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韓国・江原道(カンウォンド)の文学旅

何年か前から、韓国文学を読むのが好きだ。K-POPやK-DRAMAという言葉があるように「K-BOOK」という言葉もある。今回、K-BOOK振興会が主催のK-BOOKアートツアーというものに参加した。ソウルからバスで3時間以上かかる「江原道(カンウォンド)」というエリアの書店や出版社を巡る旅。久しぶりの海外旅行ということもあって、さまざまな感性のスイッチが押されるような刺激の連続だった。

久しぶりの国際線に緊張しながら、金浦空港へ。

海外旅行は久しぶりだ。前回行ったのが何年前なのか、はっきり思い出せない。少なくともコロナ以降は行っていない。保安検査場の列の折り返しですれ違う人の中に知った顔を見つけた。人違いだったら恥ずかしいな、なんて思いながら、声をかけてみたら、やはり友人だった。行き先は偶然にも同じ韓国。乗る飛行機は違ったけれど、搭乗口も近かったのでボーディングタイムぎりぎりまでおしゃべり。おすすめの韓国の小説について話したりした。

彼はソウルで一度飛行機を乗り換え、南の方にある光州に行くという。私はソウルからバスに乗って、北の方にある江原道へ行く。同じ韓国でも気温から何から色々違いそうだという話もする。羽田から韓国にいくのにどちらも目的地がソウルじゃないところが、なんとなくいいなと思った。韓国旅行ではソウルしか行ったことがなかったので、改めて脳内に地図を広げて韓国の広さを感じる。久々の海外ということもあって、2日前から緊張と興奮が冷めなかったのだが、飛行機に乗る前の友人とのわずかな、穏やかな会話でようやく少し落ち着いた。

日本を出発してすぐに見えた富士山

今回のツアーは金浦空港での現地集合。2時間20分のフライトはあっという間。一人で飛行機に乗り込んだら、どうやら顔つきで韓国人だと思われたのか、CAさんは私に入国管理カードを渡してくれなかった。入国審査のとてつもなく長い列を並んでようやく順番が回ってきた時、「列の最初に戻ってカードを取って書いてもう一度来るように」と言われたときには軽く絶望した。しかし空港職員の優しいスタッフさんのおかげで、書き終わり次第すぐに対応してもらえた。

少し時間を潰してから、金浦空港の入り口に全員が集まってバスに乗り込む。今回は総勢23人のツアー。自己紹介のマイクが回ってくる。みなさん、韓国語歴が長かったり、翻訳家をしていたり、韓国にまつわる本の編集をしていたり、韓国に関わる新聞記者さんだったり。今回の旅の中で、圧倒的に韓国の初心者なのが私だろうなと勉強不足をほんの少し恥ずかしく思いつつ、だからこそ新鮮な刺激を楽しめばよいのだろうと開き直ることにした。

ホン・サンス監督の映画で憧れた江陵(カンヌン)の街

最初に訪れたのは江陵(カンヌン)という街。私はホン・サンス監督が好きなのだが、特にキム・ミニ主演の『夜の浜辺でひとり』が気に入っている。この映画の舞台はドイツ・ハンブルクと韓国・江陵。海のある落ち着いた街なのだろうと映画を見て想像していた。映画の中では、ソウルから逃げてきたというようなセリフで、江陵の居心地の良さについて語るシーンがいくつかあった。どんな位置関係なんだろう。ソウルとはどんな違いがあるんだろう。

実際に江陵に来てみると、ソウル市内の渋滞に巻き込まれたこともあり、バスで4時間以上かかった。さっきまでは東京でも見かけないほどの超高層ビルが立ち並ぶ景色だったのに、あっという間に山々が聳える景色に変わっていた。

