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作・演出・出演「十和さんと小林くん」シリーズ、10年続く歴史の話

初めての公演から10年、気づけば10年。
書き始めた時はまさかここまで続くとは思っていませんでした。
少しずつ細々と、でも何よりも私にとって大事な作品を紡ぎ続けて10年。
間違いなく、このシリーズが私の一番好きな作品です。

1・生まれたきっかけ

作るきっかけとなったのは2012年、BQMAP番外公演「flow flow 」。
不老長寿の女性と彼女を研究する研究員の二人をめぐる、時を重ねるお話。
番外公演ということもあり台本が出来上がった当初は少し短めの状態でした。
そんなときにBQMAP主宰・奥村直義さんからこんなことを言われました。

「スピンオフ書いてくれない?」

本編+スピンオフ、これを合わせてちょうどいい位の作品の長さにしてお客様にお届けしようということです。
この時BQMAPで脚本経験者は直義さん以外に私だけ、とりわけ一度これまたBQの番外公演で「椿太助の治療法」という少年ジャンプの読み切り作品のような作品を書いたこともあり尋ねられました。

本編がかなりシリアスなお話だったので、じゃあスピンオフは明るい話を書くか。私だし。
茶番作家とはこのころまだ名乗っていませんでしたが、「見てくれた人をほんの少しだけHAPPYに」というスローガンはずっと持っています。
登場人物を不老長寿と研究員だけにして、出来上がった20分弱のスピンオフ。
我ながら「お、中々いいお話が書けたな」と思ったものです。

ですが稽古が進むにつれ本編のボリュームも内容もしっかり作られ、本編だけで満足できる内容に。結局これは日の目を見ずにお蔵入りとなりました。
そっか。残念だけれどもまあ仕方ない。
一度自分の頭の中の引き出しとPCの台本フォルダーにしまうこととしました。

2・動き始める

そこから少し後。

元BQ劇団員で、今は大道芸人として活躍中のココナッツ山本君からトークショーのゲストのお誘いがきました。
ここで私は大道芸人さんたちが浅草で集まるフェスティバルに、何の大道芸も出来ないただのトークに来た人として浅草デビュー。
話芸は流石達者な山本君。お客さんも盛り上がりフェスティバルも盛況に終わったところで、毎年1パートだけ芝居をお願いしていることを知ります。
そして山本君に誘われました。

「次回の芝居パートお願いできませんか?」

何の演目もやるか決めてないけど2つ返事で「やる」と言いました。
そして演目をやるなら、引き出しの奥底にしまっていたこの作品にしようとすんなり決めました。
うん。どこかでやりたかったんだな、この作品。

普段演出するときは出演しないと決めていたのですが、この作品の研究員は流石に私か。となると次は不老長寿の女性探し。
とはいえ、これをやるならもうこの人しかいないな、と決めていました。

流星揚羽主宰・松尾美香さん。

初めて共演した時はあまり絡む役でもなく小屋入りしてからようやく会話を始めた位。
それでもお芝居上手い人だなあ仲良くしたいなあと考えていると、イベントに呼んでくれたり忘年会に呼んでくれたり。
そして自団体の客演オファーもいただけることになりました。

殺陣が出来る女性は小劇場では貴重で、基本的にカッコいい役をやることが多い美香さん。
しかし気づいてしまった。この人は可愛い人だ。
絶対にカッコいい役よりもかわいい役の方が似合う人だ。
どうにかこの可愛さを伝えたかった。どうしても天然だということを世に広めたかった(笑)。
丁度この頃流星揚羽の公演にも客演していた私は、どうにかして美香さんを口説こうと考えていました。
公演終わって少しした後、二人でお昼ご飯を食べる機会があり打診をしてみることに。

「美香さん、俺今度二人芝居をやる予定なんですよ。で、女性を一人探してるんですけど、美香さんやりませんk」
「やる」

二つ返事どころではない、一つ半の返事をいただきました。
今になってもつくづく思いますが、美香さんでなければこの話はここまで長く続かなかったと思っています。
美香さん、あの時引き受けてくれて本当にありがとう。

