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日本でプリビズ事業をはじめたこと ー 第1章

私がプリビズ事業をはじめたのは2007年でした。
そこに行きつき、そしてその後の展開に至るまでさまざまな出来事がありました。このままだと忘れてしまうので、記録として残しておこうと思います。まあ、これがどこかの誰かの役に立つかもしれませんし。

ああ、「プリビズ?なにそれ?」っていう方もいらっしゃいますよね。
まあ、とりあえずそこは気にせず、お話を聞いてください。おいおい内容を説明していきます。

さて、どこから話しましょうか。
そうですね、じゃあ、なぜプリビズをやろうと思ったかについて話していくことにしましょう。

私が株式会社イマジカという映像の会社に中途入社したのは1997年のことです。

スティーブン・スピルバーグの映画「ジュラシックパーク」が1993年に公開され、3DCGが映像制作でもどんどん使われるようになり、日本では金子修介監督の平成ガメラ3部作(1995年~1999年)が公開されたころです。
私は、それまで日立製作所の子会社である日立電子という会社でエンジニアをしており、航空会社向けのフライトシミュレータやそれにまつわる映像システムの研究をしていました。学生時代(1980年代)にはまだ3DCGはほとんど知られていなくて、特にそれについて学ぶ場所もありませんでした。この会社で研究しながら、3DCG技術のノウハウを習得していたわけです。その過程についてはまた改めて話すとして、イマジカ入社後の話に戻しましょう。

入社後、私は開発部門に配属され、3DCGを使ったシステムの開発に従事します。私と同時期にイマジカに入ってきたのが、モーションコントロールカメラシステム「MILO」というシステムでした。

このシステム、何に使うかというと、同じ動きをコンピュータ制御で正確に何度も繰り返すことができるので、2つ以上の映像を合成する場合の素材映像撮影に使われます。例えば食卓でご飯を食べているタレントさんを撮影し、そのあとで同じカメラの動きで食卓に給仕する同じタレントさんを撮影して合成すると、一つの映像の中で一人のタレントさんが給仕して食事をしているという映像が出来上がるんです。

それまでのモーションコントロールシステムはKuperというモーター制御システムがベースになっていました。鉄骨でつくったアームにステッピングモーター(もしくはサーボモーター)を取り付けて、先端にカメラを設置し、このKuperシステムで制御することで自在なカメラワークを作るというシステムでした。基本ハンドメイドなので、ガサツな感じで、扱いもなかなか難しかったんですね。
ところがMILOはアルミによる一体型の独自構成で、非常に安定していました。モーター制御も独自のシステムを持っており、制御用ソフトも洗練されていたんです。しかも、3DCGソフト(当時はSoftImage 3Dでしたね)で使うことができる正確なカメラの動きデータを出力することができました。MILOが登場した頃は、映像制作で3DCGを使用することが多くなり、撮影するカメラの動きを正確に抽出することが重要になってきていました。MILOを使えば、それが比較的簡単にできたんです。
私が担当したのが、このカメラデータを3DCGソフトで使えるようにすることでした。生のデータをソフトに読み込んでもすぐには使えなかったので、フォーマット変換や光軸調整などいろいろやって使えるようにしたんですね。そんな状況もあって、2000年ぐらいになると、モーションコントロールといえばMILOといわれるほど、映像制作業界では知られる存在になっていました。

ところがこのMILO、図体がでかいのです。モーションコントロールカメラに必要な条件として「カメラが揺れない」ことがあるんですが、MILOは最高速度秒速2m(時速7.2km)というスピードで動いても揺れないように、非常にがっしりした構造でした。ボディは1t近くあり、レールは1本40kgもありました。そのため、一度設置すると移動させることが容易ではなかったんです。
ところが、監督やカメラマンの一声で移動する羽目になることが多々ありました。当時は、セット図面の中にMILOの想定位置を記入し、撮影現場でその位置に設置しました。でも、カメラをのぞいてみると思うような見え方にならないということがおこるんです。そうなると移動させるしかないわけですよ。解体して1時間、もう一度組み立てて2時間。。。指示したくせに「なんでこんなに待たせるんだ」と怒る始末。こっちは冬でも汗だくです。

なんとかこの無駄な作業をなくせないだろうか。そこで考え出したのが、事前にどういう見え方になるかを3DCGを使ってチェックしてしまおうというアイディアでした。
事前に入手したセット図面にしたがって、3DCGソフト(当時はSoftimage 3D)でセットをつくり、その中で仮想のMILOモデルを動かして、カメラでどう撮影ができるかをチェックできるようにしたのです。

これが、2003年ぐらいのことです。

撮影前に行う、この事前撮影シミュレーションこそがプリ・ビジュアライゼーション、つまり「プリビズ」です。当時は、プリビズなんて言葉はなく、単にMILOシミュレーションと称していました。これによって、設置移動などの無駄な作業を減らし、撮影現場で待たせることが少なくなりました。また、カメラの動きをプログラムするのも結構時間がかかる作業なのですが、各カットごとにベースとなる動きを事前にプログラムしておくことで、プログラミング作業も効率化できるようになりました。これは制作的にも大きな成果であり、監督やカメラマンなどの制作スタッフにもとても喜んでもらえたんです。

ところが、一つ問題がありました。
このMILOシミュレーションをする作業時間は結構なものだったんですが、一切費用をいただけなかったんです。
セットの3DCG製作やシミュレーション作業には何日もかかったりしました。確かに、撮影現場の作業時間は短縮できたんですが、それに伴ってシミュレーション作業の比率が高まっていきました。しかも、事前準備、社内作業という扱いだったので、費用が請求できないのです。撮影システムサービスというやつは、撮影現場での作業じゃないと作業としてみなされないんですね。これには困りました。

そんな時に、ハリウッドでは、この事前撮影シミュレーションがビジネスになっているらしいという噂が聞こえてきます。
それは、ジョージ・ルーカス監督「スターウォーズ・エピソード3/シスの復讐」が公開された2005年ころです。スターウォーズのエピソード1~3(プリクエル三部作)では、プリビズという技術が使われ、映像制作を効率的にしたということでした。しかも、その人たちが、スターウォーズ映画製作終了後に独自に会社を設立してビジネスとしてスタートさせているというのです。私はそんなことができるのか不思議でした。しかし、それをどうやって実現しているのかという情報はまったく入ってきませんでした。撮影から仕上げまですべてをデジタルで行っているという技術的な話や3DCGをどうやって作っているのか、合成処理をどうやっているのかという情報は、津波のように押し寄せてきました。しかし、プリビズについてはまったく入って来なかったのです。

私たちがやっていることと何が違うのか、どうやってマネタイズするのか、ビジネスモデルはどうなっているのか、そもそも会社の事業として成り立つものなのか、知りたいことは山ほどです。

「聞きに行くしかない!」

私は、上司に交渉し、技術調査のためハリウッドのプリビズ会社を訪問することにしました。

この後のお話はまた次回。

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