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《分割版#3》ニンジャラクシー・ウォーズ【ファースト・エピソード後編:リアベノーツ・リライズ】

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【#2】←

7 オペレイション・ジェイルブレイク

 ベルダ時間のウシミツ・アワー。ガバナスの支配下に置かれた鉱山コロニーは、無慈悲なる24時間シフトを課せられた採掘エリアを除き、死んだように静まり返っていた。日没後の消灯遵守。シフト労働者以外の夜間外出禁止。強制収容所めいたアトモスフィアが街並みに立ち込める。

 コロニー南端、闇に閉ざされた岩場の一角を、強烈な白色光が切り取っていた。ガバナス宇宙装甲車の投光器だ。光が照らすのはワンマンサイズの鉄檻。宇宙猿人バルーの巨躯がその中にうずくまり、溜息まじりに呟く。

「アーア、俺もいよいよ年貢の納め時か」

 耳ざとく聞きつけた歩哨トルーパーが近づき、宇宙マシンガンの銃把で鉄檻をガンガンと叩いた。「私語を慎め反逆者!」
「ARRRRRGH! うるせェブッ殺すぞ!」バルーは歩哨トルーパーに牙を剥き、鉄格子を掴んで激しく揺さぶった。「アイエッ!?」野獣めいた形相に歩哨トルーパーは飛び退き、失禁を堪えた。

「……チッ! どうせ朝までの命だ。今のうちにせいぜい吠えておけ!」

 取り繕うように毒づき、持ち場へ戻るトルーパー。そのわずか数メートル先……光と闇の境界ギリギリに、ジュー・ウェア風ジャケットに身を包んだリュウが潜んでいた。さらに後方、岩場の高みからハヤトが目を凝らす。

 リュウがハンドサインを出した。ブリーフィング通りだ。ハヤトは頷き、懐からケムリダマを取り出した。先刻交わした会話が脳裏に蘇る。

(実際時間がねェ。いまお前にくれてやれるのは、簡単なインストラクション一つだけだ。そこの石を拾え)(ハイ)(石コロでもケムリダマでも同じだ。お前が投げた得物は、お前自身の延長だ。物理法則で繋がってる。そいつを投げて、あの岩に当ててみろ)(ハイ。イヤーッ!)……

(なんで外れたかわかるか。繋がりが弱いからだ。ベルダの物理法則を身体に刻み込め。重力とか空気とか、アー、そういうやつな)(ハイ)(お前の石にお前のカラテを籠めて、投げて、あの岩を殴れ。時間まで練習しろ。めいっぱいな)(ハイ、センセイ!)(俺はセンセイじゃねェよ)

 束の間のインストラクションを反芻したハヤトは……「イヤーッ! イヤーッ!」決断的にケムリダマを投擲した!
 KBAM! KBAM! 狙いあやまたず、檻の周囲に着弾! 閃光と色とりどりのスモッグが撒き散らされ、「敵襲! 敵襲だーッ!」歩哨トルーパーが浮足立つ! ハヤトは闇の中でガッツポーズを作った。(ヤッタ!)

 煙に紛れ、リュウは素早く鉄檻に駆け寄った。「イヤーッ!」電子ロックを一息に超振動切断! SLAAASH!
「リュウか!」バルーはたちまち生気を取り戻した。鉄格子の扉を蹴破るや歩哨トルーパーに飛び掛かり、「AAAAAGH!」首の骨を捻じり折る!「アバーッ!」「オイそんな奴ほっとけ! ズラかるぞ!」リュウがバルーの後頭部を張った。

 二人は谷間に沿って駆けながら、肩をバンバンと叩き合った。
「ハハハハハ!」「WRAAAHAHAHA! 来るなと言ったろうがテメェ!」「バッカヤロー! 宇宙の男はダチを見捨てねェんだろ!」「違ェねえ! WRAHAHAHA!」

 だがその時。「マッタ!」闇からの声が二人の足を釘付けた。

「貴様らはラット・イナ・バッグだ、リュウ=サン!」
 イーガー、クノーイ、そして無数のニンジャトルーパーが現れ、二人を包囲した。「ドーモ。イーガーです」「ドーモ、はじめまして。ニンジャアーミー諜報部門長、クノーイです」

「はじめましてじゃねェよな、クノーイ=サン」四方を囲まれてなお、リュウは不敵に笑った。「アンタ昼間のババアだろ? うまく化けたモンだぜ。いや、ババアが美人に化けてンのかな」
「アイサツせよ!」「おっかねェ顔すンなよイーガー=サン。ドーモ、リュウです」リュウはヘラヘラとオジギしつつ……背中に回した手で第2のハンドサインを送った!

