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12月と1月の展覧会感想

「希望」をめぐる4つの個展
足利市立美術館(2023年10月28日–2023年12月24日)
希望とはとても不確かなモノだ。そこに表現する使命を見出した4人の作家の展覧会。
遠藤昭の戦争を生き抜いた強く逞しい炎のような作品に目を奪われた。戦火に怯えながらも必死に生きようとする人々の魂と決意が聞こえてきた。
貝野澤章の山や都市を立体的に切り取った絵画作品を見て、可能性のあり方を見直した。地図の先を見ることが可能性であって、そこに執着しないと教えられた気がした。
下川勝の記録する執念に度肝を抜かれた。ありとあらゆる事象を隅から隅まで形として閉じ込める手法に時を超越しようとする意志を感じ取った。
山口泉の希望を掴むエネルギーに惚れた。各原子力に対する事件、事故を恨みながらもどこか何か救いを受けられないかといった願いを痛いほどに向き合えてとても光栄に思った。
誰しも希望を掴みたい現代だからこそ実現した展覧会だった。そんな想いを託された気がした。

下川勝 『遊歩行ノートよりー植物からのことば/みっつの事象』
下川勝 『遊歩行ノートよりー日月の所作』
下川勝作品の展示風景



どうぶつとはなし 大曽根俊輔 乾漆彫刻展
太田市美術館・図書館(2023年10月14日−2023年12月24日)
仏教美術でしか接してこなかった乾漆の可能性を広げる展覧会だった。動物をリアルに型取り、あたかも柵のない動物園の中にいるような錯覚に陥り、その魔法にただただ土下座するしかなかった。止まってるのに鼓動が聞こえた不思議な空間だった。

大曽根俊輔作品の展示風景



上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす —菌類、植物、動物、人間
東京都美術館(2023年11月16日ー2024年1月8日)
新年1発目の展覧会めぐりをどこにしようかと悩んだ末に会期末を迎えるので、いの一番に足を踏み込んだ。
展示室に入ると一帯が生命への賛美を歌うが如く、命のエネルギーに満ちてた。動植物の生々しいほどに溢れてくる肉体や血液、鳴き声とそのパワーに圧倒されてしまった。
小林路子の展覧会は過去に一度吉祥寺美術館で見たけど、変わらない幻想的な雰囲気に呑み込まれた。優美で毒々しく、健康的なキノコの作品群にお目にかかれて誠に光栄だった。
辻永の植物画は悠久の時を閉じ込めたかの如く瑞々しいパワーが溢れてた。墨を線画に用いている効果で繊細かつ大胆な植物の世界をリアルに表現し、その相乗効果での没入感がすごかった。
高校生の時にバードカービングを美術の授業でやったことあり、その技法がまるまるそのまま作品にすることが出来るのを内山春雄で知った。凛とした主張を持った眼差しで領土を誇示した鳥達の楽園に入国したのが嬉しかった。
馬に関するコンテンツは直接で触れたことはないが今井壽惠の写真を見て実際に見てみたいと思った。作品からひしひしと伝わってくる駆け巡る足音や悠然な呼吸を感じ取りたくなった展示だった。
冨田美穂の牛の木版画はこの命を消費するありがたさを受け取った。普段から牛の製品を利用する機会のある人間からのレクイエムのような作品として見てしまい、憂いの帯びた目線がとても痛々しかった。
春日部にあった西武百貨店の一室で観覧して以来の阿部知暁の作品を見た。勇猛さと哀愁は再度感じたが、今回は優しさに包まれた感じがした。これら3つの感覚を混在出来る手腕の真骨頂を再び見れて良かった。
万物はいつも変化する。はじめて見る時や再び接する機会の大切さをしみじみ理解出来た。

辻永 『無花果畑』(左)と『牧場にて』(右)
内山春雄作品の展示風景
今井壽惠作品の展示風景
冨田美穂 『891全身図』
阿部知暁 『ブルブル』(左)と『スノーフレーク』(右)



動物園にて —東京都コレクションを中心に
東京都美術館(2023年11月16日ー2024年1月8日)
日本における動物園のあり方とあるべき姿を改めて考えさせられる機会だった。生態の多様性を鑑賞することによって学び、様々な客層が見ることで関心を高める目的が動物園であり、その間に出てきた戦争という事例がとても特殊であることを実感しました。

千鹿頭 CHIKATO 大小島真木 調布×架ける×アート
調布市文化会館たづくり展示室(2023年10月7日ー2024年1月14日)
近年、地震などの災害のニュースが世間で良く見かけます。その事象を抑える神々と境界線に目を向けた展覧会で正しく神を扱うことや自然と人間のあり方がきめ細かくわかった気がします。

大小島真木作品の展示風景



「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄
渋谷区立松濤美術館(2023年12月2日–2024年2月4日)
写真がどのようにして芸術作品として昇華するか、その変容を一覧する展覧会。日常を切り映し、ありのままに社会に伝えるツールとしての存在感を高めた写真だが、美術の分野に移すと一変し、事象を抜くのではなく、作品へ進化していった瞬間がとても心地良かった。その後もどの時代も日常と作品の共存共栄が続き、今に至ることが良くわかりました。

平良志季の「可笑し異界?」展 
佐藤美術館(2024年1月5日−2024年2月12日)
そこはまさしく異界だった。ユーモラスで面白く、尚且つ奇妙で地獄の底を追体験出来る仕掛け満載だった。ギャグとナンセンスさの狭間にいる空間は非日常を楽しむ美術館ならではのダイナミックな作品もあり、しばらくその余韻に浸った。

平良志季 『閻魔大王とLet's go☆鎖国』

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