旭川にみる「旧統一教会」が絡む「草の根」運動
ここまで見てきた世界平和統一家庭連合とその関連団体、いわゆる「旧統一協会」の関係者が関わる「草の根」運動は県という枠組みの団体ばかりだったが、ここでは一つの地方都市での例をみてみよう。
「同性婚問題を考える」は「同性婚 を 問題 と 考える」!?
2019年に旭川市において、同性婚問題を考える旭川の会(以下、「考える旭川の会」)なる団体が結成された。
同会が開催してきた講演会は以下のようなものだ。
八木秀次『同性婚問題を考える —LGBT条例の危険性について—』
小笠原員利 『同性婚問題を考える —同性婚の問題点と理想の家庭—』
早川俊行『同性婚先進国・アメリカの悲劇と混乱』
講演タイトルを並べると「この会の言う《同性婚問題を考える》は「同性婚 “を” 問題 “と” 考える」ではないか?」と感じずにはいられない。さらには《同性婚問題》という言葉自体に内包された《問題》すら考えてしまう。
それぞれの講師について見ていくと、その懸念はさらに深まっていく。
八木秀次氏は麗澤大学の教授で、右派論壇誌などではいわゆる「反フェミニズム」、「反ジェンダー」、「反LGBT」の論者としてもお馴染み。また「つくる会」系教科書についての活動でも知られ、旧統一協会の《機関紙》とも呼ばれる『世界日報』関連の講演会でも最多登壇回数を誇る人物だ。「考える旭川の会」が主催した2019年の旭川講演の参加者によれば、八木氏は講演なかで「炎上するのでツイッターに流さないでね」などと冗談まじりで語ったという。
2022年7月に自民党・性的マイノリティに関する特命委員会に招かれ、その講演後にマスコミから投げかけられた「統一教会との関係性は?」との質問に「関係ないですよ!」と答えた人物といえばお分かりいただけるだろうか。
小笠原員利氏は講演会チラシでは、旧統一協会の関連団体の《平和大使協議会 事務次長》として紹介されている。彼はUPF-Japan(天宙平和連合日本支部)では教育局長などをつとめ、各地の旧統一協会関連イベントでも講演を行ってきた。2021年には《家庭教育支援を考える議員有識者懇談会事務局長》の肩書きで、家庭教育支援を考える広島議員の会の勉強会にも招かれ、《結婚・子育ての願望の高めるとともに、愛情あふれる親になるための準備をする》ための《親になるための学び》などについて語ったという。
早川俊行氏は、「旧統一教会」系メディア『世界日報』の那覇支局長、ワシントン特派員、アメリカ総局長などを経て、編集委員になった人物。2015年には同紙ワシントン特派員の先輩で、当時の編集委員だった森田清策氏との共著『揺らぐ「結婚」―同性婚の衝撃と日本の未来』も刊行されている。同書は、刊行の約半年前に成立した渋谷区の「パートナーシップ条例」を切り口として、『結婚には神聖な価値がある』などと語る内容。その第4章は『「同性婚」先進国・米国の悲劇と混乱』と題され、「考える旭川の会」での講演タイトルとほぼ同じだ。
このように講師メンバーを知っていくと、同会が掲げる《同性婚問題》という言葉への懸念は、確信に近いものとなっていく。しかし「考える旭川の会」が、結成目的をどのように説明しているかを知っている者には、その懸念が杞憂などではなく、ただの事実であることはとは最初から明らかなのだった。
旭川に「『家庭教育支援条例』の制定を目指す新しい団体」
2020年8月、『旭川家庭教育を支援する会 設立総会のご案内』なる文章が配布された。
この《設立総会のご案内》の名義人として《旭川家庭教育を支援する会 設立準備委員会 代表》の肩書きと共に記されていたのは、旭川モラロジー研究所などの事務局が置かれている地元企業の代表取締役会長だ* 。この地元企業は、その後も旭川家庭教育を支援する会(以下「支援する会」)の事務局住所として使用されていおり、当の代表取締役は「支援する会」の副会長となった。
また《お問い合わせ先》になっていた《設立準備委員》は、「考える旭川の会」の事務局担当と同じ人物。「支援する会」の発足後は、同会の事務局次長としても活躍することになる。2022年8月20日放送のTBS『報道特集』では、彼が能登谷繁 旭川市議会議員に渡した2枚の名刺が取り上げられた。それによれば、彼は旧統一協会の旭川家庭教会で総務部長をしていたという。
政治家と選挙と「家庭教育」と「旭川家庭教育を支援する会」
《「家庭教育支援条例」の制定を目指す新しい団体》を謳う「支援する会」で会長となったのが東国幹 現衆議院議員だ。大学時代には原田義昭 元衆院議員の書生だった彼は、佐藤静雄 衆院議員秘書を経て1995年に旭川市議となり、1999年には北海道議へと転身。2014年の市長選や衆院選(比例)では涙を飲んだこともあったが、北海道議として長年活躍してきたベテラン議員だ。
