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海老の背中は今夜も丸い [0727日記]

つっかけをペタペタさせて向かう深夜のスーパーが、かなり好きだ。通勤定期圏内にある成城石井が、23時まで営業していると知った年末の喜びは凄まじかった。閉店30分前になると半額になるブラックタイガーの安否確認、そんな理由をつけて通っている。閑静な住宅街、言い方を換えれば夜間に誰かが目立つのを許さない土地で、成城石井はピカピカと人を愉快な気持ちにさせる光を放つ。厳選商品のポップに踊らされて、時にとてつもなくハズレの味に出会うこともある。新商品のトルティーヤチップスを買うか迷っていると、心の中の校長先生が話しかけてきた。

「皆さんのひとりひとりが、バイヤーです」

最近のヒット商品"りんご畑からジュースになりました"を買って、駅までの道で飲んだ。昔から"葉とらずりんごジュース"一択だったのが、大型新人登場。前者は味の輪郭に丸味があって、液体になる運命を受け入れている。200mlの紙パックが畑で鈴なりに実っているかもしれない。後者は赤く固い実に歯を当てた、最初のキレのある味がどこまでも続く。気高く、自分が何者であるかを忘れない。

先日東京へ行った時、豪雨に当てられた友人と私はビショビショになった服をコインランドリーで乾燥させていた。待つ間に一服しようと向かった灰皿の横に、自販機がずらりと並んでいた。そのひとつで"りんご三兄弟"が売られていた。小銭を入れようとしたところで、商品名の下に記された「果汁10%未満」にがっかりして買うのをやめた。非力すぎる。

100%の力でぶつかってくるリンゴジュースを飲んで地下鉄に乗ると、祭りからの帰りしなの人たちに取り囲まれた。浴衣の集団の内側で、私はいつもの私だった。

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