ドイツ ボーフム FIDENA人形劇フェスティバル 2020年01月13日

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ボーフム FESTIVAL FIDENA
https://www.fidena.de/festival/

上の写真はオープニングにて。近くに居た地元のおばちゃんから「写真撮るなら、うちのタンスにあった人形、ほら手に持って!」と言われ、知らないカスペル人形を持たされている。隣にいるのは、ここで友人になった素敵なパレスチナの人形遣いファイルーズ。

ドイツには、ボーフム、ミュンヘン、シュトゥットガルト、マグデブルクなど、人形劇の拠点がいくつもある。フェスも沢山ある。その中でも、ボーフムのフェス "FIDENA"は、ドイツでは一番長い歴史を持つフェスティバル。二年に一回のフェスティバルで、前回の2018年でなんと60周年となった。現在のディレクター、アネッテ・ダプスさんは元々オペラなどの作品を手がけていた演出家だが、いまではフェスティバル運営のために良い作品を求めて世界中を飛び回っている。

ボーフムはルール地方にあり、炭鉱の街だった。が、日本でも良く知られるルール・トリエンナーレの例もあるように、このあたりは炭鉱が閉鎖されて以降、2010年頃から文化政策に力を入れている。しかし、現地の人形劇場の人々から話を聞くに、トリエンナーレのような大企画には助成金が下りやすいが、もとからあった小さな劇場等文化施設は対象にならず、相変わらずドイツでもっとも貧しい地域であるこのあたりで文化活動を続けることは大変だということだった。それでも街を歩くと、大学もあるし、カルチャー系の若者も沢山歩いていて、街に活気が感じられる。もちろん朝から酔っ払ってるおじさんも沢山居るが。ボーフムの今後に注目したい。

この "FIDENA" フェスティバルは州と連携して、海外のプロデューサーや研究者など対象に、朝から晩まで観劇して、現地の人形劇団・劇場・教育関係者と交流させるというプログラムもやっていて、私はそのプログラムの招待を受けて参加した。
International Visitors Programme
https://nrw-kultur.de/en/programme/internationales_besucherprogramm/#/

Xavier Bobés   https://mercatflors.cat/espectacle/cosas-que-se-olvidan-facilmente/
作品名:DINGE, DIE MAN LEICHT VERGISST (備忘録/忘れやすい物)
★★★

大傑作、90分間の一人芝居。客は5人限定。窓のない、テーブルとイス6客だけの部屋に入る。直径1mほどのテーブルの上だけでくり広げられる、オブジェクトシアター。人形遣いというよりは、手品師の手つき。
(↑ネット上には本人が作品について解説しているビデオしかなかった)

90分間、記憶を自在に操られたような。あたかも「わたしはバルセロナで生まれて育ったのに、記憶喪失になってしまって、忘れていたことをいま全て思い出してしまった」かのような脳内になり(※私は東京生まれ東京育ち)、まだ会場を出る前に、突然号泣してしまった。心と頭の中にある過去と未来と現在が、小さなオブジェクトと一緒にめちゃくちゃにひっくり返されて、受け止めきれなくなった。ちょっと味わったことのない体験だった。恐ろしい。

ハヴィエル・ボベスは独自のスタイルでオブジェクト・シアター一人芝居を作り続けている人形劇人なんだけど、劇場よりも密室で、少人数限定で見せている芝居が多いからか、情報が手に入りにくい。2020年にまたチェコで再会する予定なので、どういう経歴の人なのかそのときにインタビューしたい。

Puppentheater Halle https://buehnen-halle.de/puppentheater
作品名:THE VENTRILOQUISTS CONVENTION (腹話術師会議)
★★☆

個人の暗い内面を描く重い作品だが、傑作! 

ドイツのハレ人形劇場と、フランスの演出家ジゼル・ヴィエンヌの作品。自分が隠していた秘密を、人形がどんどん勝手に話してしまう。いつも確信に満ちた人形たち、不安で仕方がない人間たち。人形と人間、オブジェと人形、人形と子供、物質と魂・・・、違いを浮き彫りにしながら、境界を曖昧にする恐怖の舞台。

私は人形遣いではないのでひたすら面白く、戦慄しつつも笑いながら見たが、人形遣いの友人は「こうやって、人形遣いと人間がいつも一心同体で、人形が人間の本心を暴いてしまう、という見られ方をしているのは分かっているけれど、こう堂々と芝居にされると辛い」と言っていた。

すでに2017年に静岡のSPACが招聘したようで、慧眼だなあ! と思った。(日本で見た人によると、字幕が多かったのが少々辛かったらしい。)

