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2024年4月まであとわずか――物流の「2024年問題」にどう立ち向かうか

公益財団法人流通経済研究所
主任研究員 鈴木 雄高



間もなく直面する物流の「2024年問題」

今年も早いもので、もう年末ですね。そして、来年の4月が近づいています。

2024年の4月まで、残り4か月を切りました。

私が2024年4月を気にしているのはなぜかというと、このタイミングでトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用されるからです。

これにより、荷物の配達がこれまでのように行えなくなるなど、物流が停滞することが懸念されています。このことを、物流の「2024年問題」と呼んでおり、目下、経済産業省、農林水産省、国土交通省が共同で物流の適正化・生産性向上のガイドラインを策定したり、ビジネスでは競争相手となる企業同士が協力して配送効率を高めるために取り組むなど、多くのプレイヤーが対策を講じている真っ最中です。

ここで、少しだけ、昔のことを振り返ってみましょう。昔は――例えば、2000年を思い出してみると、当時、自宅に届く小包の数は、今よりもかなり少なかったはずです。国土交通省「令和3年度宅配便等取扱個数の調査及び集計方法」によると、2000年の1年間における宅配便の取扱個数は25.7億個でした。これが、2021年には49.5億個(23.8億個の増加、+92%)になっています。宅配便の取扱個数は、直近5年間(2016年~2021年)という短い期間においても、約9.3億個(+23%)も増加しています。

No Delivery No Businessの時代~ラストワンマイル配送をどうするかが大きな課題

宅配便の取扱個数の急増はECの利用拡大による影響が非常に大きいことは言うまでもありません。私たちが、便利な購入方法としてECを利用すればするほど、取扱個数は増えていくわけです。しかし、それを支えるドライバーが不足している上に、間もなく、「2024年問題」に直面することになります。

現在、EC専業の事業者以外にも、スーパーマーケット各社がネットスーパーを手掛ている他、ドラッグストアやコンビニエンスストアでもECに参入する企業が相次いでいます。かつて、流通経済研究所の理事・根本重之は、「2020年代は、No Delivery No Businessの時代になる」※1と予想しましたが、それが現実になりつつあります。

店舗で集荷した商品ををトラックで顧客に配達する方法は、利用者から配送料を徴収しないと、その事業単体で黒字化することは難しいということが長らく指摘されてきましたが、たとえ配送料を設定したとしても、「2024年問題」に直面すると、一戸ずつ巡回して配達するこの方法で増加する需要に対応することは難しくなります。この、ラストワンマイル配送を、いかにして減らすかが、「2024年問題」における重要な課題のひとつになっています。

米国では、オンラインで注文した商品を店舗の駐車場で受け取る「カーブサイドピックアップ」が、コロナ禍に大きく利用者を増やしました。日本でも同様の方法を採用している店舗小売業がありますが、日本には馴染まないのではないかという意見も耳にします。私は、自動車来店者がそもそも多い店舗であれば、この受け取り方法に対するニーズはそれなりにあると思いますが、どうでしょうか。

アークスグループの物流改革

北海道や東北で地域密着型のスーパーマーケットを展開しているアークスグループでは、注文した商品を店舗の駐車場で受け取る方法を、スーパーアークスとビッグハウスの7店舗で採用しています(2023年12月5日現在)。アークルグループが店舗を展開する北海道や東北は、日常的に自動車を利用する人が多いため、駐車場で受け取ることに対するニーズは大きいと思います。北海道新聞の記事(2023年9月28日)※2によると、この受け取り方法は好評を得ているそうですので、今後、この方式を採用するアークスグループの店舗が増えるかもしれませんね。

アークスグループは、今から10年前の2013年にロジスティクスグループを設立し、グループ全体で物流改革を推進しています。配送の一元化や、センター活用等、物流を通した環境負荷軽減や地域の課題解決にも取り組んでいる他、「2024年問題」への対策として、主に青果の集荷に鉄道貨物を活用する「モーダルシフト」も進めています。また、北海道の運送会社と協力して、トラックが関東で荷下ろしした後の帰路に荷物を相乗りさせ、北上しながら各地からの集荷とグループ各社への配送を行うというように、効率的な物流体制を築いています※3。

物流の「2024年問題」に立ち向かうスーパーマーケット

過日、流通経済研究所のYouTubeチャンネルでは、「2024年問題」への対策を講じるスーパーマーケット企業の動向を紹介しました。

物流の2024年問題対策 ①北海道物流研究会

物流の2024年問題対策 ②首都圏スーパーの取り組み


お知らせ:「流通大会2024」

流通経済研究所は、2024年2月5日・6日・7日にセミナー「流通大会2024」を開催します。2月6日(火)は「物流とサプライチェーンの革新」というテーマの下、4名にお話をうかがいます。

松尾直人氏(株式会社ラルズ 専務取締役 兼 株式会社アークス 執行役員)からは、「スーパーマーケットの商品調達・物流施策の取り組みについて」と題して、アークスグループが取り組む、サプライチェーン全体の効率化に向けた商品調達やロジスティクスに係る活動や現状の課題、今後の展望などをお話しいただく予定です。

2月6日(火)は、松尾氏の他、次の3名の講演があります。

  • 「わが国流通の課題と経済産業省の流通・物流政策について」中野 剛志 氏(経済産業省 消費・流通政策課長/物流企画室長)

  • 「2024年の物流・サプライチェーン重点戦略」加藤 弘貴(公益財団法人流通経済研究所 専務理事)

  • 「日用品メーカーのロジスティクスEDI構想について」南川 圭 氏(ライオン株式会社 執行役員 サプライチェーン企画本部長)

間近に迫った2024年4月を前に、本稿でも紹介したアークスグループを含む先進的な企業によるロジスティクスの取り組みや、国の物流政策について考える場として、「流通大会2024」をご活用ください(下記の専用Webページで他のプログラムをご覧いただけます)。

〈注釈〉

※1:出所は、流通経済研究所コラム、根本重之「新型コロナウイルス感染症拡大下でのスーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストア業界などの事業展開に関する仮想Q&A」(2020年4月24日)

※2:北海道新聞「ネット注文、受け取りは店舗駐車場 「アークス」の独自サービス好評 負担減や手数料不要、両者にメリット」(2023年9月28日)

※3:情報出所は、株式会社アークス「アークス統合報告書2023」。