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大人の「現代文」74……『こころ』Kを迎えた結果

Kへの献身的な援助がもたらしたもの


 で、この「道の思想」家Kについてもう少し説明を加えると、彼は大学入学後、勉学どころか生活の維持に精一杯で、ほとんど「神経衰弱」(先生の言)にかかっており、とても見てはおられない状態だったと書かれています。(下 二十二)

 とにかく物質的にも精神的にも困窮に陥っているKを救済すべく自分の下宿に引っ張り込むことに「成功した」先生ですが、この(親友として)百パーセント善意の行為が、最終的には(親友としての)百パーセント「卑怯な行為」を生む結果になる悲劇がこの物語の骨子なのです。

 Kの同居に対して奥さんは当初勿論不賛成でした。そりゃそうですよね。娘の旦那候補にほぼ内定した若者が目前にいるのに、それ以外の若者が来るなど面倒くさいですよね。何か面倒なことを予感した奥さんは、なんとか先生に止めさせようと説得しますが、先生の、友人思い、人思いの美しい心情には、反対しきれませんでした。人間的な優しい心情には文句は言えませんものね。

 しかも、単なる説得以外に、先生は奥さんにある依頼までもするのです。Kは「偏屈」(これ「思想家」の別表現です)だから、ますます精神的に病んでいく。だから「あたたかく面倒をみてくれ」と言うのです。

 これどういう意味かというと、今風に言うなら、Kは思想に没頭するあまり、メンタルヘルスで問題があって、その原因は、「(人間的)あたたかさ不在」だから、二人の「人間的なあたたかみ」で癒やして欲しいといった内容となるでしょう。こう頼まれたら、イヤとは言えないですよね。

 奥さんと嬢さんは、天性心根が良いので、喜んで協力します。そしてその「治療」は、程なく、著しい威力を発揮することになり、先生が思いも寄らない事態を生むことになります。

 むろん、その事態とは、先生のこころのなかに「嫉妬」が生じる事態です。次回にその展開を見ます。

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