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《分割版#1》ニンジャラクシー・ウォーズ【ファースト・エピソード後編:リアベノーツ・リライズ】

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5 スリケン・ショウダウン

 謎の宇宙美女・ソフィアとハヤトの邂逅から、数日が経過していた。

 第15太陽系、第3惑星ベルダの炎天下。鉱山コロニーの中央広場に集められた数百人の住民は、重苦しい沈黙に沈んでいた。ある者は暗い顔を伏せ、またある者は怒りに歯を食い縛る。親達は子供の目を塞ぎ、眼前の悲惨な光景を見せまいとした。

「「アイエエエエ!」」「ヤメテ! 殺さないで!」「何かの間違いです!」「俺達が何をしたって言うんだ!」
 後ろ手に縛られて泣き叫ぶ男は計4人。ガバナス帝国のニンジャトルーパーが横一列に並び、宇宙ライフルの狙いをつける。男達の背後には巨大な穴が掘られ……ナムサン……辛うじて人体とわかる炭化した死骸が折り重なっていた。

「何をしたかだと?」装甲車のハッチに腰掛けた宇宙ニンジャが憫笑した。ミリタリーニンジャ将官装束と角付きニンジャヘルムに身を固めたその男こそ、ガバナスニンジャアーミー副長、ニン・イーガーである。
「バカめ。何もしてないから見せしめになるんだろうが」「「「「アイエッ!?」」」」

「撃てーッ!」

 イーガーが右手を振り下ろした。ZIZZZZZZ! 宇宙ライフルが花火めいたエネルギー弾を撒き散らし、「アバーッ!」「アババーッ!」「「アバババーッ!」」男達を瞬時に黒焦げにした。死体は背後の穴に転げ落ち、たちまち他と区別がつかなくなった。ナムアミダブツ……!

 人々が凍りつく中、「ハッハハハハ!」イーガーの高笑いが響いた。
「見たか愚民ども! 貴様らが鉱山の接収に抵抗したから、こいつらは犠牲になったのだ!」腰のニンジャソードを抜き、穴の中の死体を指す。「陳情2件、不服従1件、サボタージュ1件! よって計4人を追加で処刑した!」
「「「「「アイエエエ……!」」」」」完全武装のニンジャトルーパー部隊に包囲された群衆は、その場で微かな悲鳴を漏らすしかなかった。

「アノ、イーガー副長」装甲車の傍らに立つ簡素なミリタリー装束の男が、弱々しく抗議した。「我らガバナスの占領下に入った以上、原住民は貴重な人的資源です。願わくば寛大な処置を」
「ア? 何を言っている。久々の地上侵攻だぞ」イーガーの目がカミソリめいて細まった。「せっかくの楽しみに水を差すな。非宇宙ニンジャの事務官風情が」「アイエエエ……申し訳ありません」男はしめやかに失禁した。

「最初だから手加減してやったのだ。今後は……ンー、そうだな」イーガーはニヤニヤと思案した。「10人だ! 反逆行為1件につき、10人を追加処刑する! 肝に銘じておけ!」
「「「「「アイエエエ……!」」」」」

「なんて奴らだ!」中央広場に程近い建物の陰で、青年宇宙ニンジャ、ゲン・ハヤトは拳を固めた。当世風のスマートな宇宙ファッションは、砂埃にまみれた宇宙民族衣装の下に隠されている。

 苛酷なるワンマンオペレーション航海を経て惑星ベルダに降りた時、地上は既にガバナスの占領下にあった。人目を避け、無人の焼け跡を転々として、ようやく辿り着いたこのコロニーも例外ではなかった。しかも占領部隊の指揮を執るのはイーガー副長……父母と妹のカタキ!

