見出し画像

村上春樹から、旭川を読み解く

 また旭川? そう言われてドキッとした。ニュースを検索すると、確かにまた旭川での事件が報道されていた。当分の間YouTubeは見ないと決めていたが、信頼できるYouTuberのチャンネルを観ると、旭川の見出しが一番に出てくる。

 沙彩ちゃんが凍死した事件からまだ日が浅いというのに。

 なのに イジメ 暴力で亡くなった子、恐喝されている子、隠蔽されている子がこんなにたくさんいるなんて、普通じゃない。


 旭川どうしてこんなことに。

 今までちゃんと観察してなかったけれど、この町の警察 統一教会、ヤンキー、教師、暴力団、政治家は、なぜか同じ顔をしている。誰が誰だが分からない状態だ。一体、この人たちの魂を操っているのは誰なんだろう。
 羊男さん教えてください。

 そういえば、と思い、書棚から春樹さんの本を取り出した。旭川を知る上で、読み返す価値はありそうだ。

 そして早速本を捲る。〔ちゃんと読んでなかったことが判明〕

ノルウェーの森
羊をめぐる冒険
ダンスダンスダンス
ねじまき鳥クロニクル

春樹さんの作品の中で度々登場する旭川。
そこには、予感めいた言葉が書いてあった。
それを五回に分けて連載する予定。

第一回目はノルウェーの森と旭川。

 主人公の渡辺君が、ハンブルク空港に到着する前に、ビートルズのノルウェーの森を聴いて、過去を回想する。
 渡辺君の友人キズキがバイク事故で亡くなり、キズキの恋人だった直子が精神を病み京都のサナトリウムに入るのだが、渡辺君との交際で直子は徐々に元気を取り戻す。しかし渡辺君は、心身ともに美しい緑に出会い、三人の物語は影のように揺れ動く。
 その後、直子は森の中で自殺してしまう。
 直子と京都のサナトリウムの寮で同室だったレイコが、京都を離れ旭川に引っ越す前、渡辺君に会いに行く。そこで旭川が出てくるのだが。


 レイコについて、少しだけ説明させてほしい。 

 レイコは、13歳のピアノを教えている女子生徒に性的な嫌がらせをされる。
 その時レイコは「やめなさい」と言って平手打ちをするのだが、近所の噂になり、夫にも理解されずそれが原因で発病する。まさか、13歳の少女が、と普通は思うのだが、
 その子には凡人には計り知れない、悪魔的な要素が潜んでいたのかもしれない。




  次に旭川が出てくる場面を見てみてみる。

 「これから先どうするんですか、レイコさんは?」

 「旭川に行くのよ。ねぇ旭川よ!」と彼女は言った。

 「音大のとき仲が良かった友達が旭川で音楽教室やっててね、手伝わないかって誘われてたんだけど、寒いところに行くの嫌だからって断ってたの。だってそうでしょ。やっと自由の身になって、行く先が旭川じゃちょっと浮かばれないわよ。あそこなんだか作りそこねた落とし穴みたいなところじゃない?」


 「そんなひどくないですよ」僕は笑った。

 「一度行ったことあるけれど、悪くない町ですよ。ちょっと面白い雰囲気があってね」
                   *
 「旭川って本当にそれほど悪くないと思う?」

 「でも人は旭川でなんて恋をするものなのかしら」←このページ見当たらないでした。昔読んだ時にはあったような気がしたが。


 村上作品には、よく「穴」が出てくる。穴の向こう側は、時間の概念のない場所だ。  
 海辺のカフカでは「入り口の石」が出て来た。その石を探して穴を塞がなければ、現実の世界の歪みは元に戻せない。年老いた猫語を話す中田さんが星野少年と一緒に「入り口の石」を探しに行くのだが。〔詳しくは本を読んでください〕

 ではレイコが言う「作りそこねた落とし穴」とは、どんな穴なのだろう。


 確かに旭川には村上ファンタジーに出て来そうな恐ろしい「穴」がある。
 旭川と比布町の間にある地獄の穴「アフン・ル・パロ」はその一つだ。
 昔二人の老人がこの穴の中に入り、戻って来るが「もう一度行きたいか」の問いに、行くと答えた老人はすぐに死んでしまい、二度と行かないと答えた老人はその後も元気に過ごした。

 もう一つの穴は、留萌の高校生が21歳の女性に落とされた神居古潭の川にあるポットホールだ。石狩川の川床にできた窪みの中で急流が回転し、長い年月を掛けてできた穴である。ブラックホールみたいに一度飲み込んだものは浮かばない、と言われ、アイヌでは鬼の足跡として恐れられていた。

 だがレイコの頭の中に思い描いた落とし穴は、もっと現実的で身近にある穴のような感じがする。例えば、レイコが旭川の町をイメージした時、町中に地雷が埋まっている穴があって、いつその地雷を踏んでしまうか分からない恐怖を感じたのではないだろうか。精神性の宿る「穴」と違い、欲望だけが渦巻く「落とし穴」だ。レイコは、13歳の少女の罠にかかった時と同じ恐怖を、旭川にも感じたのかもしれない。

 ノルウェーの森には直子さんの魂が眠っている。あまりにも短い生だった。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?