AGRUPACIÓN SEÑOR SERRANO https://www.srserrano.com/es/
作品名:A House in Asia 
★★☆ 

バルセロナの有名なカンパニー。ヴェネツィア映画祭で受賞経験あり。アパッチインディアン vs カウボーイのアメリカ : アフガニスタン vs ブッシュ・オバマ・トランプのアメリカというアナロジーで、youtube、Twitter、ビデオゲーム、古い西部劇映画、軍事ものの玩具を使ってくり広げる、VRオブジェクトシアター。私はプロジェクターとiPhoneを駆使するこの手の「人形劇」をこのときに初めて見たので、「うっは〜!! へえ〜、すごいすごい!」という感じで超単純に楽しんだのだが、中国の若手演出家としてブイブイ言わせているチョン・ワン君いわく、「全然ダメ」とのこと。全ての技術が既に使い尽くされたもので、しかも演出上必然性がない、とのこと。まじかよ、もっとこの種のモノを勉強しなくてはと思った。(※2021年11月現在、その後このグループの作品を他に二作品見たが(BIRDとMOUNTAIN)、主題の扱い方が極めて表層的でどちらも良くなかった。)

AINSLIE HENDERSON https://www.ainsliehenderson.com/
★★

フェスティバル・バーでの無料上演。もともとブリティッシュ・ゴット・タレントで歌手デビューしたのに人形劇の世界に行ったという変わり種。歌えるししゃべれるし、しみじみした、いいアニメーションを作る! 

今回は作家自ら、その場でアフレコするという最高の上演だった。またうまいのなんのって。すばらしい才能。

ASSOCIAZIONE FIGLI D' ARTE CUTICCHIO https://www.figlidartecuticchio.com/
作品名:DAS GROSSE DUELL VON ORLANDO UND RINALDO UM DIE SCHÖNE ANGELICA(美しいアンジェリカをめぐるオルランドとリナルドの闘い)
★★

さすがシチリア最高峰の伝統人形劇団。すばらしい操演技術。すばらしい声色。面白い人形からくり。劇団長、ミンモ・クティッキオさんの存在感。

THÉÂTRE DE LA MASSUE  
https://www.ezequiel-garcia-romeu.com/theatre-de-la-massue--le-petit-theatre-du-bout-du-monde-opus-1.html
作品名:DAS KLEINE THEATER VOM ENDE DER WELT
★☆ 

おしりに胴串がついていたり、ミニ送風機やミニLED照明がついていたり、奇妙な形の人形ばかり。無言、繊細な動きをひたすら眺めるタイプの人形劇。

「現代の課題を解決するために、芸術家には詩的知識しか遺されていない・・・」「新たなトイレの発明・・・」 時々聞こえるへんな台詞。

客席構造が面白い。舞台回りをぐるりと囲む。客に電話をかけたり。客に手紙が届けられたり、客席と舞台上の人形とのやり取りが随時発生する。

JAKOB AMPE & PIETER AMPE  
作品名:Jake & Pete's Big Reconciliation Attempt for the Disputes from the Past
★☆

もう上演をやめてしまったグループで、フェス・ディレクターのアネッテが今回頼み込んで上演してもらったとのこと。

木箱を使った、とてもとても静かなアクロバット。どことなくユーモアがあり、すごく面白い瞬間もあった(歌が良い)。けど単調な場面が多く、殆ど動かない時間が長い、長すぎる・・・・・・ 最後にようやく役者二人の関係が分かるので、むしろこの先を見てみたかった。

WORST CASE SCENARIO 
作品名:23 THOUGHTS ABOUT CONFLICT
https://fringereview.co.uk/review/brighton-fringe/2016/worst-case-scenario/
★☆

わりと面白い面白いと前評判を聞いてしまったのでプロ劇団のしっかりした作品を期待してしまった。テルアビブに住む若者が、日常的に接するすごく小さな「衝突」についてのアイデア23。でも、コンフリクトというタイトルから想起される政治的なことには一切言及しない。

ブライトンのフリンジで初演されて好評を得たらしいので、若者の実験作として見たら面白くて冴えてるって感じたのかも知れない。

ダンサーとジャグラーとミュージシャンの男三人と女優?の四人組。女優だけ特に技術的な見せ場がなく、男三人がわがまま女を支えるみたいな構図は、今時やめてほしい。ところでこの作品には一切人形が出てこない。ジャンルで言うとフィジカルシアター、あるいはヌーヴォーシルクに当たると思う。最近の人形劇フェスは、こういうオルタナティヴ・シアターも全部含めることがあるけど、もう少し狭義の人形劇にこだわっても、十分良い作品を集められるはずなのになあと思う。

あと、パレスチナ人の友達と見ていたので、「アラビア語真似してしゃべっているけどパレスチナ人を難民って呼んでる、パレスチナ人はパレスチナの先住民であり難民じゃ無いのに」等々のコメントを聞きながら見ていたから、うまく没頭できなかったのかもしれない。

DEKOLTAS HANDWERK 
https://dekoltashandwerk.com/home.html
作品名:TRICKSTER
★☆  

人形美術や小道具が特徴あってわりと面白い(ゲイ感、キャバレー感)。大砲、鉄砲、といった様々な武器や、大きな振り子などのトリックを沢山使って、自分を何度も殺していく。役者自身と同世代の若い学生の観客に人気のようだった。(※2021年11月現在、この役者はドイツ人形劇界の気鋭の若手演出家として活躍しているようで、色々なところで名前をみるようになったが、シャルルヴィルで見た最新作は私は苦手だった〜。)

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