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《分割版#4》ニンジャラクシー・ウォーズ【ファースト・エピソード後編:リアベノーツ・リライズ】

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【#3】←

8 ニンジャ、ニュービー、ドロイド・アンド・アストロピテクス

 赤茶けた平野に整然と組み上げられた軍用モジュール建築群が、昇り始めたばかりの第15太陽・グローラーの光を浴びていた。ガバナス・ニンジャアーミー第7師団の駐留キャンプである。

「離陸準備急げ!」「地上捜索隊集合!」あちこちで号令が飛び、ニンジャトルーパーが駆け足できびきびと行き交う。
 ガゴンプシュー……モジュール格納庫の扉が開き、宇宙戦闘機が現れた。由緒正しき帝国主力機、G6-Ⅱ型「シュート・ガバナス」が反重力ドライブで浮き上がり、滑走路へエントリー。ビーム機銃ステーを放射状に広げ、宇宙スパイダーめいたシルエットを形作る。計3機の編隊だ。

『ザリザリ……第2飛行小隊、離陸準備完了』『了解。離陸支障なし』
 パイロットと管制塔の会話をニンジャヘルム内蔵IRCで拾い、イーガーはほくそ笑んだ。ニンジャソードを抜き放ち、眼前に整列した下級トルーパーの一団に命令を下す。
「貴様らには鉱山コロニーの捜索を命じる! 反逆宇宙ニンジャの一味をしらみつぶしに探せ! 協力を拒む者は同罪とみなし、現行犯処刑を許可……ン?」

 不意に口をつぐみ、イーガーは背後の峡谷地帯に目を凝らした。ZZZZZ……研ぎ澄まされた宇宙ニンジャ聴力が、あらぬ方向から聞こえる異質なエンジン音を捉えたのだ。
「あれは……バカな!」イーガーの顔から血の気が引いた。やおら身を翻し、逆方向へ駆け出す!

「副長!」「イーガー副長、どちらへ!」命令なくして動けぬトルーパー達が直立不動で首を巡らせ、遠ざかるイーガーの背中へ懸命に呼びかけた。
 次の瞬間! ZZZZOOOOOM! 峡谷の隙間から縦長の飛行物体が飛び出した。その正体は、90度近いバンク角で飛ぶリアベ号! 谷間を縫うような超低空飛行で、駐留キャンプの対空レーダー網を潜り抜けたのだ!

「アイエエエエ!」ほとんど垂直のコックピットで、ハヤトは悲鳴をあげた。副操縦席から落ちずにいるのがやっとだ。
「ハッハー! どうしたヒヨッコ!」卓越した宇宙ニンジャ平衡感覚で易々とリアベ号を操りながら、リュウは背後に叫んだ。「相棒!」

「いつでもいいぜェ!」中央船室からバルーの声。樹上生活の猿めいた奇妙な姿勢で、ツインレーザー銃座にしがみついている。トントは脚部の電磁石機構で床に吸着、横倒し状態で電子的ボヤキを発した。『トンダ、シウンテン、ダ(><)』

 船首レーザー機銃のトリガーに指をかけ、リュウは呟いた。
「借りを返すぜ、坊主」

「FIRE!」「WRAAAAAGH!」

 ZAPZAPZAP! BRATATATATA! リュウとバルーはトリガーを引き絞り、駐留キャンプにありったけの光弾を叩き込んだ。モジュール弾薬庫に次々と着弾! KRA-TOOOOOM! 爆発炎上!
「「「グワーッ!」」」無数のニンジャトルーパーが、6インチフィギュアめいて宙を舞う!

 離陸直前のシュート・ガバナスが爆風に煽られ、誘導灯を手にしたトルーパーを巻き込んで互いに衝突! KABOOOOM! 爆発炎上!
「「「グワーッ!」」」無数のニンジャトルーパーが、6インチフィギュアめいて宙を舞う!

「退避ーッ!」「退避せよーッ!」トルーパーを山のように過積載した宇宙装甲車、トレーラー、その他諸々の軍用車両が、燃え上がる格納庫から次々と脱出した。そこにリアベ号のツインレーザー機銃が降り注ぐ! BRATATATATA! KABOOOM! KABOOOOM! 爆発炎上!
「「「グワーッ!」」」無数のニンジャトルーパーが、6インチフィギュアめいて宙を舞う!

