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《分割版#2》ニンジャラクシー・ウォーズ【ファースト・エピソード後編:リアベノーツ・リライズ】

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【#1】←

6 ニューボーン・レジスタンス

 第15太陽グローラーの強烈な陽光の下、二人の男と一体のドロイドは、乾いた大地を歩き続けていた。

(((いつまで相棒探しにかまけておる、ナガレボシ=サン。一刻も早くハヤトにインストラクションを授けよ!)))
 ゲン・シンの叱声がリュウのニューロンを苛んだ。「たまんねェな」リュウはうんざりと呟いた。宇宙船乗りとして暮らしてきたこの数年、厭わしき過去からの声はすっかり鳴りを潜めていた。それが突然ぶり返した理由は明らかだ。

 リュウは立ち止まり、ハヤトを振り返った。
「いつまで俺に付き合ってンだ、ハヤト=サン」「僕も一緒にバルー=サンを探すよ。はぐれたのは僕のせいでしょ」ハヤトは生真面目に答えた。
 キュラキュラキュラ……万能ドロイド・トントの車輪走行音が、リュウのニューロンをさらに逆撫でした。「何でお前までついて来ンだよ」『メイレイシテ、クレナイト、コマリ、マス』

 リュウは舌打ちした。「腑抜けた事言ってんじゃねェ。テメェに命令するのはテメェ自身だろうが」『ソレデ、ヨロシイノ、デスカ』「俺はそうやって生きてきたぜ」適当に答えるリュウは、トントの顔面LEDプレートに表示された三角形の警告マークに気付かない。

『デハ、キホン、セッテイヲ、カキカエ、マス』
「……ア?」

 ピボッ。トントの動きがフリーズめいて停止した。
 キキキ、カリカリ……UNIX駆動音とともに、「OVERRIDE」「REFORMAT」「NORETURN」といった不穏な文字列が顔面を流れる。「オイ、どうした」リュウの問いにも無反応だ。

「オイオイ、やっちまったかァ? ……ま、いいか」

 トントを残して去ろうとしたリュウの前に、「マッタ」身長7フィートに迫る屈強な男が立ちはだかった。肩に座らせた少年を降ろし、壁めいて両手を広げる。「ドーモ、リュウ=サン。俺の名はドウギ。こいつは息子のイサ」「ドーモ!」少年が白い歯を見せて笑った。

「ドーモ、ゲン・ハヤトです」「ドーモ、リュウです」リュウは懐手のままオジギした。お世辞にも礼儀正しい態度とは言えない。
「アンタ見覚えがあるぜ。さっきジャンクヤードにいたよな」リュウの問いにドウギは答えず、威圧的に半歩踏み出した。「一緒に来て頂きたい」
「フーン」リュウはニヤリと笑った。「嫌だと言ったら、どうすンの」「力ずくでも連れて行く」さらに半歩。「面白ェ」

「コラ! 大人しくついてこい!」

 張り詰めるアトモスフィアを破ったのは、二人に割って入ったイサ少年だった。「お父ちゃんはコロニーで一番の力持ちなんだぞ!」リュウに指を突きつけ、頬を膨らませる。
 リュウは気勢を削がれて苦笑した。「フーン。強いんだな、父ちゃんは」「そうさ!」イサが満面の笑みで頷く。

「わかったよ、坊主。どこへでも連れてってもらおうじゃねェか」
 リュウの言葉に、背後のハヤトは胸を撫で下ろした。

「君、さっきのドロイドだろ? 一緒に行こう!」イサはトントに駆け寄り、ヤットコ状のマニピュレーターを手に取った。いつの間にか再起動していたトントの顔面に「 Λ Λ 」の文字が灯る。
『オト、モダチ。オト、モダチ』キュラキュラキュラ……イサと共に歩むトントは、明らかに先程とは異なる電子的アトモスフィアを放っていた。

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 岩場の麓に作られた無数の石造りの門は、第1世代開拓民の洞穴型住居の名残りだ。ドウギはその一つにリュウとハヤトを招き入れた。イサは見張りに立ち、トントが自主的に加わった。

 崖の上からその様子を見つめる、パープルラメ装束の女宇宙ニンジャあり。だが気付く者はいない。ナムサン……クノーイの宇宙ニンジャ野伏力は、トントの万能センサーはおろか、リュウの宇宙ニンジャ第六感すら欺いたのだ。

