこのAIが生み出したケチャップビジュアルの展示会を開催したり、さらには実際にこのパッケージまで作ったりと広がりのあるキャンペーンです。多少のバイアスはあるのかな?とは思いますが、AIを利用することで、そのブランド認知の強固さの説得力を上げている良い事例です。

5. Ketch-Up & Down


Brand:Kraft HEINZ
Agency:FP7 MCCANN, DUBAI
Award:Packaging Design, Bronze etc

ハインツの最後、3つ目はパッケージ部門から。

これは「実際にハインツのケチャップがお客さんにこう使われているから、パッケージをこう変えました!」というもの。

ハインツといえば「逆さケチャップ」の素敵なキャンペーンがありましたが、これもパッケージデザインによって使いやすさを向上するものでした。でも実際は、やっぱり注ぎ口を下にして置かれていないケースが頻発している、だったら
・上下に注ぎ口をつける
・ラベルの上下をなくす(どちからもHEITZの名称が読める)
 ・さらには、キャップは100%リサイクル可能(→これはこの時代に合わせた取り組みですね)

に変更して、上下の概念を取り払ってしまいました。ちょっとした工夫ですが、とっても面白いし、しかも使いやすい。

広告展開も上下の概念がないビジュアルで、一貫性があります。

6. FitChix


Brand:Honest Eggs Co.
Agency:VMLY&R, MELBOURNE
Award:Outdoor, Gold etc

オーストラリアの卵産業の課題を解決する取り組み。

一般的にオーストラリアで(世界中で?)売られている卵は、劣悪な環境で育てられた鶏から生まれた卵で、当然その悪影響は卵そのものの品質にも反映されています。それを解消するためのアイデアとして、

・まずは鶏の飼育環境を改善し、広大な場所で自由に飼育する
・そこで飼育されている鶏にデバイスをつけ、その飼育環境で歩いた歩数をカウントする
・その歩数を、なんと卵の殻に正確に印字する

というもの。

鶏自体が健康になり、それが可視化され、さらにそれを食べる人間もHappyになる。テクノロジーを使って食の課題を解決している良い事例です。

7. The Last Photo


Brand:ITV X CALM
Agency:Adam&eveDDB, LONDON
Award:Film, Grand Prix etc

自殺の抑制を目指して活動する団体のキャンペーン。

イギリスでは、毎週125人の人が自ら命を断つそうです。ロックダウンや生活費の向上などの諸問題によりこの数が増加しており、今こそこれに向き合う必要があるが、どうすればこれをみんなが自分ごととして会話する機会を作れるか?このきっかけを提供するキャンペーンです。

自殺した人の生前の「最後の1枚」の写真を実際に展示しています。想像してみると、自殺をした人の最後の1枚の写真は暗く、思いつめたものでは。。と思ってしまいますが、実際はそうではありません。

・子供と一緒に満面の笑顔の写真
・マラソンを完走した直後の写真

など、そうでない人と何ら変わらない1枚に驚きを覚えます。

写真にはQRコードが付いていて、家族が語るその人のストーリーVIDEOを見られるようになっています。「Suicidal doesn't always look suicidal.」のコピーの通り、自殺は誰にでも起こりえるし、そのことを理解しよう。考えさせられるキャンペーン。

8. LIFE EXTENDING STICKERS


Brand:makro
Agency:GREY COLOMBIA, BOGOTA
Award:Outdoor, Gold etc

果物や野菜の40%は、さまざまな理由で廃棄されているそうです。この食品の廃棄ロスを減少させるためのキャンペーン。

カラーがグラデーションになった円状のステッカーを果物に貼ることで「その果物がこの色の時は、こんな食べ方がピッタリだよ!」を色でわかるようにしています。

例えば、上の画像のバナナの例だと
・緑色:Fried
・黄色:Ice cream
・黄色〜茶色:Tempura
・茶色:Cupcake
といった具合。

一見、食べごろ前?旬が過ぎた?ように見えていたものが、こうすることで目的に合わせて購入できるようになり、廃棄を減少することにつなげられる。ちょっとしたアイデアとデザインで社会課題の解決につなげる素敵なアイデアです。

