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杉田水脈 政務官就任会見の「旧統一教会」関連団体との説明における欺瞞・怠慢への回答

※ 本文中の《》は引用、引用内の〔〕は筆者注

引用ではなく註釈

数々の驚きのなか、驚きの杉田水脈政務官誕生

2022年7月8日に安倍晋三元首相が銃撃され世界に衝撃が走ってから1ヶ月が経過した。そして連日、世界平和統一家庭連合とその関連団体、いわゆる「旧統一教会」と政治家とのさまざまなレベルでの《関係》がメディアを騒がせ続けてきた。そして自民党を中心とした多くの国会議員や閣僚について報じられるなかで内閣支持率は下落。翌月の予定だった内閣改造は前倒され、8月10日に19人中14人を交代した新内閣人事が発表され12日には副大臣・政務官人事が閣議決定された。

《社会的に問題が指摘されている団体との関係については、国民に疑念を持たれるようなことがないよう十分に注意しなければなりません。
国民の皆さんの疑念を払拭するため、今回の内閣改造に当たり、私から閣僚に対しては、政治家としての責任において、それぞれ当該団体との関係を点検し、その結果を踏まえて厳正に見直すことを言明し、それを了解した者のみを任命いたしました。》

《国民から信頼される政治を行っていく観点から、党所属国会議員に対し、政治家としての責任において、当該団体との関係をそれぞれ点検し、その結果も踏まえて適正に見直す、こういった指示を行ったところであります。》

岸田文雄 2022年8月10日 内閣総理大臣記者会見 より

人事発表に伴い、新内閣の閣僚と「旧統一教会」との《関係》についての報道が続々と行わることとなり、閣僚たちは就任記者会見などで説明、釈明、開き直りに追われる事態となった。

新内閣人事のなかでも杉田水脈 衆議院議員の総務大臣政務官就任は驚きをもって報じられた。その驚きは、彼女と「旧統一教会」との《関係》についてというよりも、過去の差別発言などに基づいた閣僚としての資質に関するものではあったが。

とはいえ他の新閣僚らと同様、杉田 新総務大臣政務官と「旧統一教会」との《関係》も話題となり、就任会見で説明を求められるのは当然の流れだった。

「いつもと違う雰囲気」? 杉田水脈2019年熊本講演とは

2019年4月、杉田水脈 衆院議員は、前年の熊本初講演会から実に約1年ぶりの熊本を訪れた。前回の講演会に参加していた元熊本県教育長が代表をつとめる団体からの依頼を受け、《青少年を守る家庭のあり方》をテーマに講演を行うためだった。イベントでは講演につづいて、韓国・仁徳大学の助教授、地元熊本の県議・市議が加わってのパネルディスカッションが行われ、イベント終了後には場所を変えての会費制『「杉田水脈・衆院議員」歓迎懇談会』も開催されることになっていた。この講演イベントのタイトルは、なぜか杉田議員による事前告知では明らかにされていなかったが、当日の壇上には『青少年育成と父母の役割を学ぶ集い』と掲げられていた。

杉田水脈2019年熊本講演会場の壇上写真
「青少年育成と父母の役割を学ぶ集い」
講師:杉田水脈 衆院議員
平成31年4月28日(日) 主催:KPF社会教育委員会 於:グランメッセ熊本2F

この講演イベントのタイトル『青少年育成と父母の役割を学ぶ集い』とテーマ《青少年を守る家庭のあり方》は、前年の熊本初講演会『杉田水脈 愛国力講演会』での講演タイトル『日本人の敵は反日日本人である』や、そこで謳われていた講演テーマと比べても、彼女のパブリックイメージとは少し距離があるように感じられる。