そんな東国幹氏が過去の市長選の宿敵にリベンジを果たし、国政に歩を進めたのが2021年10月の衆院選だった。そこで東氏が掲げた『上川八策』のひとつでは《家庭教育の充実と人格尊重の教育を進めます》となっていた。この公約が北海道6区の多くの人々にとって捉え所がなく、いまいち良く分からなかったとしても、「旧統一教会」やモラロジー系の方々がピンときただろうことは想像に難くない。それぞれが思い描く《家庭教育》や《人格教育》の内実が同じもののかはまた別の話だが。
また東国幹「支援する会」会長が当選した2021年衆院選の一月前、旭川では別の選挙が繰り広げられた。現職市長が衆院選のために辞任したことによる旭川市長選(投開票9月26日)だ。新人候補同士による与野党(保守・リベラル)対決の構図となり、まさに衆院選の前哨戦の様相を呈すことなる。そんな市長選の風が吹き始めた8月、「支援する会」は東国幹 会長名で両市長選候補予定者に送ったという『質問書』と両候補の回答を公開した。
野党系推薦候補は会長名で送られたはずの『質問状』に「旭川家庭教育を支援する会 事務局次長」宛で回答書を作成したとされ、またその回答内容も市長候補が書いたとは信じられない代物だった。対して、回答のなかで《全国各地で条例の制定が進んでいる状況を踏まえ、旭川家庭教育を支援する会から、家庭教育の重要性を各会派の先生方に認識していただくため活動を始めていくと良いのではないか》と「支援する会」への丸投げともエールとも取れる言葉を述べながら、《条例制定を目指すべきと考えます》と明言した与党推薦候補、それが市長選を制した今津寛介 現旭川市長だった。そして彼は「考える会」の顧問だった。
「支援する会」の講演会『家庭教育を考える』
2020年8月の設立総会以降、「支援する会」は講演会をたびたび開催してきた。講師には、同会の相談役をはじめとする旭川の教育系大学関係者や、児童教育に携わる人物などが招かれ、旭川市と旭川市教育委員会からの後援を受けてきた。2021年11月の北海道教育大学旭川校教授が招かれた回では、北海道人格協議会* が共催となっていた。
そのような教育関係者ばかりの講師陣のなかで異色に見えるのは、2022年5月に招かれた藤曲敬宏 静岡県議会議員だ。講演タイトルは『家庭教育を考える 親の孤立化を防ぐ取り組み 家庭教育支援条例制定までの取り組みと成果』。このタイトルからも分かるように、静岡県では「家庭教育支援条例」の制定県だ。2012年の熊本、2013年の鹿児島に続く3例目、2014年に公布されている。しかし「支援する会」の講演イベント『家庭教育を考える』講師の並びのなかで藤曲敬宏 静岡県議が異色に見えたとしても、「支援する会」は《「家庭教育支援条例」の制定を目指す》団体である。先例に学ぶ・成果を喧伝する講演を企画をするのは当然といえば当然だ。
当日の講演の中で、藤曲敬宏 静岡県議は「〈こども・家庭・庁〉なのだから、『子ども基本法』だけでなく、『家庭教育支援法』も作らなくてはいけない」、「市や町の条例を制定することで都道府県の条例制定の、そしてまた国での「家庭教育支援法」制定のための機運を盛り上げることが必要」などと語り、来場していた多数の北海道道議や旭川市議を鼓舞したのだった。
しかし全国初の「家庭教育支援条例」の制定の立役者として以前から各地で講演を行なってきた溝口幸治 熊本県議や、2022年3月に反対運動が起こるなかで『岡山家庭教育支援条例』を成立させてメディアにも顔を出していた福島恭子 岡山県議ではなく、条例の制定後に県議となった藤曲敬宏 静岡県議が選ばれたのは少し不思議でもある。北海道新聞2022年8月22日記事によれば「考える会」の講演会講師は、同会の事務局次長が実質ひとりで決めていたという。どこかで熊本のようなモデル条例県としての静岡を、藤曲敬宏 静岡県議と共に推していこうとする動きでもあったのだろうか。
《「家庭教育支援条例」の制定を目指す》という「支援する会」の活動は、講演会による市民や地方議員の啓発にとどまらない。東国幹会長が衆院議員となった約2ヶ月後の2021年12月末には、《当会へのご協力を賜っております、関係諸団体の皆様》に対して『教育関係者による意見交換会開催のご案内』を会長名で送付。翌2022年1月15日の《意見交換会》には、石前聖香 旭川市小学校長会事務局長、林欽一 旭川中学校長会会長、高田敏和 同市教育委員会 社会教育部長、小島紀行 旭川市教育委員会 社会教育課主幹らが参加した。そして《意見交換》終了後、参加者には「支援する会」が作成した「家庭教育支援条例」の《私案》が示され、「支援する会」相談役の元中札内村教育長がその《私案》の解説を行った。この《意見交換会》の様子、とくに相談役が行った《私案》解説の内容について2022年1月31日の『北海道通信』紙が仔細に報じている。しかしその記事からも、東 衆院議員が「ご案内」で言う《当会へのご協力を賜っております、関係諸団体の皆様》、事務局次長がFB投稿で言う《協力団体関係者》達が、「支援する会」の《私案》にどのような反応をしたかまでは窺うことはできない。
