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読書日記~『旅のつばくろ』沢木耕太郎著

読書日記が続いてすみません。
本屋さんで見つけました。沢木耕太郎さん、好きです。と言っても読んだ本は限られているのですけど。

JR東日本の『トランヴェール」という雑誌に連載されたものをまとめた本です。そんな感じ、する。


帯には「初の国内旅エッセイ」とありました。異国への旅を繰り返してきたけど、国内の旅はほとんどしてこなかったとのことです。

そのなかの文章を少しだけ紹介しながら、この本を書き留めていきたいと思います。

落ち着きのある文章

沢木さんは写真でしか知らないですが、物静かで知性的なイメージがあります。惹かれます。文章もそんな感じがしました。素晴らしい風景に出会ったり心動かされる場面もある。そんなときでも、静けさや落ち着きを感じました。

その文章、表現の素晴らしいこと。沢木さんなんですから当たり前なんですが。

木々が濃淡さまざまに異なる緑の葉をつけており、それが風に揺れ、あるいは朝の陽光を通してキラキラと耀いている。また、その脇の渓流の水がやはりさまざまに異なる濃淡の音に変化し、激しい流れのところでは純白の飛沫を撒き散らしている。

P132より引用

写真がなくっても、その情景が浮んでくる。そう、写真がないんですよ。私が旅行記を書くときは、写真がいる!私が目指すところは、ここではないかと思いました。自然描写だけでなく、人の心も映し出す筆力がほしい。


足跡をたどる

初めてひとりだけの「大旅行」が、16歳の時の東北旅行。お金がないから夜行列車に乗ったり、駅に泊まったりの12日間だったそうです。この時の足跡をたどっています。

宮沢賢治や太宰治や寺山修司、三上寛など東北にゆかりの人々が出てきます。

私は夕暮れの淡い陽光に照らされた古い民家の前にたたずみながら。これが宮沢賢治が住んでいた家だったのか、これがトシを看病していた家だったのかと、心の奥でひとりつぶやきつづけていた。

P.23より引用

行きたいところは、行ってみたかったところ。必然的に、沢木さんが今まで生きてきた道をなぞる話になっていると思いました。フリーラーターとして仕事をしてきた気概が感じられます。

白米の棚田

能登半島、白米(しろよね)の棚田を訪れています。ライトアップされた棚田の幻想的な風景を目にして、立ち尽くします。

闇によって海と溶け合った白米の棚田を眺めつづけた・・・。

P115より引用

先月の能登半島地震で、白米の棚田は崩れ落ちました。テレビに写っていました。なんてこと、と思います。白米の人は遙か昔から棚田を守ってきたことでしょう。こんなことが起こるって、今度の地震はどれだけまれな災害だったのか。
沢木さんも思いを馳せているでしょうか。


旅運

旅運。「旅における運の良さ」みたいなもので、沢木さんは「どちらかと言えば、旅運の良い方だと思う」と書いています。予期しないことが起きたとき、むしろ楽しむことができるからではないか。そのためには「面白がる精神」が必要だと書いています。

これを読んで私は嬉しかったです。私も旅運がいいと思うし「面白がる精神」も持っているなあと思うからです。沢木さんと同じ。嬉しい。

ま、私の場合、「おもしろいことが向こうからやってくる」という感じなのですけどね。

この話は函館編にあります。去年行きました。その次の小樽と同様、自分が行ったところがある場所の話は嬉しいものです。単純。

文学館とか美術館とかも多く訪れています。作家ですね。味わい方が違う。


「春が散る」

嬉しかったこと、まだあります。本の中に、沢木さんの小説「春が散る」のことが出てきます。映画を見ました。主人公の出身をどこにしようかと地図を見たのだそうです。そうやってイメージを作っていくのですね。

失敗する経験

沢木さんは、今時は、おいしい店も何も、ネットで調べると聞いて、おいしい店には行けるだろうが、「もったいない」と言います。失敗する経験を逃してしまう、と。

可能なかぎりネットに頼らず、自分の五感を研ぎ澄ませ、次の行動をする。ただそれだけで、小さな旅もスリリングなものになり、結果として豊かで深いものになるはずなのだ。

P213より引用

私も、行き当たりばったりのところがあります。あまり調べない。映画も本も。その方が感激が大きい時がある。そう思います。

でも、初めての所に行くとき、スマホの地図を頼りにする。通りすがりの人に道を聞くという、そんなコミュニケーションの機会を減らしているなと思います。

最後に

たくさん紹介してしまった。完全ネタバレしていますね。

とても読みやすく、旅に行きたくなる本です。沢木さんの魅力に触れることもできます。お勧めです。

ヘッダーは、レンガ倉庫と函館山。

函館の街を望む


奥入瀬

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