【銭湯巡り】台東区・鶴の湯/ラドンの心地よさに唸る下町銭湯
埼玉の親元を離れ、東京で暮らし始めたのは9年ほど前。
最初の住まいは台東区・浅草のワンルームだったのですが、そこへ引っ越した時、手続き上の事情でガスが転居初日だけ使えないことに。これではお風呂にも入れません。
新生活の初めからこんなん大丈夫なのかと不安がりつつ、その旨を不動産屋さんに相談。すると「それなら近くに良い所ありますよ〜」と紹介して頂いたのが、浅草寺裏手から遠くない所の、とある一軒の銭湯でした。
そこが僕にとっての初銭湯で、ここから都内の銭湯通いがずっと続いていくのですから、人生や生活の変化というのは何が切っ掛けで起こるか分かりません。僕が東京で過ごした年月は、銭湯とともに過ごした年月とも言えます。
仕事の都合で浅草から東京西部に移って数年になりますが、今でも里帰りのような気分で時々入りたくなる、思い出深い温もりの銭湯。
それが今回紹介する「鶴の湯」です。
■鶴の湯に行くまで&鶴の湯の近辺
浅草寺裏手の閑静なエリアにある鶴の湯
鶴の湯があるのは、東武浅草駅から馬道通りを北方向に進み、15分ほど歩いて脇道に入った住宅街の中。
一大観光地の浅草寺や仲見世界隈の大賑わいから若干の距離を置き、昔ながらの一軒家や地元企業の事務所、真新しい小型のワンルームマンションなどがモザイク状に並んでいる地域になります。
最寄りの区立山谷堀公園は、かつて隅田川に流入していた「山谷堀」を埋め立てた公園で、隅田川近くから吉原の手前まで細長く伸びています。
公園の所々に浅草地域の工芸史を示すモニュメントが設置されている他、春には沢山の桜と東京スカイツリーを同時に眺められる隠れた良スポットなのです。
また、少し離れていますが浅草寺や待乳山聖天(まつちやましょうでん)など、浅草に数多い有名な寺社とのアクセスも非常に良好。
浅草のお寺や神社を訪ね歩き、または隅田川沿いや山谷堀公園などをのんびり散歩し、疲れを癒やしに鶴の湯へ…というルートが組みやすいのもメリットでしょうか。
■鶴の湯の外観と入店〜脱衣所
渋めの入口に突如「ラドン発生ユニット」
鶴の湯の外観は力強い宮造り(寺社仏閣のような作り)の「ザ・日本の銭湯」と言わんばかりの佇まい。
単に古めかしいのでなく、屋根瓦も軒下に見える木組みも綺麗に磨かれていて、如何にも浅草らしい堂々とした力強さを漂わせています。
入り口の暖簾をくぐって玄関に入ると、年季の入った渋目の靴箱と、その横の「ラドン発生ユニット」なるレトロな謎マシンがお出迎え。
ここに最初に入ったときは「何だこれ!」「空の大怪獣!?」とビックリさせられました。
ラドンといえば東宝の某怪獣王映画などで色々印象深いですが、鶴の湯のラドンは怪獣の彼とは全く関係ありません。謎は浴室で明らかになります。
「これぞ銭湯」という暖かな店内&暖かな入湯価格
靴を脱いでロビーに入ると小さな休憩スペースがあり、その奥がすぐフロントです。
初めての銭湯で、どう入ったらいいか分からない、という時は、お店の御主人に尋ねてみると良いでしょう。
鶴の湯の方々は非常に柔らかな雰囲気なので、困ったことや分からない事には気さくに応えていただけます。
鶴の湯の料金は入浴料+大小タオルのレンタル込で750円。
通常の銭湯はサウナ料金も加算で800~1,000程というのが平均ですが、鶴の湯はなんとサウナ料金がタダというのがリーズナブルで非常に嬉しいところ。(※2022年10月時点のお値段です)
僕の場合はここが初銭湯だったので、他の銭湯に行った時に「えっサウナ料金を払うの!?」と少し驚いたのはここだけのナイショです…
脱衣所は年月を経た味わいがある荷物入れ、宮造り特有の開放感ある折上格天井、マッサージ椅子など、まさに銭湯の定番セットといった内容。
中央に大きなテーブルがあり、いくつか椅子もあるので、入浴後の休憩などにも便利です。
こちらで衣服を脱いで荷物入れにしまったら、いざ浴室へ。
■浴室の雰囲気、構成
新旧の調和した浴室内&コンパクトかつ多様なお風呂
浴室は2011年に改装されたとのことで、壁面を飾る乳白色のタイルと、落ち着いた光量の間接照明が穏やかな気持ちにさせてくれます。見上げてみれば、宮作り銭湯に特有の高天井。このように、近年のリノベーション銭湯と昭和風銭湯をミックスしている所も、鶴の湯の特徴です。
浴槽は全体的にき小さめ〜中くらいのサイズ、その代わりに種類が多く、コンパクトながら様々なお風呂を楽しめます。
・絹の湯(シルク風呂)
湯温若干ぬるめ。微小な気泡のおかげで入浴剤なしでも白く不透明なお湯になっています。
肌ざわりがとても柔らかく、入浴の初めに体を慣らしに入るのも良し、浴室を出る前にのんびり高天井を見上げながら入るのも良し。
・ミネラルの湯
湯温は若干高め。装置を使ってお湯にミネラルを含ませているそうです。一つの浴槽にジェット付の座風呂、底が深めのハイパージェット、電気風呂の3種類が備わっています。
ハイパージェットはかなり強めで、取っ手を掴んでないと流されそうになるほど。座風呂のジェットも強めにツボを刺激してくれます。電気風呂は2枚の電極板が対面になっている通常の形でなく、背中側と右横側で逆L字型に付いているという変則スタイル。