 怒りのまま駆け出したハヤトの足元に、何者かの足が突き出された。「グワーッ!」転倒したハヤトは弾かれたように身を起こし、カラテを構えた。「誰だ!」

「慌てなさンなよ、ニュービー」物陰から人影が歩み出た。ジュー・ウェア風ジャケットの上から宇宙民族衣装を纏ったその男は、見覚えのある微笑を浮かべていた。

「リュウ=サン! 無事だったの?」ハヤトの顔が輝いた。「無事だったのじゃねェよ。俺らを脱出ポッドで放り出したのはテメェだろうが」リュウはハヤトの頭を張った。「おかげでシータにゃ行けねェわ、相棒とははぐれるわ、散々だぜ」

「ゴメン」ハヤトはうなだれた。「あと、アンタ達の船も」「ア? アレはいいさ。ボロ船一隻で命が助かるなら安いモンよ……もっとも」リュウの目がすっと細くなった。「せっかく拾った命をドブに捨てようってンなら、話は別だがな」
「エット、何の事だか」ハヤトは視線を泳がせた。「とぼけやがって。お前いま、ガバナスの連中にカチコミかける気だったろ」「それは」

「お前一人であそこに飛び込んで、イーガー=サンを殺れるか? 殺れねェよなァ。スペースモスキート・ダイビング・トゥ・ベイルファイアだぜ」やれやれといった調子でリュウは首を振った。「だったらリュウ=サンも一緒に!」「ヤなこった。俺ァ勝てるケンカしかやらねェ主義でね」

 リュウはぶらぶらとコロニーの方角へ歩き出した。ハヤトが毒気を抜かれた顔で後を追う。「リュウ=サンはどうするの? これから」「ア? 相棒を探すンだよ」「その後は?」「知るか。今日のメシにありつけるかどうかもわかんねェってのによ」

「アノ、だったらさ」ハヤトは早足でリュウに追いすがり、思い切って切り出した。
「だったら……僕とリアベ号に乗らないか? ガバナスと戦うために!」

 恐るべき処刑セレモニーから解放された鉱山コロニーは、サツバツたる喧騒に包まれていた。

 ニンジャトルーパーに連行されて鉱山へ向かう男達の顔は、ゾンビーめいた土気色。目の下には一様に深い隈があった。「アイエエエ眠い……」「もう24時間シフトは嫌だ……死んじまうよォ……」ブツブツと呟きながら、リュウとハヤトの前を通り過ぎていく。

 泣き叫ぶ子供を背負い、夫を探す母親。接収を免れたなけなしの物資を奪い合う若者。路地裏に目をやると、家財道具を宇宙リヤカーに山積みにした一家が、鉱夫仲間の前で泣きながらドゲザしていた。
「見逃してくれ! 一生のお願いだ!」「ダメだ! 夜逃げ1件で10人処刑されるんだぞ!」「自分さえよければいいのか!」「連帯責任!」「アイエエエエ……」

「ひでェもんだ」
 もぬけの殻の住宅ユニットに寄りかかり、相場の5倍でようやく買い求めた宇宙バッファロージャーキーを咀嚼しながら、リュウはぼんやりと先刻の会話を思い出していた。

(……フーン。で? そのソフィア=サンってのは、女か)(ウン)(美人か)(今まで見たこともない)(そいつァいいや。今度俺にも紹介してくれよ)(アッ、信じてないだろ! ソフィア=サンもリアベ号も実在するんだよ! 現に僕はこうして)(わかったわかった)

 謎めいた宇宙美女と、かつてガバナスを滅ぼした伝説の船。宇宙の男の与太話にしても、ハヤトの語った内容はいささか胡乱に過ぎた。
 だがあの時、リュウも確かにその場にいた。サイケデリックな金色の光を目撃し、時空のざわめきを肌で感じたのだ。真偽いずれとも判じかね、リュウは難しい顔で腕を組んだ。

 悲痛な面持ちで人々を見つめるハヤト。その袖を引く者があった。
「お恵みを……哀れなトシヨリにお恵みを……」老衰か病か、顔の半分が爛れた老婆が、魔女めいた杖にすがってハヤトに哀願する。

「ゴメン、これしか持ち合わせが」懐から数枚の銀貨を取り出すハヤトの首根っこを、リュウが鷲掴みにした。「アイエッ!?」「やめとけ」そのままズルズルと引き離す。
「ちょッ……放してよリュウ=サン! 可哀想じゃないか!」「敵に恵んでやるこたねェよ」「敵?」「振り向くな。歩け」

「……」去りゆく二人の背中を鋭い目で見送った老婆は、おもむろに杖を投げ捨て、顔面をベリベリと引き剥がした。
 人工皮膚の下から、美しい女の顔が現れた。薄汚れた宇宙民族衣装が脱ぎ捨てられ、曲がった腰が伸び、パープルラメのレオタードめいたニンジャ装束が露わになる。

