シャバ太郎

hardcore for life

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私はあなたに見つけてもらいたくて文を書く

昔々にハイソなホテルでアルバイトをしていた。今の私は思う、どうしてあの洗練された空間に20歳の私を雇ったのだろう。張り詰めた空気が一年中漂う、朱の漆喰が怖いくらいに美しい町家だった。 勤務初日。ソロリと玄関の引き戸を開けると、センスはあるけれど意地悪だと、見た目からわかる人がいた。その人は私の全身を蟻が這うように、ジリジリと見た後で「髪に艶が足りひん」とだけ言った。何なんだと思った。失礼と意地悪と素直さが混じった大人に会うのが、初めてだったから。 その人は、ワインと服を愛

    • 300万円が湧いてきた [0817日記]

      遠くから、なぞなぞボーイがやってきた。日陰でじとりと夏を過ごしてきたのが、今年は部屋でひとり泣いていない。卸売問屋で花火をどっさり買う約束をして、待ち合わせの時間までに用事を済ませるつもりだった。 気がつくと、200万円する大島紬を売りつけられていた。ショッピングモールに入っている呉服屋で、浴衣の下に着る肌着が欲しかった。帯と合わせた額を、3年間かけて月に6万5千円ずつ返済すればいい。ゴムみたいにぶよぶよした笑顔の店員3人が、何度聞いても理解できないことを言っていた。浪費家

      • キラーチューンにのせて [0814日記]

        レスリー・ヴァン・ホーテンが何をしているか、考えてしまう。90年代の映画に出ていた子役のその後を、深夜にネットで探す好奇心の延長だった。53年間服役した、マンソン・ファミリーのメンバー。半世紀のうちに激変した塀の外に慣れるため、1年間を過ごしたリハビリ施設を出所したのが今年の夏。窓から差す光が眩しすぎて目覚めた明け方、友人と別れて地下鉄に揺られる夜、頭の中には若い頃の彼女が浮かぶ。新しい暮らしをはじめたレスリーは、お気に入りの洗剤を見つけたのか、部屋でどんな曲をかけるのか。

        • 宿題じゃない読書感想文 [0813日記]

          起き抜けに友人とLINEをしていて、トトロはどんな匂いがするのか訊かれた。スチールウールみたいな感じかしらと考える間に、会話の波紋は形を変えて広がってゆく。読書感想文は毎年母親に書いてもらっていたと話すと、驚かれた。原稿用紙のマス目を眺めていると、頭が真っ白になる子どもだった。 いくつもの夏休みを越えた今。ちょうど読み終えた本の、感想文を書いた。 村上春樹「ラオスにいったい何があるというんですか?」を読んで 今年5月にバンコクを旅した。スワンナプーム空港で開いたGoog

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          光の先の羽虫 [0812日記]

          元恋人からもらった手紙、30通を捨てた。大阪から毎週末に送られてくる直筆の言葉は、暗闇を照らす確かな光だった。別れて1年が経ち読み返すと、羽虫がつくる長い列に変わっていた。便箋の上を行進する黒点たちに意識を向けすぎると、サッと集合して「これからもずっと一緒にいたい」と視界に映った。 正面から向き合ったら心が保たない。手紙の束を処分する作業中に流す、プレイリストをつくった。 「厄祓い-私はてめえの母親じゃない-」 共依存の先に、穏やかな「ずっと」はなかった。生きていても楽

          光の先の羽虫 [0812日記]

          アルバイトが休みの日に食べにゆくバイト先はいい店だよ [0809日記]

          福岡から友人がやって来た。京都で大学院生をしていた頃、彼女と一緒に満席のテーブルの間を駆け抜けた。私たちがバイトをしていた居酒屋は、学生を紹介制で雇う、義理と人情を煮詰めた店だった。個人店独自のルールに振り回されることがあっても、賄いを食べて日払いのバイト代を受け取る頃にはいつも上機嫌だった。思い出す出来事の全ては、いつも「やっぱりバイト先が大好きだ!」と締めくくられる。 納得いかないことがあると顔に出るし口も出す私は、おかあさんとよく静かに争っていた。一方の友人は、笑顔が

          アルバイトが休みの日に食べにゆくバイト先はいい店だよ [0809日記]

          なまず号はどこへでも [0808日記]

          大地震がくるかもと、駅にいる人たちが少しざわついていた。小さい頃から東海地震は必ず起きると言われ、なまず号で揺れを体験していた世代なので、いよいよかとお腹に力が入る。毎週木曜開催のDJ練習会への行きしなだったのを、空腹を優先。腹ぺこでレコードショップにいる時に揺れてしまったら、途方に暮れてしまう。 天津ラーメンを食べた。普段なら頼まないメニューが気づいたら目の前にあって、思ったよりニュースに動揺していることに気づく。 いつものこと、少し遅れて参加。食べ物がデザインされたジ

          なまず号はどこへでも [0808日記]

          答えはひとつ以上 [0807日記]

          大人といわれる年齢まで生きても、なぞなぞの答えがわからない。 幡ヶ谷に、いつも人で溢れている焼菓子店がある。しゃりしゃりとどっしりが地層のように重なったお菓子、ココナッツドリームを買うために、毎回長い列に加わっている。レジで渡されるレシートには、季節によって変わるなぞなぞが印刷されていて、難問揃い。Instagramで友人たちから答えを募集するまでが、おやつの時間だった。 "みどり色のお父さんやお母さんがいる、くろい赤ちゃんなーんだ?" バーバパパに決まっている。 疑

          答えはひとつ以上 [0807日記]

