マガジンのカバー画像

連作『青春は密室だ』

7
連作詩をまとめました。
運営しているクリエイター

#靴箱

連作②『靴箱』

錆びた金属製の靴箱の扉に 薄橙色の瘡蓋が張り付いている。 名前札は時間の激流に洗われて 忘却の三角州で眠っている。 桃色の封筒で包んだ便箋、 宛名も差出人も不明の手紙。 何世紀も先の未来で化石になった言葉が 古語辞典で解析され息を吹き返すような、 遺伝子が組み込まれているような。 錆びた金属製の靴箱の扉に 薄橙色の瘡蓋が張り付いている。 空虚に満ちた水溜まりに 私は桃色の小石を投げる。 同心円状に拡がる漣を見て 誰かが気づいてくれたら良いな。