とはいえ杉田議員は《お客様で満杯》で《女性の方が多》い会場に《いつもと違った柔らかい雰囲気》を感じながら、普段とは少し違った内容の講演を行い、

翌日には《熊本空港にて、名物料理の太平燕(中華麺の代わりに春雨❣️とってもヘルシー)に舌鼓をう》って帰路に着いたのだった。

2019年講演前から判明していたことと、講演後に受けた「指摘」

そんな《集い》を主催したのはKPF社会教育委員会。この団体は旧統一協会関連団体の下部組織であり、一社団法人 熊本ピュアフォーラムという看板も持っている(以下、2つをまとめて「熊本ピュアフォーラム」)。

熊本県下の県市町村議会で「青少年健全育成法」や「家庭教育支援法」の制定を求める意見書を《国》に提出するよう陳情・請願している同団体の事務局長が、旧統一協会系政治団体である国際勝共連合熊本本部(以下、「勝共連合熊本」)の代表であることは2018年には一部で話題となっていた。また2019年の杉田水脈講演の約1週間前には、鈴木エイト氏が自身の連載のなかで報じている。つまり講演当時でさえ検索すればすぐに分かる情報だったのだ。

また2019年の講演直後には鈴木エイト氏から杉田議員に質問書が出された。《熊本ピュアフォーラムが国際勝共連合のダミー団体であること》を指摘し、そのうえで《講演会に参加した経緯》などを問うものだったが、杉田議員は《〔「熊本ピュアフォーラム」が統一教会・勝共連合のダミー団体であることは〕存じ上げません。》などと回答した。

「指摘」に甘えたまま、3年前をなぞるだけの就任会見

そして2019年熊本講演から3年後の2022年8月15日、2019年当時には想像すらできないような「旧統一教会」報道のなかで、中川貴元 新政務官とともに総務大臣政務官就任会見に臨んだ杉田水脈 新政務官は、冒頭の挨拶で次のように述べた。

「岸田総理から、国民の皆様に疑念を払拭するために個々の政治家として責任をもって点検をして、厳正に見直すようにというご指示をいただいております。」

杉田水脈 2022年8月15日(総務大臣政務官就任会見にて)

この会見で杉田政務官は2019年の「熊本ピュアフォーラム」主催の講演について改めて以下のように語った。

《2019年の熊本での講演でございますが、これは以前に講師としてお招きいただいた講演会で、当該講演会の主催者の方がそれを聴講されておりまして、それを機にご依頼をいただきました。
 なぜ講演に行こうと決めたかと言いますと、パネリストには地元の地方議員の方々が参加されておったということ、主催代表者が過去に県の教育長をされていたということ、地元の国会議員が主催団体の顧問をされていたことなどを勘案して、参加することといたしました。》

《当該講演会の主催団体が旧統一教会の関連団体であったとは存じ上げておりませんし、また、現在におきましても関連団体であったという事実は確認できておりません。主催団体の役員の1人が旧統一教会の関係者であるというご指摘はいただいておりますが、講演した当時はそのようなことについては全く存じ上げておりませんでした。
 いずれにしましても、関連団体を含め、旧統一教会から金銭的な支援や人的支援などは一切受けておりません。また、先ほども申し上げましたが、今後は統一教会に限らず、社会的に問題のある団体とは一切関係を持たないということを、また、疑念を持たれないようにしっかりと注意して行動してまいりますことを、皆様にお誓い申し上げたいと思います。》

杉田水脈 2022年8月15日(総務大臣政務官就任会見にて)

そしてその説明と釈明に、記者から質問が相次いだ。

記者〔日本テレビ〕:「いずれにしても確認は取れてないということで、これ以上の確認は取らないという理解でよろしいのでしょうか?

