#82 ショートノベル「極上の石炭」(昔を懐古する空間を描くノスタルジック作品)

僕はしがないEH10系と呼ばれる国鉄のおんぼろな電気機関車である。
自分ではもう動かないと認めたくは無いが、あの頃のみんなが僕をみて目を輝かせてくれた子供たちはもういない。
今の天下は可動域が広くスピード感があり、鼻筋の整ったフォルムをする500系の新幹線が子供の目を離さないらしい。
あの頃は確か昭和32年の1957年。この年は知る人ぞ知る野球界の重鎮である長嶋茂雄が巨人への入団を決めた年。彼もまた希望に満ちてイキイキしていたが、僕もまたお客様を運ぶ事を生き甲斐としていた。
……嗚呼、僕の背中に極上の石炭を汲んでくれる助け舟があれば。

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