・ラドン風呂
この銭湯の目玉。中くらいの湯温で、この風呂だけの個室になっています。詳細は後ほど。
・露天薬風呂
湯温は熱め。こちらも個室風呂になっていて、天井が外気にも繋がっている半露天風呂。まずは腰まで浸かって半身浴、体が慣れてきたら肩まで浸かるようにすると入りやすいです。
・水風呂
水温はやや柔らかめ。水風呂が苦手な人でも入りやすい温度。
・サウナ
室温は中くらいの6〜8人用。こちらも後述。
■サウナと水風呂
心地よく汗を流しながら邦楽を聴けるサウナ
サウナの大きさは6〜8人程度が入れる中くらいのサイズ。席は上下2段、室温は中くらいで、サウナに慣れている人なら上段でもゆじっくりと汗を流していられます。上の項目でも書いたように、サウナ分の追加料金なしでも入れるのが嬉しいところ。
サウナ室内にテレビモニターはなく、代わりに有線チャンネルで常に邦楽が流れています。僕が初めて鶴の湯を利用した頃は昭和歌謡や演歌やメインだったのですが、何年かして現在流行りの曲がメドレーするようになっていました。
僕は最近の邦楽には(アニソンを除き)疎い方なので、鶴の湯のサウナで体を熱しつつ「この曲カッコいいな」と思い、歌詞を覚えておいて後で検索したりということも度々あります。
ゆったり入れる水風呂
水風呂は4人程が入れる大きさで、宮造りの天井を眺めながらゆったりと浸かっていられます。
外気浴専用のスペースなどはありませんが、薬風呂個室の天井が外に開放されていて、そこから外気が入ってくるので、そこにカラン用の椅子を持ち込んで涼んでいる人も時おり見かけます。
■鶴の湯の『推し』ポイント
骨身に染みるラドン風呂の心地よさは随一!
コンパクトながら名湯揃いな鶴の湯でも、個人的に一番の「推し」は何と言ってもラドン風呂!
ラドン温泉という天然にも存在する熱水のガス(ラドンガス)を安全な濃度にしてお湯に溶かし込んだもので、銭湯入り口にあった「ラドン発生ユニット」は、実はこの風呂に繋がっているのです。
浴槽サイズはギリギリ脚を伸ばせる程度の小さなものですが、それとラドン風呂がこじんまりとした個室になっていることも相まって、むしろ家の風呂が広くなったような気分にさせてくれるのです。
ラドンには様々な健康効果もあるのですが、それよりも鶴の湯のラドン風呂が優れているのは、湯温と湯質自体の心地よさ。
カランで体を洗い、湯船に身を沈めた時の、思わず「あぁ…」と溜め息が漏れてしまう感覚は、他の銭湯でも余りないものです。
夏を過ぎて秋から冬には、ラドン風呂のなかに湯けむりがこもります。
柔らかいお湯にとっぷり身を委ね、湯船の縁に首筋を預けながら、天井の灯りが湯気にくもるのを淡々と見つめる…至福のひとときです。
常連さんたちの繋がりと賑わい
鶴の湯のお客さんは地域に住んでいる高齢の方から、家族連れや学生さんまで様々。
三社祭などに代表されるように江戸っ子的な気風が強く、お客さん同士でご近所同士・ご友人同士ということも多いため、入口や脱衣所、浴室内では浅草ならではの威勢の良い挨拶や世間話が珍しくありません。
また、お店の方が浴室の見回りに来た時などは、お店の方と常連さんで談話することもしばしば。こうした風景にコッソリ聞き耳を立てているだけでも元気がもらえそうです。
昨今はコロナ禍以降の「黙浴」推奨で、こうした風景も一時遠のいていましたが、コロナが緩むのに従ってまた快活な話し声が戻っているようです。
僕自身は浅草を離れて結構な年月が経ち、今では鶴の湯に入るのは2、3ヶ月に一度程。それでもお店の人や常連さんが僕の顔を見て話してきてくれると、「社会へ独り立ちした僕にとっては、ここが第二の故郷なんだな」と感慨深い気持ちになるのです。
■鶴の湯の湯上がり
夜の浅草は楽しみが盛りだくさん
良いお風呂で一通り良い汗かいて、その次は美味しい酒や肴と行きたくなるもの。鶴の湯は奥浅草の商店街にも、浅草寺周辺のビッグな歓楽街にもアクセス良好なのが長所です。
銭湯を出たら最寄りの千束通りまでは目と鼻の先。そこから南に少し散歩をすれば庶民的なアーケードのひさご通り、さらに南へ抜けると有名歓楽街のホッピー通りや浅草六区。どこにも街中華や美味しい食堂・居酒屋が目白押しです。
夜の浅草寺や仲見世通りへ行き、都内最古の歴史を持つ寺社の夜間ライトアップを鑑賞しに行くのも良いかも知れません。
僕は写真を撮るのも趣味にしているので、鶴の湯で入浴し、お風呂上がりに千束通りで一杯、帰りに浅草寺に立ち寄って夜景撮影というのが、僕的には最近の定番ルートになっています。多分これからも定番でしょう。
おわりに
如何でしたでしょうか。鶴の湯の良い所、自分にとっての鶴の湯など、拙文ながら紹介させて頂きました。
この文章を読んで「次の週末は鶴の湯に行こう」と、もしくは他にも「まずは身近な銭湯に行ってみよう」「浅草に行こう」と考えて頂ければ幸いです。ご覧いただき、ありがとうございました。
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