The JR Hokkaidoを見るだけで

タイトルのThe JR HokkaidoとはJR北海道の車内誌の名称である。その存在を知ったのは小学5年生の夏だった。母の実家が道央にあり、毎年夏休みに長く滞在するのが恒例で、初めて飛行機でなく北斗星で往復したのが小学生だったのだが、その車内に置いてあった。北斗星にかんしてもまた別途書きたいが、今日はひとまず車内誌を語るつもりである。
内容は主に北海道に関する特集(テーマは産業、歴史、文化、科学、芸術などかなり色々)と北海道にゆかりのある作家による連載いくつか、あとは大体広告である。ガイドブックとは全く別で、人気のお店や景色を紹介するためのものではないから、小学生が読んだって別に面白くはない。実際、せいぜい写真やイラストを眺めたくらいで本文はまともに読んでいなかったと思う。覚えているのはトレーラーハウスか何かの広告である。当時から間取りが好きだった私はなんだかそれが気に入って、北斗星に揺られつつ何回も見た。そしてなんとなく別れがたくて、自宅に持って帰った。北斗星の食堂車でジュースの下に敷かれていた紙製コースターを記念に持ち帰ったのと同じように、お土産的なノリで。
以降、両親がほぼ毎年北斗星を取ってくれて、私は車内誌の8月号を必ず持ち帰って集めた。いつだったか冬の号も手に入れたこともあった。寝台車には各個室に人数分の車内誌が置いてあるが、うちの家族では私しか持ち帰らないから数冊余る。だから途中からはスペアとして2冊ずつもらうことにした。これで1冊読み倒しても保存用にもう1冊とっておける(私ってそういうところがある)。
車内誌を何冊か集めるうちに私は大人になり、自分で働くようになったので、車内誌の定期購読をはじめた。毎月1冊届くから、今までなかなか手に入れられなかった夏以外の号も読むことができる。今となっては本文もちゃんと読んで楽しんでいる。
誰にでも「これを見るだけであのときを思い出す」的なものがあると思うが、私にとって車内誌がそれである。The JR Hokkaidoを見るだけで北斗星が思い出され、それに連なって北海道での楽しい思い出、北海道独特の懐かしい感じやら家族みんなで過ごした平和な安心感やらがどんどん湧いてきていい気分になれる。そうすると誌面にある行ったことも聞いたこともない場所の写真を見ているだけで郷愁に駆られてしまい、自分の想像がつくりだした架空の記憶に浸ったまましばらく帰ってこなくなる始末である。
今や北斗星に乗ったときに入手した号はもちろん、そうでなくとも同様に懐かしくなってしまう。北斗星には十年以上乗っていないし、今や運行さえしていない。それどころか最近は車内誌の方もデザインがリニューアルしたり、昔から楽しみに読んでいた古株の連載がついに終わってしまったりとだいぶ変わってしまった。にもかかわらず、ページをめくればすぐ北海道なのだ。
デジャヴとはまた違うし、この感覚をどう説明して良いかわからないが、The JR Hokkaido自体がトリガーとなっているのは確かである。お得な脳のつくりでよかった。

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