「あの男、私のフェイス・オフ・ジツを見破るとは……」ニンジャアーミー諜報部門の長・クノーイは舌打ちした。そのバストは豊満であった。

 バルーの消息を掴めぬまま、リュウとハヤトはコロニーの外縁部までやって来た。随分と歩き回り、聞き込みも行ったが、確たる情報は得られずじまいであった。

 不意に立ち止まったハヤトを、「ン?」リュウが不審げに振り返った。
 ハヤトが睨みつける先はジャンクヤード。そこに集う男達の一団に、尊大な足取りで近づくガバナス将官の姿があった。イーガー副長だ。

「またかよテメェ」リュウはハヤトの肩を掴んだ。「妙な気を起こすなっつッたろ?」「でも、イーガー=サンがあそこに!」「今はやめとけ。何度も言わせンな」「でも!」

 ハヤトは涙を堪え、拳を震わせた。リュウは渋い顔で腕を組み……「しゃあねェな」ヨタモノめいて片頬で笑った。「俺があのクソ野郎に一泡吹かせてやるよ。今日のところはそれで我慢しろや」

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 ザクッ! ザクッ! 銅鑼めいて吊るされた巨大な木製円盤に、鉱山コロニーの男達が宇宙ナイフを投げる。円盤にはターゲットめいた同心円が描かれ、既にナイフが何本も突き立っていた。

 リュウは何気なく近づき、鉱夫の一人に話しかけた。「ドーモ。何やってんのアンタら」「ドーモ。見ない顔だな。新入りか」「まァね」

「あいつの所有権を賭けた勝負だよ」男が指差す先、円盤のすぐ横に、子供ほどの背丈のドロイドが鉄鎖で拘束されていた。
 人体を戯画化したような特異な形状のボディは、いにしえの万能ドロイドの証だ。地球との交易が途絶え、テクノロジーが後退した第15太陽系において、これほどのドロイドを製造できる者はもはや存在しないだろう。

「あいつはコロニーの共有財産なんだが……ガバナスに献上したら何らかの便宜を図ってもらえるんじゃないかって、誰かが言い出してね。で、奪い合いさ」

 カーン! 宇宙ナイフがドロイドの球形の頭部に当たり、クルクルと宙を舞った。サイバーサングラスめいた顔面LEDプレートに「 \ / 」の文字が灯る。『ヘタクソ。デナオシテ、コイ』

「「「ハッハハハハハ!」」」鉱夫の一団が爆笑した。ナイフを外した中年男は、真っ赤な顔でドロイドを睨んだ。「生意気抜かすなトント! 俺が勝ったら、お前を鉄クズにして売っ払ってやったところだ!」『カッテダ。ニンゲンハ、カッテ、スギル』

「同感だな」

 万能ドロイド・トントの電子的ボヤキに応える声があった。イーガー副長が歩み出ると、男達は表情を強張らせ、一瞬で静まり返った。
「先程から見ていたが、ドロイド一体差し出して楽をしようという貴様らの心根が気に食わん。非ガバナスの屑どもが考えそうなことだ……そこで」

 言うが早いか、「イヤーッ!」イーガーは軍用クナイ・ダートを投擲! クナイは円形ターゲットの中心を貫通し、そのまま背後の岩壁に突き立った! ブルズアイ!
「ハッハハハハ! これで俺の優勝だ。つまりドロイドも俺のもの!」

『アンナ、オトコノ、モノニ、ナリタク、ナイ(TT)』トントの電子的悲嘆に応える者はいない。
「ありがたく思え。屑どもの下等な争いに、このイーガー副長自らケリをつけてやったのだ」イーガーは勝ち誇った顔で一同を見回した。「よもや異議を唱える者はおるまいな? ン?」

「異議あァり!」

 素っ頓狂な大声が沈黙を破った。
 群衆が左右に割れ、懐手のリュウが歩み出した。ハヤトが険しい顔で後に続く。「誰だアイツ」「余計な事を」「よそ者だ。俺らにゃ関係ねえ」男達は卑屈な囁きを交わした。

「貴様ら、あの時の……!」「ドーモ、リュウです。俺とも勝負してくれよ」「ドーモ。ニンジャアーミー副長、イーガーです。勝負だと?」アイサツを返すイーガーの目が殺気を帯びた。