          夏を連れて部屋まで来た [0806日記]

          冬のうちに買いだめした茶葉が、なくなる気配がない。ダージリンから凍頂烏龍茶まで、クーラーを効かせた部屋で湯気が立つマグをいつも片手に持っている。 昨日に続いて、盆踊りに参加した。民踊界のヒットチューンがわかったので、YouTubeで予習しておこうと思い立つ。気がつくと、鹿児島実業男子新体操部の演技を観ていた。興味関心にいつだって斜めからアプローチをかけるアルゴリズムが、愛しくて憎い。指先を反らせることを意識すると、所作が美しくなることはわかった。 男子新体操部から得たもの

          夏を連れて部屋まで来た [0806日記]

          赤い輪の内側で [0805日記]

          遠くの雷鳴を聞きながら昼寝をして、陽が落ちてから盆踊りへ。タイに縁があるお寺が開催場所だったので、バンコクのコーヒーショップで買ったTシャツを着て行った。浴衣の着付けをできないなりの、正装。表には店のロゴ、裏には唐突に日本語で「デモンの軌跡 出口裕弘」とプリントされている。 デグチヒロヒロを背負い向かった会場は、かなりストイックだった。屋台はひとつも出ていない。櫓の横に長机が設置されていて、紙コップに注がれた麦茶がずらりと並んでいる。1曲踊るたびに水分補給に並び、また輪へと

          赤い輪の内側で [0805日記]

          仏像は彫っておりません [0804日記]

          ドリトスからタコスまで、トウモロコシに目がない。近所のパン屋が、好物をのせた新商品を売りだした。9時の焼きあがりを目指して買いに行くんだと決意して眠り、起きた。部屋着のタンクトップ・短パンで家を飛び出すと、ぐらぐらと熱風に当てられて、結局電車で向かう。夏になって、服の下に隠れていたタトゥーが姿を現すことが増えた。隣に座った子どもが、右脚のタコを不思議そうに見つめていた。老婦人は反対側の獅子舞を。 久しぶりに駆けたパン屋で会計を待つ間、いつもの店員さんと話した。何度か通ってい

          仏像は彫っておりません [0804日記]

          上を向くと涙もろくなる [0803日記]

          友人と、少し遠くまで花火を見に行った。彼女と知り合ったのは16歳の時で、私が留学して学年が下がっても、大学進学で京都へ越しても、付かず離れず仲が続いた。趣味がかちりと合うわけでもないのに、一緒にいる時の居心地のよさは何だろうと不思議だった。待ち合わせをしていた、会場最寄り駅まで一駅のところでわかった。腹を割っておならの話をしたことがあるからだ。 いつかに彼女と通話していた時、人と旅行中はおならを我慢してしまうよねと話していた。どちらが言ったかはもう思い出せない。 「我慢し

          上を向くと涙もろくなる [0803日記]

          再生する川久保玲 [0802日記]

          朝早く現金書留が届いた。普段受け取る郵便は情緒不安定な元恋人からの手紙か、公共料金の振り込み用紙の2択なので、詐欺かしらと不安になった。臨時収入は、受け取った日に使い切ると決めている。何を買おうか考えながら、特例として季節の変わり目に送られてくる、好きなブランドのカタログを整理した。 COMME des GARÇONSから届く封筒が溜まってきたら、いつも川久保玲・脱構築ゲームをする。ロゴ部分を1文字ずつ切り取って、新しい言葉へと並び替えてゆく。4シーズンぶんを使った。 "

          再生する川久保玲 [0802日記]

          体中にピラミッドが [0801日記]

          よくない結果なのは先週からわかっている打ち合わせに、40分かけて向かったら、嫌なことを10分かけてゆっくり伝えられて終わった。部屋に飾っているパイナップルリリー(今朝につぼみが満開に)のことを思い出さなかったら、その場で白目を剥いて失禁していた。早くバンコクでタコス屋を開いて、四柱推命の先生に「大きな組織に向いていない」と言われた運命と並走した方がいい。 ほの暗い感情に呑まれないように、街へ出た。ピラミッド柄のブラジャーとショーツを買った。薄紫と桃色が重なる淡い布地に、荒い

          体中にピラミッドが [0801日記]

          右手と左手で値段が違う [0731日記]

          午前中に行ったスーパーで、濡れた髪の毛の子どもたちが駆けた後に塩素の匂いがした。夏休みが始まっていることに気がついた。日本対イスラエルのサッカー試合の告知をSNSで見た。オリンピックが開幕していることに気がついた。近くも遠くも、良くも悪くも加速して季節が回っている。タトゥーが入っているから区民プールには行けないな、虐殺を続けている国でも出場できるんだ。青果売り場で桃を眺めながら、心は違う場所にいた。 酷い暑さで自炊をしたくなくて、松本第一高校食物科で検索した。Instagr

          右手と左手で値段が違う [0731日記]

          蜜月歩行 [0730日記]

          明け方トイレに起きた時、フローリングへ吸いつく足の裏が面白くて、隙間がないじゃんと笑いながら気づいた。これが扁平足ではないか。大学の喫煙所でよく顔を合わせていた人が「俺、土踏まずないから歩いてて疲れやすいねん」と言っていた。彼が歩くたび、ビルケンシュトックのサンダルと足の裏が、電車のドアのようにぴったり閉じていた。スパルタ保育園に0歳から預けられていた私の土踏まずは、裸足教育で鍛えられていたはずだったのに。 すっかり目が冴えてしまって、白黒つけないといけない気がした。昨日観

          蜜月歩行 [0730日記]