マガジンのカバー画像

ひとりの本好きが、本好きの友だちと交わす往復書簡。

39
読んだ本について手紙を書く。本好きから本好きへと書く手紙。往復書簡。手書きの必要はありません。ここから始まった往復書簡がいくつもあります。あなたの手紙、待っています。
運営しているクリエイター

#手紙

衝動に身をまかせる——セルバ・アルマダ『吹きさらう風』、車谷長吉『贋世捨人』

拝啓 やはらかに柳あをめる岸辺を歩きたい。そんな季節になりました。水面に映る青をみて、あ…

既視の海
2か月前
13

待つ方がいいのか、待たせる方がいいのか——太宰 治『待つ』『走れメロス』

拝啓 色づきはじめたもみじに小糠雨がそぼふるなか、あなたへの手紙をしたため始めました。 …

既視の海
7か月前
19

「ことば」という大河にたゆたう——ヘルマン・ヘッセ『シッダールタ』、ガブリエル・…

拝啓 一日の気温差はいまだに激しいものの、快い風がそよぐ時節になりました。窓を開けると金…

既視の海
8か月前
19

自分を信じるのは、実際的で手触りのある行為——フランソワーズ・サガン『悲しみよ …

拝啓 青い空を突き上げる入道雲はすっかり遠のき、鮮やかな彼岸花が風に揺れています。 あな…

既視の海
9か月前
17

「ことば」を満たす<器>になる——鷲田清一『だんまり、つぶやき、語らい——じぶん…

拝啓 9月だというのに残炎おとろえるところを知りません。ただ、夜の生きものが眠りにつき、…

既視の海
9か月前
14

「誰が正しいのか」よりも知りたいのは——トーベ・ヤンソン『誠実な詐欺師』、日高敏…

拝啓 夏の忙しい日々が、ようやく終わりました。のびた髪を切り、傷んだ靴を新調し、ゆがんだ…

既視の海
9か月前
29

書かれた言葉ほど、書いた人の不在を感じるものはない——ダヴィド・フェンキノス『シャルロッテ』

拝啓 半夏生に大雨はつきものですが、災害の報に胸が痛みます。あなたが暮らす地方はいかがですか。山々に囲まれて台風には強くても、近ごろの豪雨であれば、穏やかな河川も猛威を振るうものです。 思いもよらず向田邦子の随筆も、あなたの心で大きなうねりとなったようですね。ご紹介した『手袋をさがす』だけでなく、『眼があう』に、それこそ眼がとまったのは、あなたが意識せずとも持っていた感性に触れたからでしょう。 そんな「眼」を持つあなたが教えてくれた盲目の絵本作家エムナマエによる『あなた

同じ書物を読む人は遠くにいることを知る——岡崎京子「万事快調」、向田邦子「胡桃の…

拝啓 向暑のころとは思えない朝夕の気温差と、1日ごとの寒暖差です。それでも我が家の庭では…

既視の海
1年前
31

言葉の力を信じる——ジル・ボム『そらいろ男爵』、鎌田實『雪とパイナップル』、アー…

拝啓 寒暖の差が大きく、薄暑というには朝の冷気が身にしみます。しかし、あなたからの手紙は…

既視の海
1年前
13

あえて苦しみを引き受ける愛——辻 邦生『光の大地』

拝啓 満開だった桜が少しずつ散り始めました。ふんわりと舞う花びらは、春の光とともに祝福し…

既視の海
1年前
32

「憧れ」こそ生きる力——森村桂『天国にいちばん近い島』【書評】

拝啓 心惑いながらも一つひとつ言葉を紡いでいるあなたの手紙、とても嬉しく拝読しました。 …

既視の海
1年前
5

「共犯」に、なりたい。——トレイシー・シュヴァリエ『真珠の耳飾りの少女』【書評】

拝啓 十年に一度という寒気が通りすぎようとしています。乾いた東京の空にも雪が舞いました。…

既視の海
1年前
21

「お」の抽斗をつくりたい

拝啓 この冬で一番の寒気が近づいているなかで、あなたの言葉一つひとつが胸をじんわりと暖め…

既視の海
1年前
18

【第10信】「あわい」を見つめ考え続ける——吉田篤弘『雲と鉛筆』【書評】

拝啓 午後になり、西日が机のうえに差し込んできました。夏にはうっとうしい西日も、冬ならばありがたいです。 先日の手紙から、言葉というものを、また違った視点から見るようになりました。いま、死に瀕しているわけではないものの、どこか言葉を求めています。書く言葉であれ、読む言葉であれ。 そんな一節を思い出し、吉田篤弘『雲と鉛筆』を手に取り、再読しました。 主人公の「ぼく」は、石段を180段のぼった先にある建物の屋根裏部屋で暮らしながら、鉛筆工場で働いています。好きなのは、読書