「宇宙ニンジャが勝負する以上、それはイクサだ。貴様が負けたらタダでは済まさんぞ」「上等だ。俺が負けたら、死ぬまでアンタの奴隷になってやるよ」「ほほう」権力欲を絶妙にくすぐる申し出だ。

 ただならぬアトモスフィアに、コロニーの男達は固唾を飲んで見守った。どこからか転がって来た宇宙タンブルウィードが、ベルダの乾いた風に乗ってカサカサと横切った。「「アイエエエ……」」SNRS(宇宙ニンジャリアリティショック)に見舞われた数人が、しめやかに失禁した。

 リュウは懐から金貨を取り出した。
「コイン・シューティング。一発勝負」「よかろう。俺は二丁当てだ」

 イーガーの返答にリュウは頷き、「イヤーッ!」金貨を空高く放り上げた。「イヤーッ! イヤーッ!」イーガーは目にも止まらぬ速さで軍用クナイ・ダートを投擲!
 落ちてきた金貨をリュウがキャッチすると、宣言に違わず2本のクナイ・ダートが突き刺さっていた。観衆の間にどよめきが走る。

 リュウは涼しい顔で新たな金貨を取り出した。
「貴様が持ちかけた勝負だ。引き分けは認めんぞ」イーガーは片手を差し出した。「貸せ。俺が投げてやる」「いいよ。三丁当てで勝ちだろ? 軽いモンさ」「何ッ?」

 リュウはニヤリと笑い、自ら金貨を投げ上げた。すかさず「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」目にも止まらぬ速さで宇宙スリケンを投擲!

 金貨が落ちてくるには数秒を要した。
 イーガーがキャッチした金貨には、宣言に違わず3枚のヤジリ型宇宙スリケンが突き刺さっていた。そして、見よ! 3枚のスリケンは完璧に等角度を成し、神秘的な正三角形を作っているではないか!
「ゴウランガ……」ハヤトは目を見開き、呆然と呟いた。

「「「ワオオオーッ!」」」一瞬遅れて観衆が沸く中、イーガーのこめかみに血管が浮かんだ。「ヌゥーッ……!」
「ゲン・シン=センセイなら、四丁当ても楽勝だったぜ」リュウは挑発的に笑った。「俺に負ける程度のワザマエでセンセイが殺れるかよ。部下にアンブッシュでもさせたんじゃねェの? ン?」

「よ……よかろう!」全身をわなわなと震わせつつ、イーガーは辛うじて己を制した。「今回は負けを認めてやる。だが貴様は必ず、俺のカラテで殺してやるぞ!」
「覚えてる自信ないぜ」リュウはトントに屈み込んだ。『ワタシハ、ドウナル、ウンメイデ、ショウ』「知るか。好きにしな」外された拘束鎖が地面に落ちる。

「ンじゃ、イーガー=サン。オタッシャデ」

 悠然と去るリュウを、ハヤトは畏怖の表情で追った。キュラキュラキュラ……車輪走行のトントが後に続く。
 だがイーガーは動けない。宇宙ニンジャが同意のもとに勝負して、決着がついたのだ。それを無視して攻撃を仕掛ければ、兄・コーガーの名誉すら毀損するほどのスゴイ・シツレイとなろう。

「貴様ら何を見ている! 解散せんかーッ!」「「「アイエエエ!」」」
 イーガーに怒りの矛先を向けられ、蜘蛛の子を散らすように逃げる鉱夫達。その中に数人、明らかに目つきの違う者が混じっていた。彼らは鋭くアイコンタクトを交わし、注意深くバラバラに走り去った。

 ジャンクヤードに静寂が戻った。「フゥーッ……」イーガーは深呼吸してメンタルを回復し、振り向かずに言った。「で? いつからそこにいた、クノーイ=サン」

 背後にはいつの間にか、妖艶な女宇宙ニンジャが跪いていた。「つい先刻ですわ。何かありましたか」「いや、別に」
「お耳に入れたいことが」クノーイはイーガーの耳元に口を近づけた。赤く濡れた唇が何事かを囁く。

「そうか。実は俺も、あの二人の宇宙ニンジャの存在には気付いていた」先程の敗北などなかったかのような顔で、イーガーは頷いた。「さすがは副長閣下」クノーイの返答は如才ない。

「奴らの機先を制する事だ。目を離すなよ」「ヨロコンデー」

【#2へ続く】

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