オモネリハルコン

私は中学2年生の時、生徒会役員に立候補した。理由はただ1つ。学級委員になれないことは分かりきっていたが、権力が欲しかったからだ。

学級委員って陽キャがなるものだし、私はもちろん陰キャだ。あと同じクラスにいた幼馴染である友人が、生まれながらのリーダー、学級委員の擬人化みたいな奴だったのでもはや勝ち目がなかった。私の下準備はそいつが生徒会に立候補しようとするのをやんわり阻止すること。

私の中学の生徒会は1年生の夏休み明けから立候補でき、1年生の夏休み明けに立候補した意識高い2人が2年生の夏休み明けから生徒会長と副生徒会長を務めることになる。そして、その中学2年生の夏休み明けに、1年生から新しい生徒会長と副生徒会長候補を募集するついでとして、書記長と書記次長という、会長職の下僕を募集するシステムだった。

私はどちらかと言うと権力の高い書記長に立候補した。

「学級委員は陽キャがなるものなので私はなれないと分かりました、だから生徒会で妥協しました」とはさすがに言えないので多方面に媚びへつらった"おもねり"マシマシの演説をブチかまし、見事書記長に当選した。

生徒会というと、何となくすごく偉そうな感じがする。けれど、私は生徒会役員となってから3日でこの組織は多方面に「おもねる」ことでメンツを保つ組織だと理解した。

要するに、外部向けの文章で「中学生らしさ」みたいなのを求められすぎるのだ。「勉強頑張ってます!!(๑و•̀ω•́)و」「先生は時に厳しく時に優しい!!(*˘˘*).。.:*♡」「仲間と切磋琢磨!!\(* ¨̮*)/\(*¨̮ *)/」この辺を言い換えて並べる作文が業務内容である。授業毎に「気を付け、礼、着席」と言わなければいけない学級委員よりもよっぽど簡単な仕事だ。

運がいいのか悪いのか、私は割と文章を作るのは得意だった。オーダーされた内容の文章は取り敢えず時間内に余裕を持って完成させてしまえた。デュフフ、俺TUEEEE。

しかし、ここで、私の人生をぎゅいっと左右する言葉が降り掛かってくるのだ。

「お前、文章堅すぎ」

ろくに文章を書けない、そもそも敬語が怪しい生徒会長がなんか偉そうに言ったのである。それを皮切りに「私もそう思ってた」「僕も」とみんな私の文章を「堅い」と言い出した。

「は?なんだお前ら!!お前らの文章、私がほとんど“添削してやってる”んだぞ!?!?」

そんな短気の子になってしまった書記長。しかし、そいつの文章は、確かに堅いのだ。
いや、もしかしたら今見ると堅くないのかもしれない。だがド底辺のアホ公立中学校で「不撓不屈の精神で」とか「慇懃を重ねる」とか使っているのは確かに背伸びしたバカである。

その時生徒会長に言われたありがたい言葉が「お前の文章はオリハルコン」。
要するにめちゃくちゃかてぇなという意味らしい。未だに思い出しては苦い気持ちになる。

私は何だか、人の文章を添削するみたいな作業を与えられがちだったりする。高校の部活の学会発表で使うレジュメの文章点検なんかがいい例だし、ちょうど今もそんな機会に恵まれている。

その度に、自分の文章って何?という疑問が湧いてくる。

背伸びしたバカのオリハルコン。
誰かに媚びへつらう、おもねりのオリハルコン。

私が文章を添削したとして、その人の個性は残せている?いやそもそも、その人の個性を潰してしまっていいような素晴らしいものを私は持っている?
他人の顔色を伺ってばかりの昔の作文は果たして「上手い文章」なのか?

ただ「おもねる」ことができるというだけで、それが私の評価だったのならば、きっと私の文章は土くれみたいな諂諛の塊だ。オリハルコンにすらなれないな。

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