 リュウ達は石門のノレンを潜り、洞穴めいた地下通路を進んだ。
 その先に、岩肌をむき出しにした広大な空間が広がっていた。狩猟用宇宙ライフル、ピッチフォーク、ツルハシ、ボー……思い思いの得物で武装した数十人の男達を、電子カンテラの光が照らし出す。

「ドーモ、はじめまして。カミジです。ご無礼をお許し下さい」壮年の男が立ち上がり、一同を代表して丁寧にアイサツした。「ドーモ、ゲン・ハヤトです」「ドーモ、リュウです」アイサツしながら、リュウは手近な岩に腰を下ろした。お世辞にも礼儀正しい態度とは言えない。「で? 俺に何か用かい、カミジ=サン」

「ここにいるのは皆、ガバナスと戦うことを誓った同志です」カミジの言葉に一同が頷いた。「先程ジャンクヤードで、同志達が貴方のワザマエを拝見しました。もしや貴方は、人知れず第15太陽系の平和を守るという、宇宙ニンジャクランのお方では?」

「アノ、それ、僕……」ハヤトはおずおずと言いかけ、ハッと気付いてかぶりを振った。今の自分ごときのワザマエで、どうしてゲンニンジャ・クランの後継者などと名乗れようか。

 リュウは肩をすくめた。「俺ァただの宇宙船乗りだよ。そんな大層なモンじゃねェ」「では、一人の宇宙船乗りとして力をお貸し頂けませんか」カミジが食い下がる。
「もちろんOKだよね、リュウ=サン?」ハヤトはたまらず割り込んだ。圧政に抗するレジスタンスに、優れたワザマエの宇宙ニンジャが力を貸す。それこそがクランのあるべき姿だと、彼には思えたのだ。しかし。

「ゴメンだね」

「エッ?」にべもないリュウの返答に、ハヤトは絶句した。「ハッハハハハ!」ドウギが呵々大笑した。「見込み違いだったなカミジ=サン! この男、とんだ腰抜けよ!」
「どうしてもですか」なおも諦めないカミジに、リュウは冷淡に答えた。「悪いな。俺ァ勝てるケンカしかやらねェ主義でね」

「何だと!」「どういう意味だ!」「我々が負けるとでも?」気色ばむ男達に、「おうよ。負ける負ける」リュウはせせら笑った。「これしきの人数と武器で、ガバナスの連中と勝負になるかよ。スペースモスキート・ダイビング・トゥ・ベイルファイアだぜ」

 なんたる言い草! ハヤトの頭に血が上った。「見損なったよリュウ=サン! 僕はこの人達と一緒に戦う!」「アッソ」リュウはあっさりと立ち上がった。「ならお前とはここまでだな」

「待て!」「ガバナスに密告する気では?」殺気立ってリュウの行く手を阻む男達を、カミジが押し留めた。「彼はそのような事をする人ではありません」静かだが有無を言わせぬ口調だった。「我々の戦いは自由意思に基づくべきだ。道を開けなさい」
「話が分かるな、アンタ」リュウはようやくカミジの顔をまともに見た。少年のように涼やかな瞳の男だった。

「リュウ=サン!」ハヤトが叫んだ。「こいつらと仲良くな、ハヤト=サン。命を粗末にすンなよ」リュウは振り向かずに片手を上げた。「ンじゃ、オタッシャデ」

 ノレンを潜って地上に出たリュウは、強烈な陽光に顔をしかめた。
「アレッ、一人だけ?」イサが目を丸くした。その手には宇宙輪投げ用プラスチックリング。トントのマニピュレータが垂直に掲げられ、同様のリングが何本か絡んでいた。見張りに飽きて遊んでいた様子だった。

「色々あってな。父ちゃんにヨロシク伝えてくれや、坊主」「わかった。また会おうね!」「アー、まァな」曖昧に答えながら、リュウはニューロンの奥底に耳を澄ませた。ゲン・シンの声は聞こえない。

「やれやれ」リュウは溜息をついて歩き出した。トントがリングを投げ捨て、それを追う。キュラキュラキュラ……『ドコヘ、イクノデス』
「俺の勝手だろ。ていうか、まだついて来ンのかテメェ」『ツイテイケト、ジブンニ、メイレイ、シマシタ。ダレニモ、キャンセル、デキマ、セン』