杉田:「確認と言いますか、これ以上何を調べればいいのか〔笑〕」

記者〔日本テレビ〕:「例えば中川政務官が、同じようにフォーラムに出ていらっしゃって、それが統一教会に関係しているかどうかをお調べになった上で、先ほど見解を発表されたと思いますが、それと同様に、内閣、総理の方針としてはきちんと調べて説明をするようにとのことだったと思うのですが」

杉田:「先ほど以上の説明はございません。主催者の方の役員の1人が統一教会の関係者であったというようなことですので、それをもってして関係団体というのかどうかというのは誰も確認ができないと思います」

記者〔日本テレビ〕:「その関係している団体自体がもうないから調べられないというような感じなのでしょうか」

杉田:「そうではなく、その団体が関係団体であるかどうかっていうことは、逆に誰が定義をされるのですかね。役員の1人でもいらっしゃったら関係団体ということになるのかどうかってことの定義がわかりませんので、これ以上のことは申し上げられないということです。」

記者〔日本テレビ〕:「 そうしましたら、官邸での先週金曜日のぶら下がりで政務官ご本人が一切関係ないと言い切っていらっしゃったので、これは確認の上で一切関係ないとおっしゃったのか、それとも、よくわからないから、これ以上調べようがないから関係ないということなのか」

杉田:「今まで申し上げた情報は全て確認をさせていただきましたので、それを確認した上で一切関係がないと申し上げました」

杉田水脈 2022年8月15日(総務大臣政務官就任会見にて)

鈴木エイト氏の質問状から3年もの時間が経過したにもかかわらず、杉田政務官の説明は2019年当時の回答をなぞるだけに終始した。さらに、《主催団体の役員の1人が旧統一教会の関係者であるというご指摘はいただいております》、《関係団体というのかどうかというのは誰も確認ができない》などと述べることで、指摘を受けた3年前も、また今回の就任会見に際しても、何の調査・確認をしていないこと、そして指摘のメインの部分に関しては開き直る姿勢をアピールしてみせた。

このような杉田政務官の説明は、会見で記者からも呆れ気味に言われていたように、自身と「旧統一協会」と《関わり》についての調査報告をしたうえで《誠に反省をすべきことであると、深く認識しているところでございます》と述べた中川政務官とは全く対照的なものだった。杉田政務官自身が述べた《国民の皆様に疑念を払拭するために個々の政治家として責任をもって点検》という《ご指示》はどこへいったのか。

「旧統一教会」系団体との重複は「役員の1人」で済まない

くり返しになるが、2019年の杉田水脈熊本講演を主催したKPF社会教育委員会は旧統一協会関連団体の下部団体である。いや、内部団体と呼ぶのが正確かもしれない。そして「旧統一教会」の《ダミー団体》と呼ぶのにふさわしい存在だ。

まずKPF社会教育委員会が熊本ピュアフォーラムが同じ組織であることは、同団体サイトでも謳われていることだ。そして熊本ピュアフォーラムの稲富安信事務局長は、旧統一協会系政治団体の国際勝共連合熊本県本部(以下、「勝共連合熊本」)の代表である。このことは杉田政務官も会見で《主催者の方の役員の1人が統一教会の関係者であったというようなことで……》と一応は認めている。しかし《主催者の方の役員》のなかで《統一教会の関係者》であるのは、稲富事務局長《1人》だけではない。

杉田政務官は会見においても、《講演に行こうと決めた》際に《勘案》したひとつとして《主催代表者が過去に県の教育長をされていたということ》をあげている* 。しかしこの《主催代表者》の元県教育長も《統一教会の関係者》だ。彼は旧統一協会の関連団体である熊本県平和大使協議会の副議長で、「旧統一教会」のイベント「ピースロード熊本」では副実行委員長もつとめている** 。なお稲富事務局長も「勝共連合熊本」代表であるだけでなく、県平和大使協議会の理事であり、「ピースロード熊本」の実行委員会では事務局次長でもある。

※ ほかにも講演を引き受けた理由に《パネリストには地元の地方議員の方々が参加されておったということ》が挙げられたが、その《地方議員の方々》のひとりである橋口海平 熊本県議も「ピースロード熊本」実行委員会も副委員長をしていた。

※※ 「ピースロード」は旧統一協会の関連団体、平和大使協議会が全国で開催している自転車イベント。2022年の「旧統一教会」報道で多くの政治家が参加したり、実行委員になっていたことで釈明に追われた。また多くの自治体やメディアが後援についていることも批判された。