「イヤーッ!」

 KABOOOM!「「グワーッ!」」イーガーの背後でニンジャトルーパーが爆風に吹き飛ばされ、宙を舞った。「何ッ!?」

「ドーモ、ゲン・ハヤトです! イヤーッ! イヤーッ!」
 ハヤトはハンドサインに従い、岩場の上からバクチク・グレネードを次々と投擲した。ケムリダマと共にリュウから託された武器である。
 KABOOOOM!「グワーッ!」KABOOOOOM!「「グワーッ!」」バクチクを投げるほどに、ハヤトの狙いは研ぎ澄まされていった。トルーパーの五体が次々とちぎれ飛ぶ!

「AAAAAGH!」バルーは乱れた包囲網に突進し、肩から背中にかけてを叩きつけた。宇宙猿人ボディチェック! トルーパー数人を暴走宇宙トラックめいて跳ね飛ばし、活路を開く!
「デカシタ相棒! 走れーッ!」「ガッテン! WRAAAAGH!」「イーガー=サン、オタッシャデー!」

 リュウとバルーの逃走を見届け、「イヤーッ!」ハヤトは最後のバクチクをイーガーの眉間に投げつけた。せめてもの怒りを込めて。
「コシャクな! イヤーッ!」イーガーはクナイ・ダートで空中のバクチクを射抜いた。至近距離で起爆! KABOOOOOOM!

「アバッ……」「アバババッ……」爆炎に焼かれてのたうち回るニンジャトルーパー達。イーガーはその中で怒りも露わに立ち上がり、我が身を包む対爆ニンジャマントを翻した。
 その瞬間、「イヤーッ!」流麗な回転ジャンプで、イーガーの頭上を飛び越える影があった。ハヤトだ! 着地と同時に駆け出し、リュウ達の後に続く!

「追えーッ!」イーガーは反射的に叫んだ。
「「「ヨ、ヨロコンデー!」」」傷の浅いトルーパーが一斉に駆け出すも、数歩も行かぬうちに地を転げ悶絶!「「「グワーッ!」」」
「これは!」宇宙ニンジャ第六感がイーガーの足を止めた。地面には無数の禍々しきトゲの塊。それがミリタリー宇宙ニンジャブーツを貫通し、トルーパーの足の裏に深々と突き刺さっていた。ナムサン! 非人道兵器・宇宙マキビシである!

 リュウが宇宙マキビシをばら撒くことを、ハヤトは事前に知っていた。故に回転ジャンプで越えた。ブリーフィング通りだ。三人が無事逃げおおせるための、これが最後の一手だった。

 まんまと足止めを食らったイーガーは、「貸せッ!」傍らのトルーパーから宇宙マシンガンを引ったくり、闇の中へ光弾を撒き散らした。BRATATATA! BRATATATATA! ……手応えなし。既に足音も聞こえない。

「ヌゥーッ……!」

 イーガーは憤怒を抑えた。たかが三人、まだ手はある。
「総員、駐留キャンプに帰還せよ! 夜が明け次第、シュート・ガバナス編隊で捜索を開始する!」

 日の出前のキャニオン地帯。切り立った岩壁に挟まれて、戦闘宇宙船リアベ号は薄明の中に武骨なシルエットを浮かび上がらせていた。

「マジかよ」アンティークめいた船体を見上げ、リュウは呟いた。彼はつい先刻までこの船の存在を、半分……いや、九割方疑っていたのだ。ハヤトの道案内に従ったのは、当面の行き先が思いつかなかったからに過ぎない。