「イヤッハー! ざまァ見やがれ!」機体を水平に戻しながら、リュウは操縦席で拳を突き上げた。
「や……やったね、リュウ=サン」青ざめた顔で虚勢めいた笑みを浮かべるハヤトに、リュウはニヤリと笑い返した。「ひでェツラだぜ。吐くなら外でやンな」「だッ……誰が!」「ハッハハハ!」

 ブガーブガーブガー! レッドアラートが鳴り響いた。
 先刻やり過ごした3機編隊が戻ってきたのだ。BEEEAM! BEEEEEAM! 破壊ビームがリアベ号の軍用偏向シールドに阻まれ、閃光を散らした。船体が激しくシェイクされる!「「「グワーッ!」」」『ピガーッ!』

 せわしなく葉巻をふかしながら、バルーが操縦席に顔を出した。
「オイどうする! アレを機銃で墜とすのはちと骨だぞ」「上等だ」リュウはシートから立ち上がった。「宇宙戦闘機の乗り心地、試そうぜ」

「だったら僕も……アイエッ!?」腰を浮かせたハヤトの頭をリュウが抑え、副操縦席に押し戻した。「パイロットスクールのヒヨッコにゃ空中戦は無理だよ。大人しく留守番してな」

 二人は中央船室に消えた。トントと共に残されたハヤトは、ふくれっ面で操縦桿を握った。「何だよヒヨッコって」だが、その手元は実際頼りない。『カワッテ、ヤッテモ、イイゾ』バイタルセンサーで心身の緊張を感知したトントが、言わでもの電子音声を発した。「バカ言え! お前みたいなポンコツに任せられるかよ」『ショック(><)』

 リュウとバルーは宇宙戦闘機のコックピットに身を収め、手早く発進準備を整えた。ZZOOOOM……それぞれの機体のジェネレーターに火が入り、オーバースペック大出力の唸りを上げる。

「お二人さん! 用意はいい?」ハヤトは通信マイクに叫んだ。『おう!』『GRRRR……やってくれ!』
 ガゴンプシュー……船体両翼の係留アームが展開した。ハヤトは操作レバーを握りつつ、思わずシートから身を乗り出した。左の機体にはリュウ、右にはバルーが搭乗済みだ。親指を立てる二人に、ハヤトは子供のように手を振り返した。

 KBAM! KBAM! エクスプロシブ・ボルトが炸裂し、2機を高速射出した。反動でリアベ号の船体が激しく揺れ、「アイエッ!?」ハヤトがシートから転げ落ちた。トントは電磁吸着でびくともしない。『ミトレテ、ナイデ、フネヲ、タテナオ、セ』「いちいちうるさいな!」

「戦闘機なんざ久しぶりだな、リュウよ」「腕は鈍ってねェだろうな」「ぬかせ!」リュウとバルーは軽口を叩きながら宇宙戦闘機を加速させた。
「見てろよ……僕だっていつか!」シートに座り直したハヤトは、遠ざかる2機を見送りながら熱っぽく呟いた。

「カミジ=サン、あれ!」

 イサ少年が指差す夜明けの空を、レジスタンスの男達が一斉に見上げた。彼らはガバナス駐留キャンプの爆発炎上を聞きつけ、取るものも取りあえずアジトに集まっていたのだ。

 見慣れぬ宇宙戦闘機が2機、シュート・ガバナスの編隊に正面から突っ込んでゆく。「無茶だ。どこの誰かは知らんが」カミジが呟いた。3対2。しかも敵機のパイロットは宇宙ニンジャ。彼の目には蛮勇としか写らなかった。

 しかし、BEEEEEAM! シュート・ガバナスから破壊ビームが放たれた瞬間、謎の2機は視界から瞬時に消失した!
 レジスタンスの全員が目を瞠った。「上だ!」誰かが叫んだ。遥か上方、夜の暗さが残る高空へ、イオン・エンジンの輝きが垂直に駆け上がってゆく!

