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2022年これまでの災害纏め

昨日9月1日は防災の日&この日を含む1週間は防災週間として、防災に係る様々な啓蒙活動が行われています。
元々、関東大震災が起きたことが9月1日であることや、台風の襲来が多いとされる210日にあたることなどから、1960年にこの日が防災の日と定められ、防災訓練が行われるなど啓蒙活動を行う日となったようです。

残念ながら、今年も甚大な自然災害が発生しました。
まず、被害に合われた方々には一刻も早い復旧をお祈りいたします。

本記事では、今後の防災に対する意識を醸成する意味も込めて、
今年これまでに発生した気象関連の災害イベントを纏めました。

発生被害や、温暖化との関係性を含めた気象メカニズム、昨今の対策の動きなどの視点で俯瞰的に纏めたいと思います。「結局、今年はなぜどんな自然災害が生まれて、今後どう対策していくのか?」といった問に答えたいと思います。

本記事の主なポイント

  • 今年も多くの水害が発生しました

  • 改めて過去を振り返ると、毎年甚大な被害が発生してきています

  • 海外でも甚大な被害が生まれいます(例 パキスタン洪水)

  • 洪水以外の自然災害の被害も甚大化しています(干ばつなど)

  • 治水については、関連法案の改正も受け、今後ますます流域全体での対策の取り組みと、気候変動の影響も加味した適切なリスク評価が重要になっていきます。


日本の2022年の水害イベント

今年国内で発生した水害イベントは4つ、特に被害の大きかったものは2つです。

2022年8月大雨

直近では2022年8月3日以降に東北地方や北陸などの広い範囲で断続的に猛烈な雨が降り、記録的な大雨となりました。
この大雨によって、4つの一級河川で氾濫が起こり、特に最上川(山形県)や後志利別川(北海道)では家屋の浸水被害も生まれています。

一級河川以外の都道府県管理の河川も含めると、132もの河川で氾濫が起こっています。
例えば、新潟県では、三面川水系高根川にて堤防が決壊しており、本降水イベントにおいて最大となる2,133もの住宅被害が生まれています。
全国では、12名の死傷者や、6,689の住宅被害(24の全壊を含む)といった痛ましい被害が生まれました。

気象メカニズムの観点としては、8月3日~5日にかけての大雨は、前線が停滞して、その前線に対して暖かく湿った空気が多く流れ込んだことにより発生しています。
詳しくは他のイベントとあわせて後述したいと思います。

2022年7月大雨

次に大きな被害をもたらしのは、2022年7月14日~に東北地方や九州を中心に発生した大雨です。
この大雨では、28の河川で氾濫が発生し、全国で1,719もの住宅被害が生まれました。
特に宮城県においては、名蓋川や出来川にて堤防が決壊するなど、甚大な被害を生んでいます。

参考)名蓋川の堤防の結界の様子 https://www.youtube.com/watch?v=WDLnCu6UqJg

こちらも気象メカニズムの観点として、大きな考え方としては、8月の大雨と同様で、前線が停滞して、その前線に対して暖かく湿った空気が流れ込んだことが要因となっています。

2022年6月大雨・2022年7月台風

その他の水害イベント2件は、6月の北海道周辺での大雨と、7月の台風4号になります。
これらは、相対的に見れば上記の水害イベントよりも被害の規模は少なかったものの、7月の台風4号においては、伊豆諸島で120mm/24h規模の大雨・高知県で5河川で氾濫するなどが発生し、全国で139の住宅被害などが生まれました。このイベントでは、上記2件の前線の停滞とは異なり、台風や低気圧周辺の暖かく湿った空気の流入により大雨がもたらされています。

気象メカニズム・温暖化との関連性

気象メカニズムについて補足します。
よく大雨の予報があると天気予報にて「南から暖かく湿った空気の流入により太平洋側では大雨が予想されています」といったアナウンスを聞くことが多いかと思います。
雨の降る原理は「暖かく湿った空気が集まって」それが上昇気流に乗って上空に運ばれることで、水蒸気が凝結して降水になる、ということです。
乱暴に言ってしまえば、日本国内で大雨が降るのは、前線(暖気団と寒気団の境目)が停滞して継続的に暖かく湿った空気が流入して雨が振り続けるか、台風(や非常に発達した低気圧)によるものが多いかと思います。これらに地形的要因が加わることで線状降水帯が形成され、大雨が増長されるパターンもよく見られます。

今年大きな水害をもたらした7月大雨と8月大雨はともに前線の停滞によるものですが、降水の規模が大きかった背景には、ラニーニャ現象と温暖化の影響が関連しているものと見られます。

