見出し画像

テクノロジーは「不」を殺すのか。

(この記事は、SXSW2019 The Japan New Islandsでのプレゼンテーションの元原稿です。2019年3月9日発表)

みなさんこんにちは。SXSWが今年も始まりましたね。

いろんなドメインでたくさんのテクノロジーが発表されています。

僕がSXSWに来るのは2回目で、去年はトレードショーで「光る卓球」「爆音オセロ」展示していました。

まだ実験段階の気鋭なテクノロジーが集まるこの場の空気は、とても刺激的でたくさんのインスピレーションを受け取れます。

まずは、頭のエクササイズとしてテクノロジーの進歩により起こりうる近い未来を、いくつかイメージしてみましょう。

The perfect room

部屋にいる人間の身体データをもとに、匂い・明るさ・温度がコントロールされ、みんなの趣味が重なる音楽が流れる。常に全員の気分が最適に保たれる部屋。

The perfect logistics

データサイエンスとロジスティクス、特にラストワンマイル(道路から玄関まで)のお届け技術が高度に融合し、「欲しい」と思う直前にタイミングよくあなたがいるところまでモノが届く。部屋の中では、四つ足のロボペットが座っているだけで欲しいものが手元に届く。必要なのはGAFAにあなたのライフログを送り続けるだけ。

The perfect transportation

クラウドカレンダーとGPSが融合され、車やスクーター、セグウェイがジャストタイミングでお迎えに来てくれる。寄り道はなく、無駄のない個人移動が実現される。もう、Uberのアプリを開いて場所を指定し、待つ必要はありません。

The perfect foods

風邪をひく3日前には体調の変化を察知して、フードプリンターが必要な栄養素を組み込んだ食事を自動で印刷してくれます。スマートウォッチや体調を読み取る鏡などから、バイオデータをクラウドに送り続けて、印刷された食事を食べてさえいれば、ずっと健康が保たれます。

The perfect community

あなたのソーシャルメディア上での発言やLikeだけじゃなく、日常の会話がトラックされ、脳みそをコピーしたBOTができます。個人の相性がすべてクラウド上でマッチングされ、相性が合わない人とのミーティングにはBOTが出席し、あなたの意思と同様に物事を進めてくれます。

とっても便利ですね。一言で言うと、WOWです。未来ではたくさんの困りごとが解決されています。

しかし、楽しみなはずのテクノロジーの進化にどことなく不安を感じます。

代償があるんじゃないか、何か失ってしまうものがあるのではないかという、焦燥感を感じます。

何が失われるのでしょうか。

不意、不規則、不安、不満、不明、不便、不条理、不完全…
(Unpredictable, unorthodox, uneasy, unsatisfied, unknown, unreasonable, unfulfilled…)

すべてが計算され、コントロールされる世界では「不」を伴う体験が極端に減っていくと予想します。英語では「UN」ですね。

では「不」がなくなると、どんな影響があるでしょうか。

不便がなくなると、「工夫」がなくなる。
不条理がなくなると、「疑問」をもたなくなる。
不意をつかれなくなると、「驚き」がなくなる。

どんどん生命力の源が細っていく感覚を覚えます。
これが焦燥感の原因なのではないでしょうか。

もう少し「不」が発生する現象を、構造的に見て見ましょう。

期待値と不の関係

キーワードは「期待値」です。

この図は、100のことが起こるだろうな、という期待値です。この100の期待値に対して、どういった現象が起こるか見ていきます。

期待を上回る

100の期待値に対して120が起こると、驚きます。
たとえば、毎年恒例の結婚記念日のディナーで、いつもは夫婦二人で祝うところ、お店に着くと友人夫婦が迎えてくれた。これは嬉しいですね。

逆に今度、その友人夫婦を一段上のレベルで祝いたい、そのためには自分たちに加え彼らの両親も呼んでパーティを催せばいいな、といった「もっと良くしたい」欲望のような感情が生まれたりします。

期待を下回る

80しか起こらないと不便です。

毎年恒例の結婚記念日。パーフェクトなディナーに加え、今年は夫から妻へのプレゼントは心のこもった手紙にした。でも妻は新しい冷蔵庫が欲しかった。こんなミスマッチが起きないように、来年は欲しいものがあったらリストを公開しよう。もしかするとamazon wishlistはこんな日常の不便が呼んだ工夫だった・・のかも(?)