 リュウは宇宙ニンジャ耐G力で、バルーは宇宙猿人の頑強な肉体で、ブラックアウトに抗いつつ笑った。「ハッハァ! こいつァ凄ェや! 宇宙暴走族にでもなった気分だぜ!」「WRAHAHAHAHA!」

 たちまち到達した高高度から、両機は垂直降下に転じた。「イヤーッ!」「ARRRRRGH!」ガバナス編隊直上よりパルスレーザー斉射!  
 ZAPZAPZAP! ZAPZAPZAPZAP! KABOOOOM! シュート・ガバナスの1機が爆発四散した。残る2機は左右に散開。地上すれすれで機首を持ち上げ、リュウとバルーが後を追う。戦闘機同士の背後の取り合い、トモエ・ファイトの開始だ。

 殺人的急旋回で、リュウはシュート・ガバナスにぴたりと食らいついた。「ヌゥーッ!」パイロットトルーパーは宇宙ニンジャ耐G力ギリギリのバーティカルループを連発! だが振り切れぬ!

 リュウ機のUNIXターゲットスコープが敵機を補足した。アスキー文字で描かれた機影に、リュウは凶暴な笑みを浮かべた。「アバヨ」
 ZAPZAPZAP! KABOOOOM! さらに1機撃墜!

「俺もやるぞ! GRRRR!」ZAPZAPZAPZAP! しかし、バルー機のパルスレーザーはシュート・ガバナス隊長機を僅かな差で捉え損ねた。隊長機は過剰加速で振り切り、背後を取り返す!

「ゴボッ……!」フルフェイスメンポの下で吐血しながら、隊長トルーパーは照準モニタに全神経を集中させた。1機。せめて1機でも墜とさねば、たとえ生還できても銃殺刑は免れぬ。

 揺れ動くバルー機のシルエットが、モニタ中央に入った。
「死ね! 非ガバナスの反逆者! 死ねーッ!」その時!「ザッケンナコラーッ!」ZAPZAPZAPZAP! 一瞬早く、リュウのパルスレーザーが後方から隊長機を貫いた。「アバーッ!」宇宙スパイダーめいた機体は黒煙を吐き、炎上キリモミ墜落!

 KABOOOOM……! 乾いた地上に赤黒い炎が噴き上がり、「「「ウオオオーッ!」」」地上のレジスタンスが歓声をあげた。「スゴイ! スゴイ!」イサは両手をバンザイして、ピョンピョンと飛び跳ねた。

 武骨なシルエットの宇宙船が、カミジ達の視界に入ってきた。併走する2機の後ろにつき、相対距離を縮め……おお、見よ! 翼のごとく広げられた係留アームに、宇宙戦闘機が空中ドッキングしたではないか! なんたる航宙術の常識を超越したマニューバか!

 アームを畳んで完全に一体化した船体が、レジスタンスの頭上を悠々と低空飛行した。コックピット内にちらりと見えた人影は……
「アッ! リュウ=サン! ハヤト=サン!」イサは目を剥いて叫び、「オーイ! オーイ!」ちぎれんばかりに両手を振った。

 謎めいた宇宙船は高度を増し、大気圏外へ飛び去ってゆく。
「……リアベ号は3つにブンシンしてガバナスの目を欺き、ジルーシアの地に降りた」カミジは無意識のうちに、地球文明圏に語り継がれる伝説の一節を口にしていた。「その身から分かたれた2機は聖なるリアベの実に導かれ、直径10メートルのトンネルを潜り、邪悪なる惑星大要塞の炉心を貫いた……」

「リアベ号?」「リアベ号だと?」「まさか実在していたとは!」「スゴイ……!」レジスタンスの男達は畏怖に打たれ、互いに熱のこもった眼差しを交わした。
「大いなる宇宙の意思が、第15太陽系に伝説の船を遣わした! 我らの最終的勝利に疑いないぞ!」誰かの声に、「「「ウオオオオーッ!」」」男達は雄叫びをあげ、暁の空に何度も拳を突き上げた。幾人かはその場に跪き、泣きながら祈りを捧げ始めた。
 その様子に、カミジは確信を込めて頷いた。彼らは今この時、真のレジスタンスとして産声を上げたのだ。

「お父ちゃんにも見せたかったなァ」イサが大人びた口調で呟いた。

 ニンジャアーミー旗艦「グラン・ガバナス」の艦長席で、コーガー団長は苦虫を噛み潰したような顔で口を開いた。「第7師団全滅の件ならばとうに把握しておるよ、イーガー!」