ソウル市内を走り抜けるバスからの風景
江陵に向かう道中の景色

さすがに4時間も移動して到着すると、夜がはっきりと暗い。初日に泊まったのは「韓屋(ハノック)」と呼ばれる伝統家屋。靴を脱いで部屋に上がると、オンドルという床暖房で足の裏があたたかい。シャワーを浴びて布団を敷いていると、同室になった方がとても韓国に詳しい方で、テレビをつけて『千年鶴』という映画を教えてくれた。パンソリ(韓国の伝統歌謡)の歌い手が主人公で、映画の中にも韓屋の中での生活が描かれている。今日、この韓屋に泊まりながらこの映画を見るという没入感がたまらなかった。

烏竹軒(オジョッコン)の韓屋村は大勢が宿泊できる施設。

映画の中で描かれる韓国の田園風景や昔ながらの韓屋での生活の暖かさ、美しさは、日本でいえば黒澤明監督の映画『夢』に出てくる「水車のある村」に通じるものがあるように感じた。色合いや、ゆったりとした時間の描き方を夢中で見ていたら、私は韓国語がわからないまま字幕もなしで映画を見続けているということに気づかなかった。後から調べてみたら、『千年鶴』のイム・グォンテク監督は韓国の黒澤明と呼ばれることもあるようだ。なんだか納得した。

念願の江陵の海岸にも、行くことができた。きっとホン・サンスの映画に出てきた撮影地からは少しずれているだろうけれど、とても波の穏やかな海。砂浜ではカモメたちが羽を休めていた。海沿いには信じられないほどたくさんのコーヒー屋さんが並んでいて、いかに韓国にカフェ文化が強く根付いているのかが見えてくる。テイクアウトでカフェラテを買って海を眺めたら、大好きな映画『夜の浜辺でひとり』の世界に少し溶け込めたような気がした。

江陵の浜辺

ソウルの華々しい煌びやかな都会のイメージは過去2回の旅で印象に残っていた。だからこそ、足を伸ばした江陵という街で、ときどき浜辺で水平線を眺めながらぼーっとするという生活が、ソウルとの対比として描かれていたのだろう。長時間のバス移動を経て、ようやく辿り着いた浜辺を体感できたからこそ、映画の解像度が少し上がったような気がした。

韓国語が読めなくても大満足できる「GO.re書店」

映画のことばかり考えてしまったが、今回の旅の主目的は「K-BOOK」。実は、韓国語が読めないのに韓国の書店に行って楽しめるのだろうかという不安を抱えていた。でも、そんな不安は必要なかった。「GO.re書店」は地下一階、地上4階という立派な建物。書店だけでなく、ベーカリーやカフェ、コミュニティスペース、ギャラリーも併設している。

書店代表のキム・ソンヒさんにもお話を伺った。書店や出版社での経験は全くなかったにも関わらず、ご自身の4人のお子さんに豊かな文化を伝えたいということでこの書店をオープンしたという。もともと、街の大きな産婦人科だった建物を、著名な建築家に頼んでリノベーションして開いた書店とのこと。なおかつ、本を売るだけではなく、ベーカリーやカフェを併設することで、違う目的の人にもお店を訪れてもらう、そしてついでに本を見てもらう、という導線を作っているのだそうだ。

1階のテーブルでは、カフェで購入したものを楽しむこともできる。

キム・ソンヒさんは、本棚の並びについてこう語っていた。

「従来の書店らしい作り方がわからなかったから、人の人生になぞらえて本棚を作りました。最初は文字が読めないから絵本から。そしてものを知ったり学んだりしたくなるから科学などの本を。そして年を重ねたら健康のことも気になるから料理にまつわる本を。さらに大人になったら自分の家がほしくなるから建築の本を。そうした一生を2階の本棚で表現しています。」

韓国の本屋事情にはあまり詳しくないけれど、少なくとも日本では小説や実用書などジャンルごとに並べたり、出版社ごと・著者ごとで並べたりすることのほうが多い。「GO.re書店」の本棚の並び方は、なんだか神楽坂の「かもめブックス」のようで、文字は読めないながらも親近感が湧いたし、楽しみながら眺めることができた。