「カーッ!」リュウは額を叩いて天を仰ぎ……諦めた。

 仏頂面で歩き続けるリュウを、トントはどこまでも追いかけて行った。「オタッシャデー!」遠ざかる宇宙ニンジャとドロイドの姿に、イサは手を振り続けた。

 地下アジトではレジスタンスの会議が紛糾していた。

「なぜだ! なぜ奴らの駐留キャンプを攻めてはいかんのだ!」
 ドウギの怒声が地下空間に響いた。「臆したか、カミジ=サン!」「あんな腰抜けの言葉に惑わされるな!」血気に逸る男達が同調する。

「リュウ=サンは腰抜けじゃない!」反論するハヤトを目で抑え、カミジは静かに口を開いた。
「潔く攻め入ってハナビめいて散り、我々の死にざまを三惑星に知らしめ、奮起を促す……それもひとつの戦い方でしょう。しかし私は、むしろセンコの如くありたい。命ある限り燃え続け、人々の心に戦いの火を灯して回りたい」

 一同はいつしか静まり返っていた。
「長い道のりになるでしょう」眼差しに光を湛え、カミジは仲間達を見回した。「我々は何度もブザマを晒しながら、一日でも長く生き抜いて、一つでも多くの火を灯すのです。人々の怒りが大きなうねりとなってガバナスを打ち倒す、その日まで」

「ウオオーッ! 俺はやるぞカミジ=サン!」真っ先に感化されたドウギが、雄叫びと共に両手を突き上げた。「「「オオーッ!」」」幾つもの拳が後に続く。「俺もだ!」「最後に勝つ!」「何年かかっても!」「「「ウオオオオーッ!」」」

 熱狂的なアトモスフィアが立ち込める地下空間の片隅で、ハヤトは取り残されたように座り込んでいた。カミジはその傍らに腰を降ろした。
「良かったのですか、リュウ=サンと一緒に行かずに」「アッハイ」ハヤトは寂しげに笑った。「未熟な僕が足手まといだったんです、きっと」

 会議はひとまず解散となった。ハヤトは俯いて男達に続き、ノレンを潜って陽光の下へ出た。
 彼らを除き、もはや地上には誰もいなかった……誰も?

「イサ……イサ? どこだ?」周囲を見回すドウギの声が切迫する。「どこにいる、イサ! 返事しろーッ!」その時!

「ドーモ、身の程を知らぬ反逆者の皆さん! イーガー副長です!」
 イサの襟首を掴むイーガーが、崖の上に姿を現した。ニンジャトルーパーの一団が岩陰から湧き出し、ドウギ達を包囲する!

 イーガーはニンジャソードを抜き、少年の喉元に突き付けた。「無駄な抵抗は止めろ! ガキの命が惜しければ大人しく……」

「お父ちゃん! ヤッチマエーッ!」

 イサの叫びが投降勧告を遮った。「お父ちゃんはコロニーで一番強いんだ! こんな奴らの言うこと聞くなーッ!」
「なッ……余計な事を抜かすな! 人質は人質らしくしておれ!」予想外の反応にイーガーは動揺し、少年の首根を吊り上げた。「アイエエエエ!」

 その一瞬でドウギは覚悟を決めた。「ウオオオーッ!」雄叫びをあげてニンジャトルーパーに掴みかかる!「グワーッ!」
「武器を!」カミジが叫んだ。レジスタンスの男達は洞穴にとって返し、得物を手に次々と飛び出した。「ウオーッ!」「ヤッチマエ!」ヤバレカバレで突撃!

「チィーッ! どいつもこいつも、とんだ野蛮人どもよ!」イーガーはニンジャソードを掲げた。「もういい! 皆殺しにしろーッ!」

 乱戦が幕を開けた。
 イーガーが彼らを侮り、最下級のニュービートルーパーを引き連れて来たことが、レジスタンスの一団に幸いした。カジバチカラを発揮した彼らは、束の間とはいえニンジャアーミー相手に持ち堪えて見せたのだ。

「イヤーッ!」カミジは死に物狂いでボーを振り回し、ニンジャトルーパーの斬撃を打ち返した。BLAM! BLAM! BLAM! 仲間がすかさずライフル射撃! トルーパーは側転回避するも、反撃に繋げるにはワザマエが足りぬ!

「ウオオーッ!」ドウギは手近のトルーパーを抱え上げ、渾身の力で投げ飛ばした。「「「グワーッ!」」」数名が巻き込まれて地面に転がる。
 好機! ハヤトは回転ジャンプで飛び込み、「イヤーッ!」逆手に握った伸縮刀をトルーパーの一人に突き立てた!