 ガゴンプシュー……ハヤトは外部操作でタラップを開いた。「リュウ=サン、バルー=サン! 早く乗って!」
 二人は顔を見合わせた。「一体どうなってる、リュウよ」「知るか」リュウは肩をすくめた。

 ピボッ。操縦室の片隅に陣取る万能ドロイドの顔面に「WELCOME」の文字が流れた。『ドーモ。ノリクミインノ、トント、デス』
「オイオイ、なんでまたコイツがいるンだよ」うんざりと首を振るリュウに、ハヤトは屈託なく答えた。「僕が来るように言ったんだ。きっと役に立つと思ってさ」「この野郎いつの間に」『センチョウ、ダッテ、ツトマルゾ( Λ Λ )』

「アッソ。そいつァ頼もしいな……ン?」
 軽口を叩きかけたリュウの目が、船内設備群に吸い寄せられた。バルーの脇腹を小突く。「見ろよ、相棒」「ああ。こいつァたまげた」

 サブジェネレーター、シールド発生機、広域レーダー、ツインレーザー機銃……それらが所狭しと増設され、ペイロードの浸食と引き換えに、機動力と戦闘力を軍用機以上に引き上げていた。宇宙カネモチの道楽めいた、贅沢極まるカスタマイズだ。

 それだけではない。船体を含めた全設備が少なくとも数百年前の年式で、かつ新品だった。第一次宇宙開拓時代のロストテクノロジーが、経年劣化ゼロの状態で目の前にあるのだ。船ごと異次元からPOPしたのでもない限り、存在の説明がつかぬ。
「どう? ゴキゲンな船だろ」胸を張るハヤトに、「ああ」リュウは苦笑混じりに答えた。「最高にイカれてるぜ」

「オイ、ハヤト=サン。何だこりゃ」バルーが指差したのは、中央船室に飾られた「山」「空」「海」のショドーの両端。あり得ない位置に設置された二つのコックピットだ。
「宇宙戦闘機がくっついてるのさ。それも2機! 分離合体して戦うんだ!」「WRAAHAHAHA! ますますイカれてらァ」バルーは呵呵と笑った。

 BEEP! BEEP! その時突然、船内に鋭い電子音が鳴り響いた。イエローアラート!

 三人は再び操縦室に駆け込んだ。『テッキ、ジョウクウ、ヲ、ツウカチュウ』トントの顔面を「WARNING」の文字が流れる。リュウはキャノピー越しに上空を窺った。宇宙スパイダーめいた機影が3つ、こちらに気付かぬまま遠ざかってゆく。『ワレワレヲ、サガシテ、イルゾ』
「フーン……」思案するリュウの目に、悪童めいた光が宿った。

「よォし! 一丁、リアベ号とやらの試運転といくか」
 リュウは主操縦席に座り、てきぱきとコンソールを操作した。宇宙の男の豊富な経験と鍛えられた宇宙ニンジャ洞察力をもってすれば、初見の船の操縦など造作もない。
 ZZZOOOOOMMM……! 大出力イオン・エンジンが目覚め、計器類に光が灯る。副操縦席のハヤトは形ばかりに操縦桿を握りながら、リュウの一挙手一投足をニューロンに刻み付けようとした。

 ゴンゴンゴンゴン……イオン・エンジンの垂直噴射で、リアベ号はしめやかに上昇を開始した。

「トント、この辺の地図を出せるか」『ダス』
 ピボッ。自身を船体に直結させたトントのUNIX操作で、コンソールのグリーンモニタが点灯した。リュウの指が画面をなぞり、敵機の飛び来たった方角を辿る。その先には平野が広がっていた。相当に広く、かつ鉱山コロニーに近い。ニンジャアーミーの駐留地としては絶好のロケーションだ。

「どうする気だ、相棒」バルーは懐から宇宙葉巻を取り出し、鋭い牙で噛み切った。「言ったろ? 試運転だよ」リュウは愉快そうに答えた。
「ちょいとハードに行くぜェ」

【#4へ続く】

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