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《分割版#1》ニンジャラクシー・ウォーズ【フォー・ア・フュー・スクリューズ・モア】

◆はじめての方へ&総合目次◆
◆全セクション版◆

この宇宙に人類が生き続ける限り、決して忘れてはならない事がある。
本テキストは70'sスペースオペラニンジャ特撮TVショウ「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」とサイバーパンクニンジャアクション小説「ニンジャスレイヤー」のマッシュアップ二次創作であり、(株)東映、石ノ森章太郎=センセイ、ボンド&モーゼズ=サン、ほんやくチーム、ダイハードテイルズとは実際無関係という事だ! ただしリスペクトはある!


 雲のない空の下に、乾いた荒野が広がっていた。地平線の向こうに低く折り重なった山々を、空気遠近法が黄土色から青へのグラデーションに染め上げる。ここは第15太陽系、第1惑星シータの西部開拓ゾーン。かつて宇宙レアメタルの宝庫として束の間の活況を呈し、夢破れた者達に見捨てられた一帯だ。

 風は凪ぎ、宇宙タンブルウィードすら転がらぬ中、三つの人影が黙々と歩き続ける。ジュー・ウェア風ジャケットの逞しい男、カーキ色のポンチョを纏うスマートな青年、そして身長7フィート超の宇宙猿人・デーラ人。彼らの遥か後方には武骨な戦闘宇宙船が横たわり、地表に長々と不時着跡を晒していた。

【フォー・ア・フュー・スクリューズ・モア】

◆#1◆

 ガゴン! 内側から扉を押さえていた木棚が倒れ、埃がもうもうと舞い上がった。そこに陽光が差し込み、光の帯を幾筋も浮かび上がらせる。「COUGH! COUGH! GROUGH!」逆光の宇宙猿人が、咳き込みながら暗がりに踏み込んだ。残る二人が後に続き、機械油が臭う室内を見回す。

「苦労して来てみりゃ、何だいこりゃア」ジュー・ウェア男は足元の工具キャビネットを蹴飛ばした。窓の鎧戸は固く閉ざされ、大小様々な工作機械が手入れする者もなく錆を浮かせている。「その男、ホントに頼りになンのか? ハヤト=サン」男は青年に尋ねた。「ダンテ=サンだかタロス=サンだか……」

「メロス=サンだよ! GRRRR」宇宙猿人が長身を震わせた。「シータ星きっての暴れ者さ。俺ァあいつと一度大ゲンカしてよ、危うくバラバラにされかけて……」「昔の話だろ、バルー=サン」ハヤト青年は宥めるように言った。「今は凄腕の機械職人ギアスミスで、三人の子供の父親なんだ。きっとリュウ=サンも気に入るよ」

「その職人の工房がこの有様じゃ、会ったところでムダかもわからんぜ」リュウと呼ばれた男はぼやきながら、ジュー・ウェアの懐から金属片を取り出した。掌上で光るそれは、バラバラに砕けた極めて複雑な形状のネジだった。「コイツの代わりを調達できなけりゃ、リアベ号はシータで立往生だってのによォ」

 ……時間は数日前に遡る!

 BEEEAM! BEEEEAM! ガバナス・ニンジャアーミーの主力戦闘機「シュート・ガバナス」の3機編隊が、シータ上空の宇宙貨物船に破壊ビームを浴びせた。KABOOM! 民生仕様の偏向シールドはたやすく突破され、積載タンクの一つに大穴が開いた。SPLAAAASH! 噴き出す飛沫が高空に虹をかける。

「水だ!」戦闘宇宙船リアベ号の副操縦席で、ハヤトが望遠モニタを指差した。「妙だな。砂漠以外は水源の豊富なシータに、なんでまた水の輸送船が……」BEEPBEEP! 宇宙猿人バルーの呟きを無線着信音が遮った。『ザリザリ……こちらは輸送船ウォーター=マル! 貴船はそれ以上近付くな!』

「バッカヤロー!」リュウがマイクを掴んで叫んだ。「テメェらのSOSを受信したからすっ飛んで来たンだろうが! 待ってろ! いま助けに……」『残念ながら、本船はもう手遅れだ』ノイズ混じりの通信音声には、死を覚悟した者の冷静さがあった。『救難信号を出した理由は別にある』