まず、温暖化は周知の通り、平均気温が年々上昇している現象を指していますが、ラニーニャ現象は、平均気温の上昇とは別の話として、数年の周期で熱帯太平洋のある領域の海面水温が平年より低くなる現象を指しています(逆に高くなるのがエルニーニョ現象)

今年は6月~7月上旬にかけて非常に暑い状態が続いていました。
これは一般に「ラニーニャになると日本は猛暑になりやすい」と言われている通りです。
すなわち、ラニーニャになると熱帯太平洋上での貿易風(東風)が強まり、インドネシア近海で上昇気流が増長される。
こうした大気循環の増長の影響で、日本では下降気流が強まり、通常の太平洋高気圧の位置よりも、日本付近に張り出し、日本では晴れが続き気温が高くなります。

さらに温暖化の影響と相まって、日本付近では記録的な猛暑になりました。
イベントアトリビューションと呼ばれる、異常気象の事象に対して、温暖化の影響がどの程度あったか調べる研究によっても、今回の猛暑は温暖化による影響がかなり大きいとされています。

この頃、パキスタンで大きな洪水が発生していましたが、上述のインドネシア近海とあわせて上昇気流・積雲対流活動が活発化したことで、亜熱帯ジェット気流が大きく蛇行した可能性が指摘されています。
これによって、不安的な大気状態をもたらす気圧の谷・上層の寒冷渦が持続的に存在し、太平洋高気圧は南西側に押し下げられ、日本付近(東北地域)で前線が停滞し、大雨がもたらされたものと見られます。

加えて、8月3日~には、東シナ海を北上した台風5号、6号の影響で、暖かく湿った空気の流入が東北地域に継続的になされた点および地形要因に起因する局地的な線状降水帯が発生した点によって、さらなる大雨がもたらされました。

ここで起きた大雨がすべて温暖化の影響によるものとは決していえませんが、上述の通り暖かく湿った空気の流入が大雨のドライバーになっている点に鑑みると、温暖化によって空気中に含有される水蒸気量が増加したことが、大雨の強度の増加につながっている可能性は高いと考えられます。

日本の2021年以前の水害イベント

実際に、全国の降水量も過去約50年間の間において上昇トレンドにあります。

昨年以前を振り返ってみても、2021年9月の台風14号や、2020年の7月豪雨、2019年の東日本台風など台風や前線の停滞、線状降水帯などによって、毎年大きな大雨や洪水被害が発生しています。

特に2019年の東日本台風では、100人を超す死者や13,000戸以上の住宅被害など、甚大な被害を引き起こしました。

海外での水害イベント(洪水以外も含め)

こうした水害は、日本以外も多く発生しています。
最近では、少し上記でも言及しましたが、パキスタンの洪水被害が甚大なものとなっています。
2022年7月の平均降雨量が170mmを超え、平年の3倍近くになり、1,000人を超す死者が出ています。

また、洪水とは逆に干ばつの被害も甚大なものとなっています。
欧州委員会は2022年8月に、「少なくとも過去500年で最悪の状況」「気候変動が毎年顕著になっている」といった表明をしました。
熱波によってスペインやポルトガルで山火事の被害が発生しているのみならず、イタリアやフランスでは、貯水量の減少によって水力発電や各種発電設備の水冷システムに深刻な影響が出ています。

日本でも5月ごろに渇水によって愛知県において水不足により工場が稼働できないなどの事象が発生しておりました。

今後の対策

洪水に話を戻すと、今後どう治水の取り組みをしていくかが重要となります。
いま我々は気候変動の影響も加味して、改めて水害のリスクを適切に評価し、必要な対策を施していくべきタイミングにあると考えます。
昨年2021年に流域河川関連法案の改訂版が施行されたのも、気候変動の影響に対する対策の意味合いを含みます。

上述の被害にあった河川では、堤防の強化や河道幅の拡大など、周辺地域の地権者との合意形成を要する対策の必要性も謳われています。
改正法案も「河川管理だけでなく、川上・川下含めた流域全体で関係者一岩となって治水に取り組む」ことが一つのコンセプトとなっていますが、
まさにこうした周辺地域の地権者との連携のもと工夫して施策を打っていくことが求められていると思います。

このような多岐にわたる関係者との間で合意形成をして進めていくうえで、
気候変動の影響も加味した水害のリスク評価を適切に行うことが重要と考えます。

一般の企業にとっても、TCFD報告書の中で、洪水などの物理的リスクにおけるリスク評価・インパクトの情報開示が求められるなど、こうしたリスクマネジメントの要請は高まっていると考えます。

最新の気候科学の知見やデータを活用しながら、きちんとリスク評価を行い、適切にPDCAを回すことで災害被害を極小化した未来を作っていけることを切に願います。


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