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タイパを重視する人は事前にメモを作成して店舗に行く

主任研究員 鈴木雄高


注目される「タイパ」

 昨年末(2022年12月)、日経MJが「2022年ヒット商品番付」の「東の横綱」(最高位)に、「コスパ&タイパ」を選び、三省堂は「今年の新語2022」の「大賞」に「タイパ」を選びました。また、7月22日から24日まで、3日連続で、タイトルに「タイパ」を含む記事が新聞社のWebサイトで公開されており※1、「タイパ」が注目されていることがわかります。

「コスパ」と「タイパ」

 「コスパ」が「コストパフォーマンス」の略で、「費用対効果」を表すのに対して、「タイパ」は「タイムパフォーマンス」、すなわち、「時間対効果」のことです。「Z世代はタイパを重視する」などと言ったりしますね。例えば、動画コンテンツを倍速視聴する、長時間動画の要点を抜粋した「切り抜き動画」を見る、といった行動が、タイパ重視だとされるようです。もっとも、タイパを重視するのは、若者だけでなく、中高年においても、「何もせずに待つ時間が苦痛だ」、「無駄な時間を過ごしたくない」と考える人も多いと思われます。

消費者は買い物時に「タイパ」を意識しているか?

 注目される「タイパ」を重視した行動ですが、消費者は、日常的に買い物を行うスーパーマーケットなどの小売店舗において、「タイパ」を意識しているのでしょうか。流通経済研究所が今年実施したインターネット消費者調査(3か月に1度の頻度で実施している「ショッパー・マインド定点調査」)の結果を確認してみましょう。

「買物迅速派」が増え、「買物じっくり派」が減少

 図 1は、全国の20~79歳の消費者に対して、買物における時間に対する意識を聴取した結果で、2020年4月調査と2023年1月調査を比較したものです。調査では、対象者に、「A:迅速に時間をかけずに買い物したい」と「B:じっくり時間をかけて買い物したい」を提示し、「Aに近い/どちらかといえばAに近い/どちらでもない/どちらかといえばBに近い/Bに近い」の5つの選択肢から1つを選んでもらいました。回答結果から、「Aに近い+どちらかといえばAに近い」と「Bに近い+どちらかといえばBに近い」の割合を算出し、グラフでは、前者を「迅速に時間をかけずに買い物したい」、後者を「じっくり時間をかけて買い物したい」としています。


※調査対象者は全国の20代から70代までの消費者で、2020年4月調査はn=2,210、2023年1月調査はn=7,800。
図 1 買い物における時間に対する意識の変化(2020年4月、2023年1月)

 図 1を見ると、2020年4月は、「迅速に時間をかけずに買い物したい」と「じっくり時間をかけて買い物したい」が、ほぼ同水準でした(「じっくり」が「迅速」をわずかに上回っていました)が、2023年1月は、「迅速に時間をかけずに買い物したい」が「じっくり時間をかけて買い物したい」を大きく(約10ポイント)上回っています。「迅速に時間をかけずに買い物したい」の割合が3ポイント弱、上昇していますが、それ以上に、「じっくり時間をかけて買い物したい」の割合が8ポイント弱も低下したことに注目すべきでしょう。店舗としては、豊富な品揃えの売場で、来店客にじっくりと商品を選んでもらいたいと考えるかもしれませんが、じっくりと時間をかけたい来店客は減っていることに注意が必要です。

タイパ重視の買物迅速派は買い物メモを活用する

 次に、2023年1月調査で「迅速に時間をかけずに買い物したい」(「Aに近い+どちらかといえばAに近い」)と回答した人に対し、店舗での買い物を迅速に済ませるためにどのような工夫をしているかを聴取した結果を確認します(図 2)。


図 2 店舗での買い物を迅速に済ませるための工夫(2023年1月、複数回答)

 「事前に買い物するものを決めておく(メモしておく)」が約50%で割合が最も高いことがわかります。買い物メモを作れば、必要な商品を買い忘れないだけでなく、時間を無駄にせず買い物目的を果たせます。逆に、買い物メモを作らない場合、商品を買い忘れたり、買うべき商品を思い出しながら売場をさまよって時間を浪費してしまうかもしれません。2番目に割合が高いのは「買う予定がない商品を買わないようにする」で、40%強でした。つまり、事前に買い物するものを決め、メモしておくことで、予定していた商品を漏れなく確実に購入し(計画購買)、予定外の商品を買うこと(非計画購買)をなるべく控えることで、短時間で買い物を済ます人が多いと言えます。