「アイエッ」這う這うの体で逃げ帰ったばかりのイーガーは、跪いた身体をびくりと震わせた。
 コーガーの傍らには、クノーイがそ知らぬ顔で控えていた。いつの間に帰還していたのか。そして何を報告したのか。今のイーガーに彼女を問い詰める余裕はない。

「すまん、兄……いや団長。だが今回は相手が悪い。ベイン・オブ・ガバナスが」「バカメ!」コーガーの大音声が弁明を封殺した。「リアベ号とその乗組員どもを始末するまで、ここに戻ってくる事は許さぬ!」

「ピガーッ!」「ピガガーッ!」ブリッジクルーが頭部から火花を散らしてバタバタと昏倒した。サイバネ化及び自我漂白されてなお、ニューロンがコーガーの怒気に耐えかねたのだ。
 イーガーは顔を伏せたまま、こめかみに血管を浮き上がらせ、ギリギリと噛み締めた奥歯の隙間から声を絞り出した。「ハイ……ヨロコンデー……!」

 ガゴンプシュー……憤然と退出したイーガーの背後で、ブリッジの自動ドアが重々しく閉じた。
「フゥーッ」コーガーは艦長席に身をもたせかけ、嘆息した。「クノーイ=サン」「ハッ」「オヌシも行け。イーガー副長を補佐せよ」
 兄として精一杯の譲歩だった。「ヨロコンデー」クノーイは淡々と答え、次の瞬間には姿を消していた。

 宇宙ニンジャ、若きニュービー、万能ドロイド、宇宙猿人。三人と一体のクルーを乗せたリアベ号が、無限の大空間を慣性飛行で巡航する。

「これからどこに行こうか、船長!」ハヤトが尋ねた。
「船長? 船長ねェ」まんざらでもない様子で主操縦席にもたれるリュウのニューロンに、ゲン・シンの声が割り込む。(((インストラクションを忘れるでないぞ、ナガレボシ=サン)))(そのうちな。いま気分がいいんだ。邪魔すンなよ)(((なんたる言い草か!)))(ハイハイ)

 亡きセンセイの声音からは、心なしか苛烈さが薄れていた。受け流すリュウにも、ある種の余裕あるいは覚悟が生まれていた。両者は長い付き合いになることだろう。

「そうさなァ……第1惑星シータなら、まだガバナスの手も及んでねェかもな」「シータか」リュウの言葉にバルーは目を輝かせた。「俺達デーラ人の故郷だ。いい星だぜ。メシもうまい」『トントハ、メシヲ、クワナイ』「なら黙ってろポンコツ!」「一言多いなァ、お前」ハヤトが呆れ顔でドロイドを振り返る。

「よォし、シータに針路を取る」リュウは逞しい腕で操縦桿を握り直した。「了解! ガバナスからシータを守ってやろうよ」『オオキク、デタナ』「GRRRR……それでこそ真の宇宙の男だ」

 ZOOOOM……リアベ号は加速を開始した。
 宇宙帆船の船窓越しにそれを見送り、宇宙美女ソフィアはアルカイックな微笑を浮かべた。鍵盤楽器めいたコンソールに細い指を滑らせ、神秘的な電子操作音を奏でる。

 白銀の宇宙帆船は光子セイルを一瞬煌めかせ、しめやかに三次元空間から消失した。


【リアベノーツ・リライズ】終わり


マッシュアップ音源
「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」
第2話「恐怖! 忍者兵団」

「ニンジャスレイヤー」


セルフライナーノーツ

スロースターター:TVショウ第1話のオープニングから活躍するカッコイイ宇宙ニンジャ、“流れ星”と“まぼろし”。だが本編では4話になるまでその勇姿を拝めず、2人揃うのはなんと6話からだ。全27話しかないのに!
 いささか立ち上がりが遅すぎる。そこでマッシュアップ元の「ニンジャスレイヤー」に倣い、本マガジンはカットアップ方式を採用、オリジン・エピソードを後回しにしました。

子供が人質になるシチュエーション:当時の特撮TVショウの傾向でもあるが、実際多い。今後もちょいちょい出て来ます。

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