さらに楽しかったのは、韓国の本の装丁。大胆なデザインの表紙も並んでいたり、製本の仕方もかなり多様性があったり。言葉がわからなくとも、欲しくなってしまう本がたくさんあった。

太宰治やフィッツジェラルドもかなりポップになっている
詩やエッセイを主に扱う出版社の文庫本シリーズ
村上春樹『街とその不確かな壁』が総合ランキング3位。日本版とは全く違うイメージの表紙。

ここまで大型の書店に海外で足を踏み入れたことがなかったので、ただただ圧倒され続けた。なおかつ「GO.re書店」のキム代表が語るやさしく穏やかな口調と、とても強い江陵という街への愛情と、地域の作家・詩人を巻き込む熱意に、本当に素晴らしい空間にいるのだなという実感がどんどん込み上げてきた。もしもまた江陵に来る機会があれば、もっとゆっくりここに滞在して、どんな人たちの日常の中に、どう溶け込んでいるのかを観察しながら、ゆっくりとコーヒーを飲んで読書をしたい。

日本語でも執筆した作家、李孝石(イ・ヒョソク)

私は韓国文学が好きと言いつつ、まだまだ最近の作品を、しかも翻訳されたものしか読んできていない。今回の旅に参加して、もっと時代を遡った作家たちの素晴らしい作品がたくさんあるということを目の当たりにした。

その中でも印象に残っているのが、作家「李孝石(イ・ヒョソク)」の文化村。文学館ではなく文化村というのはどういうことだろう?と思いながら、まずは本館へ向かう。どうやらこの李孝石という人は日本語でも書いていたらしい、ということをうっすらは聞いていたが、あまりきちんと調べずに現地についてしまった。

李孝石文化村の庭園では見事な紅葉が始まっていた

解説を聞いたら、複雑な気持ちになった。彼が日本語で書いていたのは、好奇心から日本語を学んでいたのではなく、日本統治下の朝鮮で、総督府によって朝鮮語での執筆が禁じられていたから。それでも習得した日本語で作品の執筆を続けていたというのだから、彼の表現したいという強い思いには感動した。と同時に、自分の母語を奪われるという残酷さがどれほどのものだったのか、なおかつ、それが「作家」という言葉を本業とする人にとってはどれだけの失望があったのだろうと考えた。李孝石による直筆の日本語原稿の文字は目を見張るほど美しく、しかしこれを書いていたころの時代の空気を考えたら、苦しい気持ちになってしまった。

この解説を聞きながら頭に浮かんだのは、沖縄のこと。以前、ひめゆり学徒隊の生存者の方々のインタビュー記録映像の文字起こしをボランティアをしていた。彼女たちは戦時中の教育によって標準語を強いられていた。彼女たちのおばあちゃんたちが話していたことを再現するときにだけ出てくる「うちなーぐち(沖縄ことば)」。外国語なのか国内の方言なのかに関わらず、もとからあった美しい言葉を奪うということの残酷さを私はなかなか受け入れられないなと考え込んでしまった。帰国してから数日経つが、いまだに考えに整理がついていない。

文化村から眺めた景色

一方、暗いことばかりでもなく、李孝石の代表作でもあり、韓国のほとんどの教科書に載っているという「そばの花咲く頃」という短編について、ソウルのような都心では想像するのもなかなか難しい自然の美しさについては、この文化村に足を運んだからこそ実感ができた気がする。

残念ながらそばの花の季節は過ぎていたけれど、それらが映えるであろう原風景のような夕景を眺められたのはよかった。きっと一人旅で韓国に来ても、なかなか辿り着けない場所だったような気もする。