かくして2014年、浅草大道芸フェスティバルの芝居パートで、山本劇場と銘打った会場で「十和さんと小林くん」は披露されました。

3・十和さんと小林くん1回め


800年生きる十和さん。
彼女を研究する小林くん。
この二人が織り成す、1時間の会話劇。
不老長寿の人が周囲にバレないよう、10年毎に名前・職業・住所・そして彼女の担当者が変わります。これはBQMAPの本編も同じです。
ずっとひっそり生き続けるのではなく、目一杯楽しむことにしたこの10年。
スナックのママとして、多くの人と携わった10年。
そして、久々に人との別れを感じる10年目。

1回めは、十和さんと小林くんの「10年最後の時期」のお話でした。

4・十和さんと小林くん2回め


十和さんのリクエストにより、自身の名前と担当者の小林くんは引き継ぐことになりました。
二人の11年目、これからどうするか。
次はカフェをやりたいと言い始めたコーヒーの飲めない十和さん。
小林くんのススメで、雰囲気の素敵なカフェのオーナー・三原さんと出会います。
三原さんの元、新しいことを学び、コーヒーも飲めるようになった十和さん。
お店をたたむことにした三原さんに「この店を守る」と言って、11年目は「カフェのオーナー」として過ごすことに決めました。

2回めは、二人のこれから始まる11年めのお話。

5・十和さんと小林くん3回め


カフェも順調に進む中、十和さんと小林くんはお互い「昔と変わったね」とつぶやきます。
小林くんは昔はもっとビクビク畏まってたという十和さん。
今より少し怖かったという小林くん。
小林くんが、まだ緊張して十和さんの元へ足を運んで行った日々。
人の核心を突いた質問をする十和さんに戸惑う小林くん。
「約束は出来ません。けれど、期待はしてください。」

3回めは、二人の10年最初のお話。

6・十和さんと小林くんのクリスマス、十和さんと小林くんの初詣


十和さんと小林くんの番外公演。スピンオフから始まったこの公演も番外公演を行うことになりました。
クリスマスは江古田の兎亭で。
初詣は流星揚羽イベントの一演目で。


プレゼントを交換し、サンタがいるかどうかを言い合い、最後は小林くんのめでたいお話に動揺する十和さんと何も変わらない小林くんが紡ぐクリスマス。
久々に着物を着てきた十和さんに、何も言わない小林くん。それで拗ねる十和さんとなだめる小林くんが織り成す初詣。

二人の変わらない、朗らかな日常のお話。

7・トワコバチーム結成


美香さんが産休に入り、次の浅草はどうしようか考えていました。
何をやるかではなく、この十和さんと小林くんをどうやるかを。

有難いことに1~3回めと毎年フェスティバルで続けて行ったおかげで、浅草の大道芸を見に来たお客様から声をかけられることもありました。
「去年ふらっと見に来たけど面白かったから今年も見に来た」なんてお客様もいました。浅草の人達凄い。
そうやって根付いてき始めたからこそ、次は全く別の芝居をやるのではなくこの続きをどうにかやりたいなあと考えていました。

小林くんの同僚を中心にしたお話を書いてみる。

小林くんの腐れ縁でとがった人が欲しいな。
物凄いできる先輩も欲しいな。
ちょっとおっちょこちょいの上司も欲しいな。
うん、新人も入れてみようかな。

新作と新キャラクターを書くことに思ったより時間はかかりませんでした。
寧ろ時間がかかるのはこれから。

さて、このお話、誰にやってもらえるかな。

普段あまり人付き合いが良くない私は役者の知り合いがとても少ないです。
でも全く見ず知らずの人とか、ゲストでお願い的なことにはしたくない。
美香さんがいつ戻ってくるか分からないけど、戻ってきたときもすんなり迎えられる人たちを揃えたい。
あとBQMAPと、当時所属していたC.C.Cからはもうこれ以上引っ張らないようにしようと自分ルールをつける。