‪引用でなく註釈‬

さらに「熊本ピュアフォーラム」の事務局員および《県北担当》をしていたのは、県平和大使協議会の事務局長であり、「ピースロード熊本」実行委員会では事務局次長をつとめ、過去には「勝共連合熊本」代表だった人物だ。

つまり杉田政務官は会見の席で《主催者の方の役員の1人が統一教会の関係者であったというようなことですので、それをもってして関係団体というのかどうかというのは誰も確認ができない》だとか、《現在におきましても関連団体であったという事実は確認できておりません》などと述べていたが、彼女は「確認ができない」のではない。2019年の講演当時から多くの《指摘》がされても、岸田首相からの《国民の皆様に疑念を払拭するために個々の政治家として責任をもって点検をして、厳正に見直すようにというご指示》がされた今となっても、ただ何も「確認していない」というだけだ。

「熊本ピュアフォーラム」は県平和大使協議会「下部組織」

また杉田政務官は《役員の1人でもいらっしゃったら関係団体ということになるのかどうかってことの定義がわかりません》とも言っている。しかし講演主催団体と「旧統一教会」との関係は、《役員の1人》はもちろん、複数の役員が重複しているだけではない。県平和大使協議会の理事会では「ピースロード熊本」の日程などとともに、KPF社会教育委員会の活動についても決定を下してきたのだ。

熊本県平和大使協議会の2020年6月2日Facebook投稿
熊本県平和大使協議会の理事会では「KPF社会教育委員会」を筆頭に
「ピースロード」や「大学教授懇談会」の開催日程を決めている。 

つまり、「熊本ピュアフォーラム」が県平和大使協議会の下部・内部組織であり、旧統一協会の《関係団体》や《関連団体》なのは明らかだ。そして杉田政務官が《全く存じ上げておりませんでした》、《確認できない》と説明するしかなかったことも、「ダミー団体」という形容がこの団体の実態に即していることがよく分かる。

しかしこんな話も勘の良い方には「2019年の講演会場の横断幕を見ただけで分かるだろ!」と言われてしまうかもしれない。なぜなら旧統一教会にとっての《青少年育成》は長年にわたり大切なイシューの1つだからだ。

そして「父母」の言葉が彼らに取って重要な意味を持つのは言うまでもない。

「確認できない…」 と言う人が確認方法を述べている

杉田政務官は今まで何度も《〔主催団体の熊本ピュアフォーラムに〕地元の国会議員が主催団体の顧問をされていたことなどを勘案して、参加することといたしました》と説明してきた。なぜ、この《地元の国会議員》に確認しないのだろう。

もしかしたら国会議員同士では上下関係だとか、近頃の状況などから訊きにくい事情があるのかもしれない。もしそうなら、次は自身の《以前に講師としてお招きいただいた講演会で、当該講演会の主催者の方がそれを聴講されておりまして、それを機にご依頼をいただきました》という説明を思いだせばよい。

ここで言われている2019年講演の《ご依頼》の《機》となった《以前に講師としてお招きいただいた講演会》とは、前述の2018年の熊本初講演『杉田水脈 愛国力講演会』のことだ。その主催・後援の両団体と深い関係があり、講演会の「連絡先」もつとめていた今中真之助 宇土市議会議員に確認してみてはどうだろうか。

今中真之助2018/3/4FB投稿
今中真之助 宇土市議 2018年3月4日 Facebook投稿

お二人は林英臣政経塾の同じ第11期生。熊本初講演も同期生の《縁》で決まったほどだから連絡もきっと簡単だろう。そして今中真之助宇土市議も「ピースロード熊本」実行委員会で事務局長を、さらに「熊本ピュアフォーラム」の上部組織である県平和大使協議会では理事をつとめている。杉田政務官が《確認できない》と言っていた事情にも、きっと彼なら詳しいはずだ。

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