チェコ スクポヴァ人形劇フェスティバル 2020年01月15日

フェスティバルHP:https://www.skupovaplzen.cz/index.php/en/

 このフェスティバルは、チェコ最大の人形劇フェスティバル。二年に一度、ピルゼンで開催される。ピルゼンはヨゼフ・スクパ(1892-1957)というチェコ20世紀人形劇の立役者の一人が生まれた町で、プラハからバスで一時間。
 フェスのプログラム選定基準は、「最近二年の、チェコ国内の最高の作品を集める」というもの。合わせて、チェコ国外の作品も招聘している。チェコ国内作品対象に、賞レースもある。

 ちなみに、いまどき人形劇フェスで賞レースをするのは、東欧の旧共産圏ばかりのようで、当の旧共産圏の人形劇人たちは「演劇界で賞レースなんて時代遅れ」と言っていた。文化庁などの助成金申請では「受賞歴」を書かせる事が多いが、どれほど意味があるのかと思う。たとえば公刊された新聞・雑誌のレビューを載せる欄があったほうが、ずっと作品のことが分かると思うが、現行では申請書に書く欄がない。

 メイン会場はピルゼン市立アルファ人形劇場。子供に優しい劇場なので、子供が遊べる場所や、子供が楽しめる演目も沢山ある。会場は他に、古い駅舎を改装した「Moving Station」という劇場や、古い工場を改装した「DEPO」という劇場がある。いずれも大きく、いい空間。

 フェスティバルで重要な要素の一つは、参加者たちの交流の場となるフェスティバル・バーがいかに居心地が良いかだと思う。このフェスはその点、とてもよかった。野外に設置されたテントのバーでは、すぐ隣の工場で作られたピルスナー・ウルケルが飲める! のは別にそんなにどうでも良いのだが、毎晩バーの中でオフ・プログラムの上演がある。

 オフ・プログラムとして、毎晩若手やアマチュアの芝居が9時頃から上演されるのだが、そのクオリティと盛り上がりが凄かった。(ただし、若手といってもプラハ藝術アカデミーDAMU人形劇専攻を出たばかりのフレッシュな才能の見本市だし、チェコではアマチュア劇団のレベルもものすごく高いので、公式招待作品よりオフプログラムのほうが盛り上がっていることも多い。)

外国人ゲスト用に、無線イヤホンによる同時通訳も提供。国際フェスティバルと銘打っておいて字幕・通訳一切無しという場合もわりと多いので、ほんとうに有り難かった。

以下、印象に残った作品だけ。

フォルマン・ブラザーズ(チェコ、プラハ)
『DEADTOWN』https://www.deadtown.cz/en/deadtown-story/
@ピルスナー・ウルケルビール工場内の特設会場
★★★ 

ミロシュ・フォルマンの双子の息子の劇団、「フォルマン・ブラザーズ」。プラハを拠点にしている。人形劇団としてチェコを代表するグループで、欧州では特にフランスで人気が高い。どの演目も大がかりで、ものすごくエンターテインメント性が高く、見られたらラッキー。

最初はレビュー風のダンスで幕が開き、誇張されたワイルド・ウエストのダンスやアクロバットなどが続くが、途中から西部のバーや家庭を舞台にした物語が始まる。舞台前面にほとんど透明なスクリーンがかかっていて、そこに映画のようなものが映る。映画と舞台が重なり合い、夢と現実のあいだのよう。終演後は舞台上がそのまま西部のバーになり、ビールが格安で振る舞われ、観客も演者と一緒に飲み明かす。

半円形のような独特な形の特設劇場を、上演の度に組み立てるので、招聘にお金がかかる。今年のフェスはこれを招聘した代わりに殆どの国外招聘演目を諦めなければならなかったとのこと(フェスのディレクター談)。

アルファ劇場(チェコ、ピルゼン)
https://www.divadloalfa.cz/index.php/en/repertory/item/731-tri-silaci-na-silnici
『三人のバイク野郎』★★

このフェスを主催している劇場、「アルファ劇場」の作品。演出はトマーシュ・ドヴォジャーク。この人は、チェコ人形劇界の本当の巨匠で、もうすぐ引退してしまうけれど、40年間チェコ人形劇のクリエイティブを支えてきた。ギャグ満載の良い脚本。アルファ劇場独特の、リラックスしたユーモアに合う。チェコの人形劇ってこれだよなあ、と思わされた。

近年人形劇界はオルタナティヴ・シアターとの境界がなくなってきて、それはクリエイティブ面で良いこともあるが、人形劇ならはの強さを感じられる作品が少なくなってきてもいる。その中でアルファ劇場は、人形劇にしかできない表現をやりぬいていて、通のフェス・ディレクターたちに熱狂的に支持され続けている。