9. The Artois Probability


Brand:Stella Artois
Agency:GUT, BUENOS AIRES
Award:Creative Data, Grand Prix etc

Stella Artoisの起源は古く、1366年創業のベルギーのビール会社。西洋のさまざまな絵画の中に描かれているお酒が、実はこのStella Artoisのお酒だったのでは?の謎をデータを使って化学的に探るキャンペーン。

・お酒の色
・グラスの形
・絵が描かれた年代
・絵が描かれた場所(ビール会社との距離)

これらを複合的に分析し、それがどのくらいの可能性でStella Artoisのお酒であったかを「00%」の表記を絵画に加えて可視化しています。

キャンペーン全体では、実際のミュージアム(Bellas Artes Museum)でStella Artoisであろうお酒が登場する絵画を集めた展示をしたり(スマホをかざすと「00%」の表記が登場)、絵画を使った広告展開をしています。

このキャンペーンを作ったエージェンシー「GUT」は、2023年Cannes Lions Agency of the Year grand prix に輝きました。

10. Anne de Gaulle


Brand:Fondation Anne de gaulle
Agency:HAVAS, PARIS
Award:Outdoor, Gold etc

フランス、パリの空港の名称にもなっている、シャルル・ド・ゴール。第2次対戦中の英雄でもあり、同国第18代大統領でもあります。フランスには、彼を知らない人はいませんが、彼にアン・ド・ゴールというダウン症の娘がいたことはそこまで知られていません。

そして、彼自身が愛する娘のため、知的障害者を支援する目的で基金を設立しましたが、これが、フランス国内でさえあまり認知されていなかった。ゆえに支援するための基金が十分に集まらない。

この課題を解決するための壮大なキャンペーンです。

キャンペーン中の空港と近隣エリアのサイン

なんと、空港名称を一時的に「アン・ド・ゴール空港」に変えてしまいました。それだけにとどまらず、

・空港のサイン
・ラゲッジタグ
・ボーディングパス
・機内アナウンス
・カートの表示
・ロードサイン(道路の案内サイン)

に至るまで、徹底的に全ての名称を「アン・ド・ゴール空港」に変更し、この基金とその活動の認知を獲得しています。とにかく徹底的にやる、その規模に驚きます。

11. Natural intelligence


Brand:Nikon
Agency:CIRCUS GREY, LIMA
Award:Outdoor, Silver

AIが、人が入力したTEXTで簡単にイメージを創造してしまうこの時代。でもこの世界には「Amazing Natural Placesがあって、それはAIによって想像されるイメージよりもStrangeだ!」これを自然界に実際に存在するAmazingな場所の写真で証明しています。

AIに与えるキーワードのようなコピーとともに、Nikonのカメラで撮影した世界中のAmazingな風景をビジュアルにしています。例えば、
A giant table for a romantic Anunnaki dinner under a beautiful starry night

雑誌や屋外媒体を使って、このイメージとTEXTを掲示しています。

12. The Copenhagen Bench


Brand:TV2 DENMARK
Agency:TV2 CREATIVE, COPENHAGEN
Award:Outdoor, Bronze

地球温暖化による海面レベルの上昇に焦点を当てたキャンペーンです。

コペンハーゲンベンチと呼ばれるこのベンチは、1888年にコペンハーゲンに初めて設置され、以降130年間、街を象徴するアイコニックなアイテムとしてコペンハーゲンの至るところに存在し続けています。

元のコペンハーゲンベンチ

ひとつ上の写真にあるベンチは、このコペンハーゲンベンチの足高を85cm上げたもので、これは2100年までに予想される海面レベルの上昇高と同じ高さ。つまり、このベンチが「この高さまで海に浸かってしまうよ!」のアラートをあげています。

このベンチはコペンハーゲンの主要15箇所に設置され、その後すぐにSNSで、このベンチに座った人々の写真とともに拡散されています。これらを見た、35%の人が環境破壊について話す機会を得たと解答したそうです。

13. The Closer


Brand:HEINEKEN
Agency:PUBLICIST ITALY / LEPUB, MILAN
Award:Brand Experience & Activation, Gold etc