絶対に想像できなかった形の「タッカルビの〆のご飯」

ツアーの中では、文学だけでなく地元ならではの食もたくさん味わった。特に、ほぼ全員から歓声が上がったのが、江陵から春川(チュンチョン)という街に移動してから食べたタッカルビ。春川タッカルビというのが有名らしいのだが、どんな特徴があるのだろう。とにかく鍋がとんでもなく大きいらしい、というのはバスの中で説明を受けていた。

これが春川タッカルビ

たしかにすごい大きさの鍋。鶏肉と一緒に炒められているのは一口大にカットされたさつまいもに、トッポギ。鶏肉がこんなにふんわりプリっとしたタッカルビは、日本で食べたことがなかった。ソースにはたっぷりの唐辛子が使われていて、煙だけで少し目が痛い。でもそんな痛みを忘れるほど美味しくて、箸が止まらなくなる。

〆のご飯がとにかくおいしいとのことだったので、満腹にならないようにどうにかセーブして、頼んでみた。すると、タッカルビを全て皿に取り、からっぽになった鍋の上で韓国海苔とごはんとコチュジャンのようなものを混ぜ始める。なるほど、韓国風チャーハンなのかな。

そう思っていたのはここまでだった。お好み焼きでもここまでやらないというくらい、お米をぎゅうぎゅうと鉄鍋に押し付けて平たく伸ばし始めたではないか。おこげでも作っているのかな?とおもっていると、鉄鍋に焦げついた部分以外の表面のお米を全部掬い取ってしまう。何が始まるのかと思ったら、カッターの刃のようなものがついたコテのような道具で、見事な手さばきでくるくるとおこげを巻き始めた!

ひとりひとりに取り分けてもらったので食べてみると、カリカリな表面に、中はもちもち。なんだか秋田の「きりたんぽ」のような食感にも思える。いつも〆のごはんは軽めにしか食べられないのに、これだとどんどん食べられてしまって危ない。パフォーマンスも食感も味も完璧。今、これを思い返して書きながら、もうすでに恋しくなっている。

香ばしくてモチモチ。

風光明媚な散歩道に佇む出版社「散策」

書店だけでなく、出版社にまで足を運べたのは「K-BOOKアートツアー」の醍醐味の一つだと思う。同じく春川にある「散策(サンチェック)」という出版社。素晴らしい川と山と古い街並みが残る風景を散歩できる立地という意味での「散策」でもあれば、読書は心の「散策」という意味でもあるという。さらに、韓国語読みでの「サン=生きている/チェック=本」という同音異議語にもかけているそうだ。

オープンしたての「散策」オフィス

訪問した前日に新社屋に移転したばかりだそうで、私たちが初めてのお客さん、と言われた。そんな貴重な機会にオフィスを見学できるなんて贅沢なことだ。

「出版社散策」は、江原道のことを伝える出版社として、地元の歴史についてや、街のことなどにまつわる本をたくさん出している。ローカルな書籍をたくさん出そうという出版社が、中心市街地ではなく、昔ながらの街並みを残す川沿いのエリアに居を構えているのは、なんらかの覚悟のようなものも感じる。屋上から周囲を見渡せば、隣の家の物置の屋根にはかぼちゃがなっていた。韓国では屋根がもったいないから、畑として活用することもあるんだそうだ。

白い車の左側の屋根にかぼちゃが。

この日、軒先では江原道の他の出版社も招いてささやかなブックフェアを開いていた。江原道の雄大な自然を写した写真集などを展開する出版社もいれば、詩集のシリーズを展開する出版社も。今は秋の入り口というちょうど心地よい季節だけれど、冬には川沿いの木が樹氷で覆われるとのこと。樹氷だなんて、日本では山形の蔵王など、かなり山の奥の方に行かなければ見られないものだとばかり思っていた。きっと美しくも厳しい自然だからこそ、この江原道という地域で育まれる感性もあるのだろうなと想像を膨らませた。