携帯の電話帳とにらめっこしながら試行錯誤…。

結果決めた4人。

宮本荊さん、長尾一広さん、高野ちん太郎さん、宮嶋みほいさん。

4人とも声かけてすんなりオファーを引き受けてくれました。
全員第一希望者がOKをくれたのです。
こんなに素敵なことがあるのでしょうか。

こうして新たなメンバーで行った、トワコバチーム1回め「flow flow labo」。

不老長寿の研究に新たに入った新人の八木さん。
科学で夢見る彼女はリアリストの時田くんと本当にソリが合いません。
そして段々と、不老長寿をいち研究ではなく、何故か学者になったか、本当にやりたかったことは何かを思い出させてくれました。

十和さんの周りにいる研究者たちが織り成す、みんなが一歩進むお話。

8・十和さんと小林くんふたたび1回め


山本劇場が閉館となり一度浅草大道芸フェスティバルは幕を閉じることとなりました。
そこでここで生まれた作品をもう一度演じて、最後の公演に花を添えることに。
お休み中の美香さんにお願いして、最初の公演を再演。
さらには初めてやってみたトークショー。トワコバメンバーにもゲストで出てもらいました。

9・トワコバチーム2回め「コーヒーにチーズケーキを」


2019年、大道芸フェスティバルが「演の祭典」となってあらたな浅草のお祭りとなって復活しました。
私が2018年に一年間舞台をお休みしており、復帰の第一弾がお世話になった浅草というのも感慨深いものでした。

この回で初めて、十和さんと研究者たちが顔を合わせます。
さらには当初のマイルールを破って、どうしてもちん太郎さんとペアで可愛い奥さんを呼びたくて、BQのおがっちゃんを呼びました。
皆口々に「ずるい!」って言ってました。

十和さんの店に主任と奥さんの絵里さんがやってきました。
しかし絵里さんは主任の隠し事に不安を隠せません。
皆で協力して主任の秘密を暴きます。

なじみ同士の人、絡むのは初めての人などお互いの関係値はそれぞれながら、とてもスムーズに稽古が進んでいきました。
十和さんも、ずっと一緒にやっていたかのように。

不老長寿の研究の傍ら、病気で目覚めない奥さんの目を覚ます研究を続けている時田くん。
そんな時田くんは八木さんの面倒を厳しくも厳しい、少し暖かく見続けます。
そんな中八木さんのプレゼントをヒントに、時田くんの研究は一気に進みます。
愛する人ともう一度言葉を交わすために。

色んな人の想いが、最後に少しだけ奇跡を呼ぶお話。

10・トワコバチーム3回め「穏やかな日々とアップルパイ」

流星揚羽さんのイベント「春まつり」にて久しぶりにトワコバチームを行うことができました。
コロナ禍で出来なかったこともあり、前回から実に4年の月日が流れました。

カフェの新メニューとして新しくアップルパイに挑戦する十和さん。
しかし中々上手くいきません。
そこへ絵里さんがパイの焼き方を教えてくれることに。しかしそのやり方は…
また小林くんに一泡吹かせたいと考えている十和さんは真剣勝負を挑みます。
その内容は、ババ抜き。
果たして十和さんは勝つことができるのか!?


30分ほどの短い作品を作ろうと思ったらしっかり45分のボリュームに。でも中身は大きな事件は起こらない。穏やかな中でアップルパイを食べたくなるお話。

そして

初めてから10年、細々とですが積み上げた10年。
久しぶりに復活した演の祭典で、浅草で、またトワコバチームのお芝居ができます。
10年経っても、スローガンは変わりません。

見てくれた人をほんの少しだけHAPPYに。

トワコバチーム4回め「ひとくちサイズのブラウニー」
6/29㈯・30㈰に浅草で上演いたします。

皆様、浅草へ観光しながら是非遊びに来てください。
メンバー一同、心よりお待ちしております。


トワコバチーム主宰  矢部亮

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