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不良ラップを創出した男。SCHOOLLY D①

約40年前、1枚の12インチ・シングルが街角リリースされた。シルバーに黒文字で描かれた手書きのグラフィティー(というには可愛すぎるが)。シンプルなTR -909のビートと荒いスクラッチ、「そこの彼女、街角の怪しいものには手を出さないで僕のメルセデスに乗りなさい」とラップされる不良のための楽曲だった。

ラッパーの名前は、スクーリーD(本名はジェシー・B・ウィーバー・Jr.)。西フィラデルフィア出身。

フィリーの地元紙(?)〈City Life〉によれば、彼が少年だったとき、父親がクリスマスにベース・ギターをプレゼントし、すぐに近所の子供たちとグランド・ファンク・マザーシップ・コネクションというバンドを結成。そして、その8ヶ月後、楽器の練習をしないという理由でメンバーを解雇したらしい。彼がまだ9歳のときの話だ。彼は早熟すぎたし真剣すぎたのかもしれない。あるいはジョークなのかも。

オールドスクール・ヒップホップ見学〉によれば、彼の地元の52番街やパークサイド界隈には無数のギャング・チームが存在し、本人もパーク・サイド・キラーズというチームに所属していた。当時のLAしかり、アメリカのゲトーやダウンタウンはどこもこんな感じだったのだろう。しかし、彼は西フィラデルフィアからアトランタの学校へ編入させてくれた母親に感謝しているという。そのおかげで、ギャングに染まりきらなかったということか?余談だが、彼はその頃に聴いたランDMCにやられたと発言している。

アトランタからフィラデルフィアに戻った彼はラップをはじめた。家の前で仲間とラップ・ジャムをするが下手すぎてトラブルになりやめたらしい。19歳になった彼は地元の靴屋で働いた。お金も貯めた。自分はこれで成り上がると決めたかどうかは知らないがラップを続けていた。悪い仲間が、ドラッグでハイになったり商売したり、女をナンパしてるときに。

そんなストリート・ギャングは、ワイルド・バンチ、ヒルトップ・クルー、ムーンギャング・6-0・イン・ア・バケット、、、拳銃を手にした武装集団までいたそうだ。街角へ出ればギャングに当たる、まるでブロンクスだ。

そんな状況に嫌気がさしていた彼は、自分自身もギャングだった体験を元に、この状況をラップしようと決めたらしい(記述はないが、ビートも独学で学んだんだろう)。イラストも描いた。全て自分自身でやった。前述した靴屋で貯めた金でレコードをプレスした。そうやって完成したのが「Gangster Boogie」だ。ローカル・ヒットしたのか(?)同年に再発された。

ファースト・シングルで結果が出た彼は、すぐさま自身のレーベル〈Schoolly-D Records〉を立ち上げてセカンド・シングル「C.I.A. (犯罪行為)」をリリース。フィラデルフィアのダウン・タウンはギャングの本拠地とラップした(曲の後半に街角のサウンドが収録されリアリティーを感じさせてくれる)。

手書きロゴがたまらない

止まらない初期騒動?!同年にサード・シングル「P.S.K.-What Does It Mean?」をリリース。このレコードからDJコード・マネーがクレジット
された(スクーリーDとDJコード・マネーの関係性についての記述が見つからなかった。知ってる方はご一報下さいませ)。

一度見たら忘れられない

グランドマスター・フラッシュの傑作メガミックス「The Adventures of Grandmaster Flash on the Wheels of Steel」と同じイントロ「The Decoys Of Ming The Merciless(The Official Adventures Of Flash Gordon収録)」ではじまるエレクトロ・チューン。洞窟で録音したような凄まじいエコー?ダブ?は、一度聴いたら忘れられない強烈なビートとなった。

リリックもすごい。元々彼が所属していたストリート・ギャング〈パーク・サイド・キラ〉の名前をタイトルにした。しかし、それはダブル・ミーニング(セカンド・シングルもそう)で、PとSとKを頭文字に見立てスクーリーD流のラップ・マナー(?)をラップした。俺のシャウトと叫びでひとりひとりノック・アウトして行くというクダリは迫力満点。これが、この楽曲を最初のギャンスタ・ラップでありハードコア・ラップと呼ばれる理由だ。

こんな楽曲がスルーされるはずはない。のちにギャングスタ・ラップの代名詞となるニューアーク生まれ南ロスアンジェルス出身のアイスTやコンプトン出身のイージーE(N.W.A)に影響を与えた(本人たちがそれを公言している)。サンプリングアーカイヴ〈whosampled〉によれば、実に156楽曲にサンプリングされ、3曲のカヴァーが存在する。多いだろうなとは思っていたがこれほどとは!調べた本人も驚いた。これぞ、真のヒップホップ・クラシック!だ。


前述の〈オールドスクール・ヒップホップ見学〉にも、この楽曲についての詳しい記事が掲載されている。興味のある方はぜひ。

同年、過去シングルと新曲を収録したデヴュー・アルバム『Schoolly-D』をリリース。本人による手描きジャケットがたまらない。

翌年には、数枚のシングルをリリースした後、セカンド・アルバム『Saturday Night! - The Album』をリリースした。手描きイラストをモチーフにしつつシンプルだがデザインされた仕上がりに。作品ごとに色々な面で進化が見て取れるのもスクーリーDの特徴だ。自主レーベルならではとも言える。

その後、西フィラデルフィアの片隅で、全て自主制作で自身のレーベルから自分達の手で、父親のトラックで自身のレコードの行商をしていた彼はラッパーとして男になっていく。続く、、、。

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