川も山も空も眺められる、散策オフィスの屋上から。

全相国(チョン・サングク)「文学の庭」

作家である全相国(チョン・サングク)さんの文学館にも伺った。バスを停めて坂道を徒歩で登り続けて10分ほど。森の向こうに現れた立派な建物を案内してくれたのは、ハンチングがトレードマークの作家、全相国さんご本人。

エントランスに入るとまず目に飛び込んでくるのは、これまでに献本いただいたという本がずらっと1万冊以上並んだ本棚。「ここに並んでいる本も雑誌も全て初版本です」と、自慢したいのだと語りながらもえらぶる様子は全くなく、とにかくピュアにこれをたくさんの人に見てもらいたいという空気がにこやかに伝わってくるあたたかい人だった。

全相国さんご本人による館内ツアー。

恥ずかしながら、ここを訪れるまで全相国さんの作品を読んだことがなかった。彼の作品は、いくつも韓国でドラマ化されていたり、数々の雑誌で表紙を飾ったりしていて、きっと国民的な作家なのだろう。にも関わらず知らなかった自分のことを恥じていたが、よくよく聞いてみると日本語に翻訳されているものは短編が二つだけなのだという。

韓国でたくさん目にしてきたたくさんの本。そして表紙に惹かれた本。たくさん気になるものが増え続けるツアーではあったけれど、日本にまだまだ翻訳されて届いていないものがたくさんあるというのが、なんだか少し寂しくも感じた。翻訳本がもっと増えたら嬉しいなと思うし、読める本を増やすために韓国語を勉強してみたいという気持ちが増してくる。

もう一つ、全相国さんがにこやかにかわいらしく自慢していたのが、日本の「www」に該当する笑いを表現する「ㅎㅎㅎ」。この、ハングルの母音をつけない子音だけの表現を韓国で初めて使ったのが、全相国さんなのだそうだ。「こういう新しい表現を見つけることが楽しくてずっと書き続けている」と嬉しそうに語る姿が、とても印象的だった。

たしかに「ㅎㅎㅎ」の文字が記録されている。

歩き疲れて入った汗蒸幕。エントランスで思わぬ一悶着。

これでもかなり旅の様子を割愛して書いているのだが、それくらい濃厚で濃密な3泊4日。長時間のバス移動もありつつ、気がつけばiPhoneが「平均の歩数に変化がありました」とアラートを出すほど、とにかくたくさん歩いた旅でもあった。

韓国のホテルはだいたい浴槽がなく、シャワーだけ。日本国内の出張に慣れている体は、あたたかいお湯に浸かるリフレッシュで一日を終えることができない日々で、小さく悲鳴を上げ始めていた。最後の夜、春川のホテルから歩いて20分ほどのところに「汗蒸幕(ハンジュンマク)」と呼ばれる韓国の伝統的なサウナがあることを見つけた。なんだか趣もあって良さそう。ただしそこにはサウナだけ。いわゆる大浴場はない。

同室のお姉さんがもう一つ見つけてくれたチムジルバン(いわゆる銭湯)には、サウナもお風呂もあるらしい。この際、両方行ってしまおう!と、サウナのはしごをすることに決めた。

最初に入った、大浴場なしの汗蒸幕は韓屋のようなつくりで、見た目にも癒される。サウナであたたまったあとは、中庭のマルと呼ばれる高床の板の間にごろんと横たわって涼む。いつもの癖で「サウナに入ったら水風呂に入りたいよなぁ」と思っていたけれど、そういえば香川県で入った「から風呂」も石窯の中で温まった後、溜池から吹く風で涼んだのだった。服を着たまま入るというのもなんだか少し似ている気がする。

こんな景色を眺めながら外気浴できる贅沢

どうせサウナのはしごだから、とシャワーで汗を流して、すっぴんに部屋着のまま次のチムジルバンへ向かった。こちらはかなり地元感が強い。

何度も言うけれど私は韓国がわからないので、受付での申し込みは韓国語が堪能なお姉さんに頼んだ。しかしなにやら受付のおじちゃんと言い合いになっている。どうにか入場できることになったようなので何があったのか聞いたところ……。