「旭川家庭教育を支援する会」とメディアと広報協力
2022年1月の《意見交換会》に限らず、「支援する会」の活動は北海道新聞、北海道通信、北海道経済などの地元メディアで紹介されてきた。
しかし取り上げたのは地元メディアだけではない。「全国区メディア」のなかで「支援する会」を複数回取り上げてきたのが、「旧統一協会」メディアである『世界日報』だ。
「支援する会」会長の東 衆院議員、顧問である今津市長をはじめ、副会長や幹事には自民党の北海道議や旭川市議ら* が、相談役には元中札内村教育長が名を連ねている。同様に各地の旧統一協会関連団体も、国会議員、地方議員に加え、元教育長などの教育関係者などを団体代表や役員に迎えている。彼らの肩書や立場が、団体の催しの後援に地元自治体、地元教育委員会、地元メディアなどが並ぶ要因の一つになっているのではないか。
また、杉田水脈 総務大臣政務官が2022年の就任会見の席で、旧統一協会関連団体の講演に(そうとは知らずに)参加した理由として《パネリストには地元の地方議員の方々が参加されておったということ、主催代表者が過去に県の教育長をされていたということ、地元の国会議員が主催団体の顧問をされていたこと》をあげていたが、昨今の「旧統一教会」報道において、政治家に限らず「先輩が参加していたから」、「自治体やメディアが後援していたから」、「首長や地元政治家が登壇していたから」といった釈明がよく聞かれる。そういった言葉がただの言い訳でないなら、まずは自らそのサイクルを断ち切るための行動をしていくしかないだろう。
そして「支援する会」の活動の広報に協力したのはメディアだけではない。地元の旧統一協会教団施設である旭川家庭教会も明らかになっている。この画像に写っているのは「支援する会」による講演会のポスターだ。
なお、2022年7月の安倍元首相銃撃事件に端を発する旧統一協会報道の中で、北海道新聞は道内関連国会議員31人に対し《世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関わりについて》尋ねたアンケート調査を行い、その結果を8月5日に報じている。「支援する会」会長である東国幹 衆院議員は、質問に対して《分からない、確認できない》と応えている。
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TBS『報道特集』2022年8月20日回の放送の余波
TBS『報道特集』による報道の後、現地旭川では自民党市議からも驚きの声が多く聞かれたようだ。しかしそのような状況のなか「支援する会」副会長は、特に藤曲静岡市議が旧統一教会信者である点を強調して、《条例制定は必要だが、旧統一教会との関係は完全に断ち、組織を再編する必要がある》と運動は継続する旨を述べたという(北海道新聞2020年8月22日)。共産党市議にすら自身の教団の名刺を渡している事務局次長の信仰や、地元教会での役職について周囲が知らないはずはなさそうには思える。しかし彼について触れられないのが、記者の質問の問題なのか、既に事務局次長を辞任したからなのかは定かではない。
同8月22日記事には「支援する会」顧問である今津 旭川市長のコメントも掲載されている。条例については《今後も十分な調査、議論を行う》と述べ、また「支援する会」については《旧統一教会との関係性が解消されない場合は辞退する》と説明している。
同会会長の東国幹 衆院議員は、8月26日の北海道放送の取材に《旭川家庭教育を支援する会は旧統一教会とは関係がない》《今現在、役員の中に旧統一教会関係者はいない》と述べ、今後も「支援する会」の活動を継続していく意思を表明した。
北海道新聞アンケートに《〔「旧統一教会」と自身との関わりは〕分からない、確認できない》と回答してから、旧統一協会関係者の役員辞任を挟み、《〔「支援する会」には〕今現在、役員の中に旧統一教会関係者はいない》と述べるまで、約20日間であった。
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