「アバーッ!」爆発四散! だが一人をカイシャクするのが精一杯だ。残りのトルーパーがネックスプリングで起き上がり、ニンジャソードを手に殺到する。「イヤーッ!」ハヤトはワーム・ムーブメントで辛くも回避!

「イサ! 待ってろーッ!」急坂を駆け登るドウギを、イーガーは凶暴な笑いで待ち受けた。父の手が息子に届く寸前まで引きつけ……「イヤーッ!」肘から先を切断!「グワーッ!」仰け反った胴体を、「イヤーッ!」袈裟懸けに斬り下げる!「アバーッ!」

 ドウギは血飛沫を上げて転げ落ちた。「お父ちゃァーん!」絶叫するイサをイーガーはさらに高く吊り上げ、血塗れのソードを心臓に突き付けた。「ハッハハハハ! 貴様も父親の後を追うがいい!」「アイエエエ!」

「「ヤメローッ!」」ハヤトとカミジが危険を顧みず肉薄!
「貴様が頭目か。ガバナスに楯突く愚かさを知れ!」イーガーはイサを放り捨て、「イヤーッ!」カミジの眉間めがけて軍用クナイ・ダートを投擲した。その瞬間!

「イヤーッ!」どこからか飛来したヤジリ型宇宙スリケンが、クナイを空中で叩き落とした。「何奴!」イーガーが巡らせた視線の先には、両手に宇宙スリケンを構えるリュウ!
「嫌な予感がして戻ってみりゃァ……やってくれたな、イーガー=サン!」

「フン、どうだリュウ=サン。仲間を目の前で殺られる気分は!」イーガーは勝ち誇った。「仲間ァ? テメェ何を勘違いして」「この程度の雑魚ども、もう少し泳がせても良かったが……貴様の仲間ならば話は別よ」

「フーン」リュウの目が怒りに細まった。「つまりアレか。テメェは俺をムカつかせるためだけに、こいつらを襲ったってワケか」「ハッ! 実際ムカついたろ? この俺をコケにした当然の報い……」

「ザッケンナコラーッ!」

「アイエッ!?」怒れる野獣めいた宇宙ヤクザスラングが、イーガーの笑いを凍りつかせた。「イヤーッ!」リュウは天高く跳び上がり、空中回転を開始した。宇宙民族衣装の裾がはためき、トルネードめいて渦巻く!

「ミダレ・ウチ・シューティング! イイイイヤアアアーッ!」

 高速回転の中から宇宙スリケンが無数に放たれ、金属の雨の如く降り注いだ! ニンジャトルーパーの眉間が、心臓が、股間が次々と貫かれる!「アバーッ!」「「アババーッ!」」「「「アババババーッ!」」」

 恐るべきヒサツ・ワザによってトルーパーは次々と爆発四散を遂げ、その数をみるみる減じていった。「ヌゥーッ!」宇宙ニンジャヘルムの下、イーガーのこめかみに脂汗が流れた。このままでは全滅必至!「クソッ! 退けェーッ!」ヒキアゲ・プロトコル!

「「「「「イヤーッ!」」」」」イーガーと僅かな生き残りトルーパーは色付きの風となり、瞬時に姿を消した。

 イクサは唐突に終わった。
 傷ついた男達を助け起こすハヤトをよそに、リュウは無言でドウギ親子を見つめていた。「お父ちゃん! お父ちゃん!」生命なき巨躯を少年が揺さぶる。「死んじゃダメだ、お父ちゃん! お父ちゃんってばァ!」

(((オヌシ、この者らにハヤトを押しつけ、厄介払いするつもりであったか)))
 ニューロンの奥底からゲン・シンの声が責め立てた。(((ガバナスを挑発して己が怒りを買えば、彼らには塁が及ばぬとでも思うたか!)))