モバイル・マーケティングにより買い物メモ作成を促せる

 先日、公開した記事『適時・適切な“タイミング”をねらったモバイル・マーケティング』( https://note.com/dei_ryuken/n/ne231897dbba7 )に、買い物メモを活用する人が増えていることを踏まえて、次のような記載があります。

買い物メモをつくるタイミングでスマホにクーポンを届けるなど、計画購買を促す媒体としてモバイル(スマホ)を上手に活用することで、製販協働の接点を店内から「いつでもどこでも」に変えることができます。消費者に適切なタイミングでブランドを想起させ、計画購買に繋がるようなマーケティング刺激を仕掛けるためには、(メーカー内で ※筆者加筆)営業部門・マーケティング部門の連携が不可欠です。

公益財団法人流通経済研究所公式note
『適時・適切な“タイミング”をねらったモバイル・マーケティング』https://note.com/dei_ryuken/n/ne231897dbba7

 メーカーは、タイミングよく、消費者のスマートフォンにメッセージを送ることで、買い物メモを作成する際に、自社商品をメモに加えてもらう確率を高められる、ということですね。また、図 2を見ると、4番目に「事前に買い物するものを決めておく(メモはしない)」があり、約30%となっています。モバイル・マーケティングを通じて、買い物メモをつくる習慣がない人にもメモを作ってもらえれば、買い忘れによる販売機会ロスを減らせますね。

スーパーとコンビニでの買い物ではタイパが重視される

 最後に、過去3か月以内に各小売業態を利用している人に対して、短時間で買い物を済ませるようにしているかどうかを聴取した結果を紹介します(図 3)。


図 3 短時間で買い物を済ませるようにしている割合(業態別、2023年1月)

 スーパーマーケットとコンビニエンスストアでは、利用者の3人中1人程度が、ドラッグストアでは利用者の4人に1人程度、ホームセンターでは5人に1人程度が、短時間で買い物を済ませるようにしています。利用頻度が高い業態、買い物が習慣化しやすい業態ほど、消費者が店舗内でタイパを意識している、と言えそうですね。

スマホでのタイパ重視が店舗での買い物にも拡張されている

 本稿では、小売店舗での買い物を迅速に済ませたい、という、タイパを意識した行動について確認しました。このことを、昨今、注目されている、スマートフォンでのコンテンツ消費におけるタイパ志向と、同じ文脈で語るのは、少々乱暴かもしれません。しかし、スマートフォンが生活に不可欠になっている現代において、スマートフォンを通じて根付いたタイパを重視する価値観が、実店舗での行動にも反映されているのではないでしょうか。既に、消費者のタイパ志向に対応した売場づくりをしている店舗も登場しています。
 
 最後に、あるスーパーマーケットがオープンする際に出されたニュースリリースから、一部を紹介します。

「ショートタイムショッピング」をキーワードに、暮らしにおけるタイムパフォーマンスを意識した品ぞろえや店づくりとして、弁当・惣菜を中心とする「オフィスワーカーゾーン」と生鮮を中心とする「スーパーマーケットゾーン」に売場を分けて展開します。

株式会社ダイエー NEWS RELEASE 「~ダイエーが目指す新しいショートタイムショッピングのお店~『イオンフードスタイル西新宿店』のオープンについて」(2023年4月6日)
https://www.daiei.co.jp/corporate/pdf/release/2023/230406.pdf

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〈注※1〉
産経新聞、日本経済新聞、読売新聞のWebサイトで、タイトルに「タイパ」を含む記事が、3日連続で公開されました。

●産経新聞 2023年7月22日
隙間10分で読む書籍要約サービス 新幹線導入 話題の名著を〝タイパ〟で理解
https://www.sankei.com/article/20230722-DXREH3TONFPSVCVUSLVUJRDCBI/

●日本経済新聞 2023年7月23日
UUUMが過去最大赤字 動画市場に吹く「タイパ」の嵐
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB189YZ0Y3A710C2000000/

●読売新聞 2023年7月24日
タイパはZ世代の専売特許か…高齢者も「時間のけちん坊」になろう
https://www.yomiuri.co.jp/column/wideangle/20230724-OYT8T50000/