俳優たちは全員革ジャンを着て登場、ロックンロールの生演奏(ユルい)にのせて、物語はすすむ。とはいっても技術は正確で、マリオネット人形なのだが、よく動くことこの上ない。音楽も、実は一人一人ものすごく巧く、芸達者なのだが、空気入れを一生懸命フカしてリズムをとったり、バカバカしい笑いが絶えない。

ヴロツラフ人形劇場(ポーランド)
https://teatrlalek.wroclaw.pl/pl/index.php?option=com_sppagebuilder&view=page&id=37
『POMNIK』★★☆

素晴らしい作品だった。プラハのレトナ公園に、止まったままの巨大なメトロノームがある。そこには元々スターリン像があったが、破壊されて、新たにアート作品としてメトロノームが置かれたが、電力供給がストップされて、動きもしない。この人形劇は、その、もとのスターリン像の彫刻家についてのお話。彫刻家は自殺している。

役者が素晴らしい。ユーモアもあるし飽きさせない。美術がよい。極めてシンプルなセットなのに、熱狂した。素晴らしい、ヴロツワフ人形劇場。ポーランドの人形劇にしては(といっては悪いが)、圧倒的にユーモアがあった。お話が暢気な隣国チェコについてだから、自国の歴史を語るときにどうしても出る沈痛ダークネスなトーンが抑制できたのだろう。舞台美術を担当したのはチェコ人のマレックさん。

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Handa Gote https://handagote.com/portfolio/faust/
『ファウスト博士』
★★

世界的に有名なアーティストFrantišek Skálaの息子(同姓同名)が人形製作を担当している。人形/舞台美術ともにすばらしかった。

1911年にVesely博士が書いたファウスト台本を用いて、当時の声色、言葉、全てをできる限り忠実に再現して作ったものだそうだ。わたしはチェコの伝統的人形劇ファウストを見るのがはじめてだったので、ドイツのものと比較してストーリーの違いなど面白く、大変満足したが、チェコのファウスト史研究者のカテジナさんは、「博物館におさめらることを目的としたような退屈な作品」と酷評・・・

でもこの作品を作ったHanda Goteは、プラハに「中庭のアルフレッド」(ジャリから名前をとっている)というオルタナティヴ・シアターを有しており、オルタナティヴにぶっとんでいて良質な人形劇を作り続けている。この劇団が、こういう歴史的に忠実なものをつくったのは、ある種の実験としてなのだろう。

DRAK 劇場(チェコ、フラデツ・クラーロヴェー)
https://draktheatre.cz/en/repertoar/white-fang/
『白い牙』★★☆

傑作! 一時期停滞していた、かの有名な劇場ドラークが復活。これからはまた世界の人形劇界を席巻していくだろう。

STUDIO DAMUZA(チェコ、プラハ)
https://www.damuza.cz/
『バヤヤ』★★☆

もともとプラハ芸術アカデミー人形劇科(DAMU)出身者によってつくられた、人形劇団コレクティヴ、DAMUZAのレパートリー。

フェスの最優秀賞受賞。特に目新しいところもない、『バヤヤ王子』の古典的人形劇なんだけど、ひかえめながら魅力的な俳優の演技、丁寧な操演、ちょっとだけ驚きのある舞台美術で、観客のこころわしづかみ。

人形劇界の老人から若者まで、人形劇ファンなら納得せざるを得ないでしょうという内容。めっちゃパンクな緑のモヒカンのアメリカ人の姉ちゃんが「めちゃくちゃ泣いた。やばい」と言いながらめちゃくちゃ泣いてた。ベタなお姫様・王子様ストーリーなんですけどね・・・

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KALD DAMU Plata Company(チェコ、プラハ)
https://www.minor.cz/repertoar/tisic-tuctu/
https://www.damu.cz/cs/katedry-obory/katedra-alternativniho-a-loutkoveho-divadla/
『Tisíc tuctů』★★

舞台セットは、タマゴの殻入れ! それだけ!
KALDという、DAMUの学生グループの作品。プラハのミノル劇場のレパートリーにもなっているようだ。

若くてインスピレーションたっぷりの、才能ある若手のグループという感じ。声による間抜けな効果音がいちいち笑える。「タマゴの殻」というものにまつわる人々の記憶と認識を最大限利用して、観客を笑わせてくる。

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二トラ新劇場(スロヴァキア)
https://www.novedivadlo.sk/
『ピノキオ』★★

文楽式、というかそれ以上の人数。一体を四人で使う。こういう風に複数人で操作する人形劇を指して、「BUNRAKU」とヨーロッパ人形劇界でよく言われる。稽古の努力を窺わせる、素晴らしい息の合い方。舞台の始まりは歌と踊り、楽しく可笑しい儀式のように始まる。

ピノキオが動き出すとき=人形が人形遣いによって命を吹き込まれる瞬間、というのをしっかり見せていて感動的。

しかし冒頭の素晴らしさに比べて、その後の論理的整合性が合わない(というか人形としての生命についてはもう言及されない)。ピノキオという人形と、人形遣いとの関係を最後まで描ききってほしかった。

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