見出し画像

親日英国人の愛のある主張

1991年、日本の不良債権の実態を暴く『銀行の不良債権』という衝撃的なレポートが発表された。当時日本の銀行が20兆円を超えるという刺激的な内容は銀行業界に大論争を起こしたが、ほどなくそれは真実と発覚した。

その衝撃的なレポートを書いたのが、当時ソロモンブラザーズに所属しており、その後ゴールドマンサックスの金融調査ヘッドも務めた、デービッド・アトキンソンだ。

これだけ見ると、どれだけ日本に批判的な人物かと思うが、実は、超親日の英国人である。

親日すぎて、2009年には、国宝重要文化財を修理する会社である小西美術工藝社の経営を引き継ぎ、見事に再生している。

愛をもって日本を批評する彼の言葉には、信ぴょう性に加えて、ある種の強い願いを感じる。

そんな彼が、去年に『国運の分岐点』という本を発刊した。

サブタイトルがわざとなのか、随分挑発的である。

中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか

そこまでの極論について向き合うべきか否かはここでは論点にはしないが、日本の外からみた観点として面白い分析がいくつかある。

その中でも、「中小企業の壁」という部分が面白い。

書籍の通り、「日本が元気になるには中小企業改革が必要だ」というのが彼の主張だ。そんな中、日本では中小企業、小規模事業者に対する配慮をするために、様々な優遇策が存在している。代表的なものが下記だ。

①法人税率の軽減
②交際費の損金処理
③外形標準課税の軽減及び法人事業税の減税
④少額減価償却資産
⑤繰越欠損金 などなど

会社経営においてありがたいメリットだらけだが、これを享受するには「中小企業」か「小規模事業者」でなくてはならない。日本でいう大企業になったとたん、このメリットは得られない。

これは自分自身も節税のアドバイスをしていたときに当たり前に行っていたことだが、ほとんどの税理士が、中小企業の経営者に対して「税制上の優遇があるので一定数以上は資本金や従業員数を大きくしないほうが良い」と伝えている。

ちなみに、この中小企業と大企業を分ける規模は、諸外国と比べて日本はかなり小さいらしい。

ここが重要なポイントなのだろう。元をたどると昭和38年に当時の大蔵省は優遇を得られる範囲を制限しようとして、中小企業の規模の定義を小さく設定した(中小企業基本法)、とも言われている。それが逆効果になり、その時期から小さい気が洋画爆発的に増え、一企業あたりの社員数も低下しているようだ。

つまり、経営者のマインドと関係なく、制度上は「小さいことは良いこと」という非効率な方向へと大きく舵を切ってしまったと言える。そして、この中小企業基本法の制定が、日本の生産性が低い要因の一つとなっているというのが本書の重要な主張である。

また、もう一つ面白い主張は、「日本が中小企業びいきである」というものです。その象徴として下町ロケットが挙げられているが、あのように資金も人も足りない町工場が大企業に一矢報いるという構造の話はかなり日本人好みだが、他の先進国ではあまり見られないようです。

このような内容を論じられた後、本書では、中小企業の生産性を批判し、むしろ大企業・中堅企業が「国の宝」であり、規模を大きくするインセンティブ設計をすべきであると記載されている。

確かに、データでみると、「中小企業で働いている労働者の割合が大きいと、その国の生産性は低くなっている」という相関関係がある。

先ほども記載したが、ここでは、この極論について賛否をとることは意図していない。

日本では当たり前に浸透している「中小企業は日本の宝」という真逆の主張があるのであれば、これは冷静に解釈すべきだろうと感じ、共有に至っている。

思えば、日本の99.7%は中小企業である、とか、創業100年を超える企業の1/2が日本にある、とかいう情報は、それが日本の国力であることにはつながっていない。

すくなくともGDPでみた場合には。

ここに関しては、個人的に思うところがある。

GDPへの貢献が企業の価値である時代は終焉を迎えつつあるのではないか。関わった社員や顧客がどれだけ長く幸せになったか(いかに国家の幸福度に寄与したか)が、今後企業が目指す姿なのではないか」ということである。

筆者の主張の通り、日本がGDPという意味で国力を取り戻すのであれば、すべての企業が規模拡大を目指し、生産性を高めることが正論なのだと思う。

しかし、そもそも経済成長の限界を迎える世界において、それは目指すべき姿なのだろうか。むしろ、同じ目的をもった多くのコミュニティ(中小企業)が継続的に存在すること自体が、生産性は低くても、多くの人の帰属意識や自己肯定感を満たし、幸福度を高めるのではないだろうか

なんだかんだ、日本の中小企業の経営にまで関わった筆者は、きっとそんな考え方も持ち合わせた上で、あえて大好きな日本に対して、アンチテーゼを送っているのではと、考えさせられる本です。主張がシャープなので面白い。

追伸
ちなみに今ある「幸福度」の指標だけをあてにしていると、コスタリカのようになりかねません。



気ままに更新をしています。マーケティング、フィンテック、スポーツビジネスあたりを勉強中で、関心があう方々と情報交換するためにnoteはじめました。サポートいただけると力がでます。どうぞよろしくお願い申し上げますm(_ _)m