21:00を過ぎて灯りが灯るオフィス壁面に「Working late? The Closer can help.」のコピーを投影

Overworkの問題を解決する(逆手に取った?)キャンペーン。「The Closer」と呼ばれるガジェットとそれを使った広告展開です。

21:00を過ぎて明かりがついている実際のオフィスビルの窓横に「Working late? The Closer can help.」のメッセージを投影(他にもメッセージのバリエーションあり)。これを世界各国の都市で実施しています。

「The Closer」はビール瓶を開ける用の栓抜きガジェットで、これでハイネケンの瓶を開けると、センサーが反応して、PCの電源をシャットアウトする!というユニークなものです。(Bluetoothで繋いでおく)

「The Closer」と呼ばれる栓抜きガジェット

これにより、PCの電源を無理矢理にでも落として、仕事を止めてビールでも飲もう!というテクノロジーを面白く利用したキャンペーン。

14. A second of happiness


Brand:Mcdelivery
Agency:DDB COLOMBIA, BOGOTA
Award:Outdoor, Bronze etc

最後に2つ、マクドナルドの事例です。

The most memorable photographs are the one theater capture the perfect moment.
Not a second earlier, Not a second later. Just at the perfect time.

マクドナルドの商品をデリバリーをするスタッフの帽子に小型カメラを仕込み、商品を受け取った瞬間のお客さんの様子をそのカメラで撮影する。マクドナルド商品の健康への悪影響はあれど、実際に、みんなとても嬉しそうな表情をしてしまっている。

そして、そのHappyな表情をキービジュアルにした広告展開も。デリバリースタッフによって撮影された、初めてのキャンペーンとのこと。説明がいらない素敵な企画。

15. Happy Ramadan


Brand:Mcdonald's
Agency:SCHOLZ & FRIENDS, HAMBURG
Award:Outdoor, Bronze etc

ドイツ在住のムスリム(イスラム教徒)の方へ向けたキャンペーン。

現在、ドイツには6万人ものイスラム教徒が住んでいます。この方々は、ラマダン期間中は飲食ができません。それなのに街中には美味しそうな食べ物の広告で溢れています。この悩みに寄り添うアイデアです。

なんと、ラマダン期間中は、サイネージ広告からポテトやハンバーガーといった食べ物が消えて、パッケージだけになる。つまりは食欲をそそらない広告になる。そしてサンセットを過ぎると、再び食べ物が現れる。

左がラマダン期間中 右が通常時

日本だけにいるとあまり実感として感じにくい課題ですが、人に寄り添う素敵なアイデアだと思いました。

最後に

ここまで、現在の自分の仕事に近いこともあって、主にOutdoor部門を中心とした15点の作品について記載をしました。実際は映像作品も含め、もっともっと多くのエントリーと受賞作品があるのですが、全てを見きれていません。グランプリ作品を中心にいろいろなところで紹介がされていますので、気になる方は、ぜひ探してみてください。

また、受賞作を見るだけであればインターネットさえ繋がっていれば、日本からもいつでも閲覧が可能ですが、ある程度まとまった時間を持って、集中してこれに向き合うことができるのは現地にいるからこそだと感じました。

そして最後に、もし現地へ行かれることがあれば、会場との往復だけでなく、ぜひ行ってみて欲しい場所を2箇所紹介します。

エズ村

1つ目は、カンヌの東側「エズ村」。(僕も現地で教えてもらいました。)
山の上の、鷹の巣村で有名な場所で、まるで村全体がテーマパークかのような場所です。ジブリ作品が参考にした街だとか?

カンヌから電車とバスを乗り継いで2時間弱の場所にあるエズ村

ロザリオ礼拝堂

2つ目は、同じくカンヌの東側「ロザリオ礼拝堂」。アンリ・マティスが最晩年に手がけたとても小さな教会です。残念ながら教会内部は撮影NGなのですが、壁画とステンドグラス、そしてその光に包まれる、とってもいい空間です。

この場所以外に周りには何もないですが、それでも行って良かった場所です。屋根が工事中…

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