期待通りのことが起こる

そして100が起こると満足します。気持ちが良い。いい思い出ができる。しかし、満足は何も呼びません。

いわゆる「予定調和」と言われる状態ですね。


パーフェクトなテクノロジーが目指すところ

未来に向かうパーフェクトなテクノロジーは常に100を満たすでしょう。つまり、予定調和はパーフェクトの言い換えとも言えます。

中には120を起こせるテクノロジーもあるでしょう。ただ120が続けば120はすぐに普通になります。期待値が上がり、いたちごっこになります。一般的なテクノロジーの進化はこのスパイラルが原理です。

一方、80が起こることを許容するテクノロジーは少ないでしょう。このご時世、レビューやレコメンドを悪化させクレーム処理を好む企業なんかいないからです。

80を満たすテクノロジー

まだ前例は少ないですが、あえて80を狙いにいくテクノロジーはあります。先行事例を見てみましょう。

ICD-LABが発表している「弱いロボット」です。

あえて100点ではないロボット、不便や不安(心配)な状況を生み出し、工夫や配慮といった行動を導いています。痴呆などの予防に効くことも期待できるでしょう。

期待値ゼロ

期待値とテクノロジーの関係性として存在するもう一つのパターンが「期待値ゼロ」の状態で何かが起きるというケースです。不意をつかれるような感覚です。

静かな図書館で、急に誰かが大きいオナラを放つような状況ですね。そんな時、館内では色んな感情が巻き起こります。(笑い、怒り、戸惑い、同情、驚き、疑問共感…)

例えが少し下品になってしまいましたが、予定調和が連続する世界の中では、こんなに豊富な感情を一気に巻き起こせる事象はとてもレアです。

予測できない「不」の体験が導く感情の一つ一つはとても人間らしいと思います。

「不」の体験を研究するプロジェクト

Konelでは、このパターンに着目して日常生活の中に「UN_」を散りばめていくためのプロジェクトを立ち上げました。

Project UN_です。

そして今日The Japan New Islandsで第1号のプロトタイプを発表しました。

[実験#01_LIGHTNING BALL]

この雷玉はNASAが公開している気象情報から落雷のデータだけを抽出し、地球の模型上でリアルな雷として再現するプロダクト。予定調和だらけの超快適社会の中で「不規則な現象」との同居を図ることが存在意義です。

これを家やオフィスで使うと、どんな気持ちになるのか。おそらく最初は珍しさや異物感できになるはずですが、それが日常の中に溶け込んだ時に何が起こるのか。実験的な利用をこれからスタートしていきます。

[実験#02_PANDA EGG]

「電子的に制御されていないランダム」な家電として、次の作品をベトナムで作っています。雷玉では「気象情報」をランダムなインプットとして扱いましたが、次に扱うのは「パンダ」です。

立つ、寝る、転がるの3アクションしか取れない、不規則に動く卵です。

ただ、でたらめに動くのではなくパンダの動きにリアルタイムにシンクロする卵です。ペットを代える人にとっては物足らないランダムさかもしれませんが、世話をし続けられない状況ではほどよく使えるのではないかなと考えています。

なぜパンダにしたのか?理由は二つあります。

【1】遠隔地にいる孫やペットと連動させることも可能ですが、それだと気を取られすぎてしまう。関係性が薄いが、キュートに感じられる距離感の動物がちょうどよいという仮説。

【2】上野動物園にいる人気パンダ「シャンシャン」はライブ映像を配信しており、映像を介してインプットをとる実験ができる可能性があるため。

まだただのプロトタイプでしかなく、実現に向けてはハードルがたくさんありますが、動物園の関係者の方がいらっしゃったら、ぜひコンタクトさせてください。シャンシャンが日本を離れた後も、つながっていたい・・・

まとめ

超快適社会の中では、工夫・疑問・驚きといった人間の生命力に直結する源が欠損していくリスクが大きい。それが日々の生活の中に様々な「UN_」な事象を取り込むことの重要性を研究していく理由です。

出村光世 : @dem_yeah

---

※Project-UNでは共に実験を進める協力者を求めています。

- 研究者:実験テーマを持ち検証を進める人

- データ保有者:不規則なデータを保有し、利用できる人や組織

- プロダクトメーカー:プロダクトの量産に関心がある人や組織

- エンジニア / デザイナー:プロダクトの実制作をしたい人

- プロジェクトマネージャ:プロジェクトの進行に携わりたい人

- 投資家:プロトタイプの購入、投資を希望する人や組織

- メディア:プロジェクトの取材をしたい人や組織

OFFICIAL SITE : https://project-un.com/

CONTACT : info@konel.jp


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?