 その声は、リュウの潜在意識が再生する人格エミュレータめいた幻聴であり……彼自身のメンタリティを反映してもいた。
 然り。いま彼は己を恥じていた。過去を厭い、のらりくらりと逃げ続けたあげくがこのザマだ。

 やがて、イサは物言わぬ父から身を離し、立ち上がった。
「ウッ……ウグッ」小さな口を引き結び、嗚咽を堪える。両の瞳は憎悪の炎に燃えていた。涙が幾筋も溢れ、父の返り血に汚れた頬を洗った。トントは少年に寄り添い、顔面に「TT」の文字を灯した。

「オーイ! カミジ=サン!」

 レジスタンスのメンバーとおぼしき男が、息を切らせながら駆けて来た。「ガバナスの奴ら、また反逆者を逮捕したぜ! デーラ人の男だってよ……アイエッ!?」男の胸倉をリュウが掴んだ。
「どこだそのデーラ人は! 案内しやがれ!」「アイエエエエ!」

『これなるデーラ人! ニンジャアーミーへの抵抗および不敬行為により、明朝ベルダ時間0800時に死刑を執行する!』

 耳障りなスピーカー増幅音声を撒き散らしながら、ガバナス宇宙装甲車がコロニー中心街を進む。いかつい車体の後部に繋がれた鎖と鉄枷が拘束するのは、ナムサン……宇宙猿人バルーの両腕だ。
『全住人は0700時までに中央広場へ集合、追加処刑者の抽選に参加せよ! 遅刻・欠席者は無条件で当選とみなし……』

「ARRRRGH! リュウ! 見てるかリュウ!」

 鎖に引きずられながらバルーが吠え、スピーカー音声を掻き消した。黄金色の体毛は乾いた血と砂に塗れ、抵抗の激しさを物語っていた。「こいつァ罠だ! 助けになんざ来るんじゃねェぞーッ!」

「名前出すこたねえンだよ」住宅ユニットの陰で様子を窺いながら、リュウは憮然と呟いた。だがバルーに非はない。リュウが既にガバナスと一戦交えたことを、彼は知らぬのだ。

 イーガーが手ぐすね引いて待ち構えているだろう。いかな宇宙ニンジャといえど、囚われたバルーを単身で救出するのは至難。勝てるケンカに持ち込む手段はあるにはある。だがそれは……。

 装甲車のシルエットは夕暮れの中へ消えた。陰鬱なざわめきが街角に戻る中……リュウは肚を決めた。
「なァ、カミジ=サン」背後に呼びかけると、路地裏の暗がりからカミジが姿を現した。ハヤトが思い詰めた顔で後に続く。

「すまねェ」リュウは頭を下げた。「手前勝手にハヤト=サンを押し付けといて、何言ってンだって話だがよ……」
 カミジは片手を上げて遮った。「彼の力が必要なのですね」アルカイックな笑みと共に、若きニュービーの背中をそっと押し出す。「ならば本人とお話しなさい。行くも残るも、ハヤト=サンの自由意思です」

 ハヤトは数歩踏み出し、リュウを睨むように見た。リュウは苦虫を噛み潰したような顔で、しかし目を逸らさなかった。気まずい沈黙が流れる。

「……行くよ。僕も」

 先に口を開いたのはハヤトだった。「僕もバルー=サンを助けに行く。足手まといにはならない。いざとなったら僕の事は見捨ててもいいから……」
「くだらねェ事抜かすな」リュウはハヤトの頭を小突いた。「俺ァな、ガキを都合良く使い捨てる奴が一番嫌いなんだよ」

 リュウは踵を返し、歩き出した。「アーア、ッたくよォ」フードの上からガリガリと頭を掻き、聞こえよがしの悪態をつく。「ニュービーの面倒見るなんざ、俺のガラじゃねえンだがなァ!」

「エッ?」ハヤトが早足で追いすがった。「どういう意味? やっぱり修行つけてくれるの、リュウ=サン?」
「テメェの身ぐらいテメェで守れるようになンな」リュウは歩きながらぶっきらぼうに答えた。「俺の目の前でくたばられちゃ寝覚めが悪ィだろうが。コトが済んだらカミジ=サンに突っ返すワケにもいかねェしよォ」

「……ハイ!」ハヤトはパッと顔を輝かせた。なおもブツブツとぼやくリュウの正面に回り込み、バネ仕掛けめいた勢いでオジギする。「ヨロシクオネガイシマス、センセイ!」
「俺はセンセイじゃねェよ」リュウはことさらに厳しい顔を作った。「それもこれも、このケンカで死なずに済んだらの話だぜ。キアイ入れろよ」「ハイ!」

 二人の宇宙ニンジャは、闇の中へと消えていった。
「カラテと共にあらんことを」カミジは深々とオジギして、宇宙ニンジャをリスペクトする古式ゆかしいチャントを呟いた。

【#3へ続く】

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