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写真を共有する文化を再構築したい。完全無料の熊本素材写真アーカイブス運営について

1.背景

以前、私は写真業界で働いていました。実家がカメラ店だったため、自然とその道に進むことになりましたが、正直なところ、写真にはそれほど興味がありませんでした。

大学選びの際、「まあ、実家のカメラ店を継ぐなら、写真学科のある大学に行っておくか」という程度の気持ちで、福岡の九州産業大学芸術学部写真学科を選びました。しかし、当時の私は理系の教科が好きで、芸術に対しては興味はあっても、よく分からないと感じていました。

それは実家のカメラ店で働き始めても同じで、写真そのものに関してもあまり興味を持てませんでした。そんな中、10年ほど実家で働いた後、家業から離れICT関連の仕事を始めることにしました。最初の仕事は音楽制作でしたが、それ以降ウェブや動画、講師の仕事なども始まり、忙しい毎日を送っていました。

2.故人が残した写真

そして、ある日「写真」と再度向き合う時がやってきます。それは写真の仕事を辞めてから20年近く経った時期でした。写真屋を続けていた父が癌のために亡くなったのです。

妹が引き継いでいた写真屋も実質的には閉じる方向になり、遺品などを整理することにしました。ネガフィルムなど大量のアナログな写真がありましたが、それらは整理されていなかったために廃棄する決断が必要でした。

しかし、亡くなる数年前からデジタルカメラでも撮影していた父の写真が残っていました。それらデータを見ていて考えたのです。

米塚と雲海(浅川正二)

「この写真を皆さんに無料で配布しよう」

父は自然が好きで、私とは正反対のアウトドア・ジジイでした。このため多くの熊本の自然を対象とした美しい写真が残されています。アナログのものは対応が難しいのですが、デジタルデータならウェブ上にアルバムを作るのは簡単です。

そんな価値ある写真を皆さんに使っていただきたい。そのうえで作者である浅川正二(あさかわせいじ)の名前が残るのであればそれでいい。
それに故人はすでにこの世にいません。無料で配っても文句は言わない・・。

不知火町永尾劔神社能美の鳥居に落ちる夕日(浅川正二)

そんな思いからまずFacebookに写真アルバムを作って配布を始めました。すると多くの方から称賛の声を頂く事になったのです。

3.写真と再度向き合う

父が撮影した写真に対して様々な賛美が届くようになると考えました。

「あら、ちょっと、親父だけ褒められるのは悔しいな・・・自分でも写真撮るかぁ」

そして始めたのが「熊本素材写真アーカイブス キロクマ!」です。

インターネット以前、自分の撮影した写真を世の中に出す方法として、コンテストへの応募などがありましたが、今のように誰もが気軽に情報発信が出来る時代ではありませんでした。

当時、基本的に写真好きの人は生真面目な人が多く著作権の問題もあり、その作品の多くは日の目を見ることなく消えていくというのが実情で、その時の感覚がネットの時代でも残っている為、自分の作品を無料で配る作家はほぼ居ません。

早朝の草千里(浅川浩二)

しかし、キロクマ!に関しては「地域資産としての風景を皆で共有して楽しみ利用しよう」というのがコンセプトであり、そこに登録された作品に関しては著作権を行使しないという考えを踏襲して頂くことにしました。

Facebook にグループを作り今現在2,000人近い人が参加されています。その後ウェブサイトも構築し「熊本素材写真アーカイブス キロクマ!WEB版」として運営しています。

風景以外の写真も含め、熊本の写真を中心に4,000枚以上の登録数の写真を無料配布していますが、多分他県を含めこれだけの規模の地域型無料写真アルバムは存在していないのではないかと思います。

ナルシストの丘からの普賢岳の見える風景(浅川浩二)

基本的にこれらサービスは、個人の趣味から始まっていますが、すでにそれは地域貢献活動の一つと言えるものに育ったと言っても過言ではないでしょう。

そして、それらを運営している私にとっても、写真を撮るという楽しみを再度思い出させてくれたと言えます。今や、デジカメも10台以上を使い分ける状況であり、専門学校で写真の特別授業を行い場合もあります。

4.まとめ

写真は私に色々な価値を与えてくれています。「何かのプロが無料で仕事をしてはいけない」と、言われる場合もあるのですが、キロクマ!に関してはそういった事ではないと思っています。たとえば仕事として風景写真を撮影する依頼を受けるのであれば、それを配布すべきものではありません。しかし趣味で撮影して、資産としての風景を地域や個人に還元するという考え方であれば、問題ないはずです。

だって、その風景は私のものではない。

ですから、写真というメディアをメディアとして機能させ、それらを皆で共有していく文化を定着させたいというのがキロクマ!のテーマなのです。

それらが浸透して各地域にも同じ様なサービスが誕生すれば地域の観光産業などにも大きな資産が生まれます。





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