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朝ドラと京アニの悲劇

NHKの朝ドラ『なつぞら』を毎日観ている。日本のアニメーション業界の黎明期を描いた作品を日々楽しんでいる。主人公のヒロインは、日本最初の女性アニメーターといわれる奥山玲子さんをモデルにしているという。そして現代のアニメーション界の礎を築いた名だたる名士たちが登場する(ドラマ上のモデルとして)。東映アニメーション創設者の大川博や、森康二、大工原章、大塚康生といった稀代のアニメーターに虫プロの中村和子、ジブリ作品の色彩設計の保田道世、そして若き高畑勲と宮崎駿もついに登場してきた。コンテンツ業界で働いてきた者にとっては、たまらない展開になってきている(たとえフィクションだとしても)。

この伝説のクリエーター達が同じ場所で同じ時間を共有していた事は、まさに奇跡である。このドラマを通して、奇跡のような時間がlegacyを生むのだと改めて感じた。この黎明期のクリエーターたちの精神を脈々と受け継いだ若き才能が試行錯誤、切磋琢磨して築き上げたアニメーションは、今や日本が世界に誇る文化となった。歴史や伝統だけが文化ではないのだと再確認させられた。

そんな中、京都アニメーションのスタジオが放火され35名の方が亡くなるという惨劇が起きた。京アニは今やポップカルチャーの中心となった深夜アニメのパイオニアであり、まさに世界に誇るアニメ製作会社である。この悲劇により失った財産と才能は計り知れない。我が国は大きな文化的損害を被ったのだ。その後、仕事をご一緒させていただいた監督が被害に遭われたと聞き、無念でならない。

重い気持ちのまま香港出張に降り立ったのだが、香港では多くの弔いの言葉をいただいた。そして、京アニ制作のアニメ作品のビジュアルには、多くのメッセージが書き込まれていた。Pray for Kyoani, 京阿尼加油・・・、様々な言語で京アニに対する思いがそこにはあった。海外で、涙と共にに改めて、京アニそしてジャパニーズアニメーションに尊敬の念を抱くこととなった。

事件直後に放送された『なつぞら』でのナレーションが感慨深かった。
“彼等の苦悩と冒険がやがて未来のジャパニーズアニメーションの担い手たちへの繋がっていくのです” 

アニメーションの魂は決して死なないと信じて、合掌。