『ガバナスが撤退したら、本船の残骸からタンクを回収してくれ。そして一つでも多く西部の銅山コロニーに届けてほしい。あの町は今……グワーッ!』通信はそれきり途絶した。ZZOOOOM……モニタ内のウォーター=マルが、ブリッジから火を噴きながら堕ちてゆく。

 BEEEAM! BEEEEAM! シュート・ガバナス編隊はその周囲を旋回し、念入りにタンクの破壊を続けた。瀕死の獲物を弄ぶ宇宙オルカの群れめいて。KABOOOM! ついに輸送船は爆発四散を遂げた。百数十トン超の水がむなしく霧散するさまに、「クソッ!」「GRRRR……!」ハヤトとバルーは歯噛みした。

 リュウは振り返って叫んだ。「トント!」『ヤメトケ』万能ドロイド・トントが球形の頭部でかぶりを振った。『イマカラ、ハッシン、シテモ、マニアワ、ナイ』サイバーサングラスめいた顔面プレートに「TOOLATE」の文字が灯る。「うるせェ! このままクソ野郎どもの好きにさせてたまるか!」

「行くぜ、ハヤト=サン!」「ハイ!」操縦室を飛び出したリュウとハヤトは「山」「空」「海」のショドーが掲げられた中央キャビンで二手に分かれ、左右のパイロットシートに滑り込んだ。ガゴンプシュー……トントの直結操作で、リアベ号の係留アームが翼めいて開く。その先端には2機の小型宇宙戦闘機。

 KBAM! KBAM! エクスプロシブ・ボルトの炸裂が、二人の乗る機体を弾丸めいて撃ち出した。ZOOOM! リュウ機はすかさずイオン・エンジンを最大噴射!『モタモタすンな!』「わかってるよ!」ハヤトは懸命に愛機を操り、殺人的加速に追いすがる! ZOOOOM!

「「イヤーッ!」」ZAPZAPZAP! 敵編隊を射程内に捉え、リュウとハヤトはパルスレーザー機銃を斉射した。KABOOM! シュート・ガバナス1機が爆発四散! 残る2機は高速ループで攻撃を回避し、リアベ号へ舵を切る!「クソッ、速ェなアイツら!」『新型かも!』「とにかくブッ殺せ!」

 BEEAM! BEEEAM! シュート・ガバナスの破壊ビームが、リアベ号の偏向シールドを容赦なくスパークさせた。KBAM! KBAM! 小爆発を起こす船内コンソールに、トントが消火剤を噴射して回る。『フネガ、モタナイ、ゾ』「どうにかしろポンコツ!」バルーは操縦桿を握りながら叫んだ。

「リュウ達がガバナスを墜とすまでの辛抱だ!」だがその時、ギギギガガガ! 突如計器が激しいノイズを発し、船体が異常回転!「アイエッ!?」『ピガッ!?』制御不能に陥ったリアベ号は、シータの大地めがけて真っ逆さまに落下を始めた!『ピガーッ! ドウニカ、シロ!』「ARRRRGH!」

「やべえ!」リュウは愛機を急反転させた。『リアベ号に戻るぞ!』「アッハイ!」ハヤトは瞬時に察した。違法改造めいた船体構造上、彼らの機体は飛行中にしか再合体できないのだ。垂直降下コースを取った2機は、リアベ号を追い越してドッキングポジションへ。地表がみるみる眼前に迫る!

『ビビるなよ! ビビったら死ぬぞ!』「クソッ!」ハヤトは歯を食い縛った。かつて地球連盟の植民惑星では、若いエネルギーを持て余した宇宙暴走族が手製の宇宙高速艇ハンドメイド・スピーダーを駆り、地表めがけて急降下するチキン・ラン・ゲームに命を燃やしていたという。この状況こそまさにそれであろう!