「りおちゃんのこと、未成年だと思ったみたいで、未成年は入れないって言ってて。妹だとかいろいろ言ってみたし、外国人だって言ってるのに韓国人のはずだって言い張ってて!」

かなり地元感が強いチムジルバン

まさかの、韓国人の未成年に見えていたのか!(さすがにもう35歳なので、未成年と思われて嬉しいわけでもない。)そういえば、前日の夜に一人で少し遠目のコンビニまで散歩していたらナンパされたのだが、その男性にも「韓国人に見えるよ!」と言われた。韓国語で話しかけられ続けて、なんとか英語に切り替えたらそう言われたのだ。

春川の川の夜景きれい!と写真を撮っていたらナンパされた

実は旅の最後に、今回のツアーで現地の支援をしてくださった江原文化財団の理事長にも、「あなたはとても韓国人のような顔ね!」と言われたのだった。冒頭の飛行機の中で、外国人に配られるべき入国管理シートをもらえなかったことも、なんだか腑に落ちてきた。

日本の漫画コーナーで『女の園の星』というコメディと、伊藤潤二のホラー作品が並ぶということ

旅はあっという間に終わりを迎え、帰りの飛行機を待つ間、金浦空港直結のロッテモールで過ごすことにした。ロッテモールはかなり巨大なショッピングモールで、永豊文庫(ヨンプンムンゴ)という大きめの書店も入っている。

せっかくだからと、すでに大量の本でずっしりと重くなっているスーツケースを引きずりながら、いろいろと本を眺めてみることにした。漫画コーナーもかなり目立つところにあり、スラムダンクやSPY×FAMILYなど人気作が並んでいる。さらに注目コーナーのような棚があったので眺めたのだが、日本ではなかなか見かけない並びに驚いた。

まず、和山やまさんの、何度読んでも声を出して笑ってしまうコメディ漫画『女の園の星』の1巻が置かれている。好きな漫画がこうして海外でも大々的に扱われているというのは、ファンとしてなんだか嬉しい。しかし真横に3冊並ぶのは、ホラーで名高い伊藤潤二さんの作品ばかり。ジャンルで言っても日本だったら別の棚に並ぶ気がする。

上段中央の4冊がまさにそれ。

一回冷静に考えてみよう。と思って眺めていたら、もしかしたら海外の目線でみたら、表紙の絵のタッチでみると少し似たジャンルに見えるのだろうか……?とても気になるけれど、この時は通訳をしてくれる人たちとも解散してしまったあとで、書店員さんに質問することは叶わなかった。

国を越えると、同じ本でも想像しなかった陳列になることがあるのだなと翻訳文学についてあらためて考えた。逆に、日本に帰って翻訳文学コーナーを現地の人の目線で考えてみるのも新しい発見があるのかもしれない。

帰国してからも、K-BOOKを追い続けたい

最後の最後まで、韓国の本について、そしてそれを取り巻く文化や、さらに広げて映画やドラマまで、個人の旅行では絶対に味わえないほど深いところまで堪能できたツアーだった。

K-BOOK振興会の運営事務局としてアテンドしてくださったクオンの金承福さんと佐々木静代さんには、感謝してもしきれない。そして、このK-BOOKアートツアーがコロナ以前は毎年開催されていたというのだから、これからもまた違ったエリアに行くときには、絶対にこのツアーで参加したい。

韓国語がほとんどわからない(カムサハムニダとアンニョンハセヨくらいしか言えなかった)私ですらこれだけ大満喫できたのだから、きっと韓国語を勉強し始めたらもっともっと深い理解をもってこの旅を味わえるのだろう。そして、まだ次に韓国に行く予定はないけれど、東京にいてもK-BOOKフェスなどで引き続き韓国文学に触れ続けていたいと思った。

金社長、佐々木さん、本当にありがとうございました!

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