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ひとりの本好きが、本好きの友だちと交わす往復書簡。

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読んだ本について手紙を書く。本好きから本好きへと書く手紙。往復書簡。手書きの必要はありません。ここから始まった往復書簡がいくつもあります。あなたの手紙、待っています。
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#書評

「誰が正しいのか」よりも知りたいのは——トーベ・ヤンソン『誠実な詐欺師』、日高敏…

拝啓 夏の忙しい日々が、ようやく終わりました。のびた髪を切り、傷んだ靴を新調し、ゆがんだ…

既視の海
9か月前
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いのちや意識の「あわい」にあるものは——河合隼雄『中空構造日本の深層』、フィリパ…

拝啓 暦のうえではすでに秋。台風が通り過ぎたあとを「野分のまたの日こそ、いみじうあはれに…

既視の海
10か月前
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想いを「書く」とはどういうことか——まはら三桃『思いはいのり、言葉はつばさ』

拝啓 あまりの暑さに茫然としているうちに、7月も終わろうとしています。御身体の具合はいか…

既視の海
11か月前
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何が「書くこと」に駆り立てるのか——石村博子『ピㇼカ チカッポ 知里幸恵と「アイヌ…

拝啓 いまだ出梅の知らせもないままに、炎威ばかり厳しさを増します。御身体はかわりありませ…

既視の海
11か月前
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刻々と変化し続けるもの、それでも変らないもの——小林秀雄『無常という事』『歴史と…

拝啓 九州の災害の報に胸をいためつつ、関東の酷暑も災害のようです。ただ、天気予報の「体温…

既視の海
11か月前
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書かれた言葉ほど、書いた人の不在を感じるものはない——ダヴィド・フェンキノス『シ…

拝啓 半夏生に大雨はつきものですが、災害の報に胸が痛みます。あなたが暮らす地方はいかがで…

既視の海
1年前
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身を賭して成し遂げるものは何か——かんべむさし『車掌の本分』、上橋菜穂子『バルサの食卓』

拝啓 夏至をすぎれば梅雨も折りかえし。ただ近ごろは、そぼ降るよりも篠突く雨ばかりに思われて、伊勢物語に出てくるような長雨が恋しくなります。 お忙しいようですが、お身体は多少癒えましたか。 健康のことは、わたしよりもあなたのほうが十分にご理解なされているでしょう。目の下に隈をつくって「守り人」に耽ることはないとお察ししますが、バルサに劣らぬ頑丈な身体は、まず食から。上橋菜穂子・チーム北海道『バルサの食卓』はお手元にありますか。冒険ファンタジーでありながら、バルサやチャグム

書かずにはいられないもの——町田康『私の文学史』、早川義夫『女ともだち』

拝啓 いつになっても梅雨は好きになれません。ただ、雨が上がり、地面からむわっと湿り気が立…

既視の海
1年前
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「思い出す」のは過去ではなく、現在——有吉佐和子『悪女について』、宮本輝『幻の光…

拝啓 ついに入梅かという湿っぽい気持ちを隠せない一方、静かな雨音をききながら読書するのを…

既視の海
1年前
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あの人だったら、どう行動するか——フォレスト・カーター『リトル・トリー』、向田邦…

拝啓 台風一過の青空も束の間、少しずつ灰色が混ざってきました。やはり梅雨が来てしまいます…

既視の海
1年前
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語り得ない言葉を、読む——梨木香歩『家守綺譚』、山本昌代『応為坦坦録』

拝啓 葉のうえにそそぐのが霖雨ではなく沛雨であることにため息がこぼれます。折節の移ろいは…

既視の海
1年前
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読書の祝祭たるものは——志村ふくみ『一色一生』、柴田元幸訳『ハックルベリー・フィ…

拝啓 五月尽日というのに入梅のような曇り空です。平年よりも1週間ほど早い。季節感が一枚、…

既視の海
1年前
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同じ書物を読む人は遠くにいることを知る——岡崎京子「万事快調」、向田邦子「胡桃の…

拝啓 向暑のころとは思えない朝夕の気温差と、1日ごとの寒暖差です。それでも我が家の庭では…

既視の海
1年前
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歩くことと、言葉を紡ぐことは似ている——ハン・ジョンウォン『詩と散策』

拝啓 朝の冷えた空気を楽しんでいたのに、にわかに暑くなり、額のしずくをぬぐってみたら、汗ではなく雨粒でした。もう少し五月の風をうけさせてくれと祈るように雨空を見上げました。 雨では歩きに出るのにも億劫でしょう。張り詰めた気持ちは、すぐには緩められないと思います。しかし、そうやって歩くことはむしろ、身体の感覚を研ぎ澄ますかもしれません。そこで感じたことを言葉にしたとき、詩がうまれます。そんな、あなたの姿を思い浮かべながら読んだのが、ハン・ジョンウォン『詩と散策』というエッセ