 ガゴンプシュー……展開する係留アームのジョイントめがけて、リュウとハヤトは急減速をかけた。KRAAASH!「「グワーッ!」」ドッキングの衝撃が追突事故めいて二人を襲う。アームが閉じるや否や、「イヤーッ!」リュウは色付きの風となって垂直の船内を駆け、主操縦席に飛び込んだ。

 宇宙ニンジャアドレナリンによって引き延ばされた主観時間。その一瞬でリュウは計器類に目を走らせ、状況判断した。「イヤーッ!」宇宙ニンジャ敏捷性をタイプ速度に変え、UNIX航法システムをシャットダウン!「イヤーッ!」操縦桿を掴み、自動制御を失った船体を無理やりに持ち上げる!

 ZZZOOOOM! 地上に激突するコンマゼロゼロ数秒前、リアベ号はV字回復グラフめいた軌道で急上昇した。KABOOOM! 追撃するシュート・ガバナス1機は間に合わず、そのまま墜落して砕け散った。チキン・ラン敗者の末路だ。残る1機は爆炎を抜け、なおもリアベ号に食らいつく。ZZOOOM!

 中央船室のレーザー銃座で敵機に狙いをつけるハヤト。しかし完全マニュアル飛行の船体は激しく揺れ、照準がまるで定まらぬ。「クソッ、だったら……!」ハヤトはこめかみに指を当て、ニューロンを極限まで研ぎ澄ませた。己の裡に眠る謎めいた超感覚を呼び起こすために!

 無限に折り重なる未来のビジョンが情報の奔流となってニューロンに流れ込み、若き宇宙ニンジャの精神を苛む。「イ……イヤーッ!」ハヤトはそれに耐え、BRATATATA! 鼻血を流しながらレーザーを連射した。コンマ数秒先の敵機存在可能性めがけて! BRATATATA! BRATATATATA!

 KABOOM! 射線に吸い込まれるように、最後のガバナス機が爆発四散した。「踏ん張れテメェら!」リュウが叫んだ瞬間、地面に突っ込んだリアベ号は水切り石めいてバウンドしながら砂塵を巻き上げた。ZOOOM!「「グワーッ!」」ZOOOOM!「ARRRRGH!」『ピガーッ!』ZZOOOOM……!

 ……しばしの後。傾いたリアベ号の船内で、宇宙の男達が顔を突き合わせていた。「で? 故障個所は」リュウが尋ねた。トントはヤットコめいたマニピュレーターを掲げ、その先に摘んだネジの破片を見せた。『ウチュウ、ジャイロ、スコープノ、チョウセイ、ネジガ、バラ、バラ』

「エッ、それマズいよね?」とハヤト。「わかってンじゃねェか」リュウは親指を地面に向けた。「宇宙ジャイロがイカレちまったら、航法UNIXは一番近い重力源……つまりこのシータに激突するコースしか取れねえ。だからってマニュアル操縦だけでヨタヨタ宇宙に上がってみろ。たちまちガバナスの餌食だぜ」

『ネジノ、スペアハ、ナイゾ』「来るべき時が来たか」バルーが溜息をついた。謎の宇宙美女・ソフィアから授かったこのリアベ号を構成するパーツは、全てが数百年前の年式だった。ロストテクノロジーの塊。宇宙を飛ぶオーパーツ。レア部品枯渇のリスクは、いずれ必ず顕在化する運命にあったのだ。

「そうだ!」ハヤトの顔がパッと明るくなった。「シータの銅山コロニーにはメロス=サンの工房がある!」「メロス=サンだと?」バルーは目を剥いた。「やめとこうや。何もあんな奴に頼らんでも、職人なら他に……」「こんな高精度のネジを作れるのはメロス=サンしかいないよ!」

「そいつの腕、確かなんだろうな」「モチロン」ハヤトはリュウに請け合った。「ゲンニンジャ・クランは代々、地球との超光速ホットラインを管理してたんだ。予備の精密パーツが足りなくなるたびにDIYしてくれたのがメロス=サンさ」「ほほう」「待てよ相棒!」バルーが慌てる。

「あきらめな」リュウは笑って宇宙猿人の背中を叩いた。「荒野のド真ん中でヒモノになる前に、俺達ゃリアベ号を飛ばさなきゃならねェ。ツテがあるなら真っ先に当たるのが筋ってモンだ」「気が進まんなあ……GRRRR」バルーは唸った。「あのメロス=サンが所帯持ちだなんて、俺にゃ想像もつかんよ」

【#2へ続く】


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