Wes Montgomery「full house」

ジャズは一回聴いただけで良いと思える曲は決して多くはない、一回聴いただけでは理解できない面があるからだ、しかし一度聴いて良いと思えた曲も当然ある。

例えばマイルスデイヴィスの「blue in green」や「autumn leaves」ビルエヴァンスの「my foolish heart」や「waltz for debby」ジョンコルトレーンの「miles mode」「green sleeves」…

そしてウェスモンゴメリの「full house」だったりする。

ジャズ関連の本を読んでいたら「この曲を聴いていいと思わなければジャズとおさらばした方がいい」とまで書かれていたが、それはさすがにいいすぎだと思うが。

「full house」は「ジャズの名盤」的な本には確かに殆どの確率で載っている、自分もそれらを参考に色々聴いてみるのだが、当たりもあるが、ハズレもある。

実は自分は「full house」のスコアを持っている、tab譜でだが、難しいかと言われればそうでもない、しかしこの曲を聴くといい演奏というのはテクニックがどうかとか技術がどうかとか、(勿論技術も大事だが)一概にそういった問題ではないのかもしれないと思ったりした。

例えば現在2024年でギターのテクニックは行き着くところまで行き着いている、youtubeの動画には
凄まじいテクニックを持った人達が沢山いる、自分はテクニックを否定しているわけではないが…何というかなんとなくオリンピックの競技を見ているような気がしないでもない。

ロックギターの世界では80年代にエディヴァンヘイレンが現れた後テクニック至上主義になりイングヴェイマルムスティーンのようなメタル系のギタリストが沢山現れたが、あまりにテクニックに走ってしまい、90年代にニルヴァーナが現れるとそういったギタリスト達はメインストリームから(かなり長い間)淘汰されてしまった。

例えばエリッククラプトンの「unplugged」というライブアルバムがあるが、これも現在のメタル系のギタリストのからすると「難易度が高いか?」と言われるとそうでもないかもしれない、しかし深く味のあるプレイだと思う、かといって誰も彼と同じニュアンスでプレイすることはできないのだ。

なんとなく「full house」を聴いていると、それと同じような感覚を受けた。

メンバーはウェスモンゴメリ(g)ウィントンケリー(p)ポールチェンバース(b)ジョニーグリフィン(ts)ジミーコブ(ds)。

メインはウェスのギターであるがやたらとギターだけが主張するわけでもなく各々が平等にソロを取るのだが、それよりも全体のアンサンブルが良かったりする。

自分はスケール等の理論も分からないが、この作品で展開している演奏はタイプは全然違うがビルエヴァンスの「waltz for debby」と同じように自分のようなジャズ初心者にも分かる内容だと思う。

例えば「ジャズギターというのを自分でも弾いてみたい」と思った人がらいたらウェスモンゴメリという人はうってつけの人かもしれない。

ギターだけでなく、テナーサックスのジョニーグリフィンという人の演奏も良かったりする、短くもシンプルだが、なんとなく良さが伝わってくる、コルトレーンのゴリゴリした演奏とは全く違うが、勿論ウィントンケリーという人のピアノも良い(理論が分からないので抽象的な表現で申し訳ないが)

演奏はコルトレーンのような重い思想を持ったものではなく、またビルエヴァンスのようなリリカルなものでもない、マイルスのような革新的なものでもない、しかしストレートにジャズの王道的な良さを持った作品だと思う。

このライブは事前にリハーサルというか打ち合わせ的ことはどのくらいしたのだろうか?それにしても演奏中上手いこと各楽器が細かくユニゾンするが…後期コルトレーンでは絶対ありえない演奏である(笑)、急な(?)変則的なリズムにもドラムは直ぐに対応したりする。

ウェスモンゴメリの「full house」はジャズ初心者やジャズギターを弾いてみたいと思う人は格好の作品であると思う。

ここまで誉めていてなんだか二曲目の「I’ve grown〜」という曲だけ退屈なのでこの曲は飛ばして良いかも知れない。

…晩年のウェスはA&M(レコード会社)のCTIというレーベルに在籍し、「ジャズ界のヒット屋」と言われるクリードテイラーにプロデュースされポップスのカバーアルバムを残す。

しかしいくらこの作品の演奏が素晴らしくてもウェス最大のセールスが「a day in the life」や「road song」のようなポップスのカバーアルバムだと考えると、やはりジャズというジャンルのセールス的な限界も感じてしまったりする。

これらのカバーアルバムではジャズ的にメロディを崩さずに原曲のメロディをそのまま弾いているので厳密にいうとジャズではない、当時は「イージーリスニングジャズ」などと言われ、コアなジャズファンから批判を受けたそうだが。

やはりみんな分かりやすいメロディが好きなんだなと思ったりもした。

…自分もだけど(笑)

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