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作画崩壊はなぜ起きるのか ①人材不足

 はじめまして、アニメの"制作"というセクションで働いているふかレモンと申します。アニメの現場に関して突っ込んだ話が語られる機会がまだまだ少ないように感じたので業界の正常化を目指して、業界外の方にも分かるように自分の考えを綴っていこうと思います。
※制作とはアニメのスケジュールやクリエイターのアサイン、アニメ制作全体の進行させる業務の事です。テレビでいうとADさんやプロデューサーさんにあたります。

 最初のトピックとして、アニメファン的にも現場的にも1番気になる話題であろうTVアニメの"作画崩壊"の理由を自分なりに突きつめていこうと思います。

まずそもそもの作画崩壊の定義ですが、wikipediaさんに記載がありました

作画崩壊とは、

「アニメ作品の作画クオリティが、秩序を失い、著しく低下している様相」

言葉にすると重たいですね…

何故、秩序を失ってしまうのでしょうか。
ずばり作画崩壊の1番の原因ですが

LOを実力に見合わない人間が担当し、それを修正し切れなかった

に尽きると思います。
 その秩序を失ったLO※1を底上げ(ほぼ描き直す)のに演出※2作監※3さんが注力する事になりスケジュールが奪われ絵の秩序が無くなりそれを修正する時間もなくなりメルトダウンしてまうのです。
 アニメの仕事はこのLOの後に原画や動画などの作画と呼ばれる工程や色を付ける仕上げ※4撮影※5などの仕事が残っているので上流の工程はどこかで目処を付けなくてはいけないのです。

この世界に片隅に より LO参考画像

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引用元 https://konosekai.jp/category/staffroom/page/4/

※1 LayOut略してLOとは絵のベースとなる設計図の事です。この工程が絵つまり作画のクオリティに1番関与しています。宮崎駿監督、高畑勲監督が立案し、押井守監督が確立された工程になりす。※2 アニメにおける演出という役職は、上記のLOをチェックしたり尺などのタイミングを調整したりとアニメ、映像の根幹を監修する重要なポジションです。
※3 作画監督、略して作監と呼ばれる、演出さんの指示をレイアウトに反映したり、動きやキャラの絵柄などのクオリティを監修する演出と同じく重要なポジションのことです。
※4 仕上げとは簡単に言うと線画に色を彩色するセクションです
※5 撮影とは色が付いた絵(セル)に処理を乗せてリッチにするセクションです

では、何故そのような状態に陥ってしまうのでしょうか?

① 人材不足
② 作品過多
③ クオリティ問題

この3つが大きな理由だと自分は考えます。

 今回は①の人材不足について究明していきます。人材の足りてる技術職ってそうないかと思いますが、昨今のアニメ業界は需要に対して圧倒的に絵を描ける人が足りていないのです。

 人が足りていない原因を分解していくと

■ 「絵」の仕事の多様化
■ ブラック
■後進育成不足

が挙げられます。

■ 「絵」の仕事の多様化

 昔に比べてアニメーター※の質が落ちた

 とよく作監さん達がボヤいているのを耳にします。少子化の影響もあるかもしれませんが、昨今はアニメ業界に画力が高い人が減っているのは事実だと思います。
というのも昔(1980~2000年代)に比べ今は、絵に関する仕事が多様化しています。
 自分の感覚値ですがネットやコンテンツの普及と共に絵への知識やノウハウの量は増え全体的に画力が高い人は増えてきているように思えます。その分、現在は絵の仕事も増えゲームクリエイター、3DCGデザイナー、イラストレーターなどなど沢山あります。
 その中で、わざわざアニメを選ぶのかというと今の若者達からは後述するブラックさから避けられてしまっているのが現状だと思います。なので、繰り返しですが悲しいかな全体として絵が上手い人は増えているがわざわざアニメ業界を選ばないというのが現状なのだと思います。
 このアニメーターさんの現状には西位輝美さんの著書に詳しく書かれているので興味ある方はそちらをご覧ください。
アニメーターの仕事がわかる本
アニメーターとは、主に作画と呼ばれるキャラクターなど主に動くものと背景の設計図を描く一番重要なポジションです。 

■ ブラック

 何をブラックととるかにもよりますが、とにかくアニメの仕事は給与が安い、膨大な仕事量などかなり大変です。ただそれ以上にやりがいのある仕事です。TVや映画館で自分が携わった作品が流れ、最後のクレジットに自分の名前が載る。自分も何度も辞めようかと思いましたがたくさんの素晴らしい方々と仕事が出来、最後は世の中に作品を残せる喜びというものは何物にも代えられません。
 それでも現実的な話、ある一定を越えられないと長く続けるのが難しい業界です。逆にある一定のレベルを越えたアニメーターさんであれば若くして賃金は平均かそれ以上になれます。

・給与が安い
 本当に悲しくなるくらい安い...せめて新人でも20万円以上貰える仕事であれば良いのですが、詳しくは求人ページをご確認ください。自分の制作というポジションですと基本社員で固定給なので大手の制作会社はかなり上がってきていますが…まだ一握りです。
 またアニメーターさんは出来高制※というシステム上、数をこなさないと給与が貰えません。新人さんですと数を上げられないので手当金で月額出る会社もありますが数万円です。数を上げて稼ぐように出来ることも大事なのですが、後述する求められているクオリティの向上により、数が稼げず昔よりも稼げなくなってしまっています。その変化に業界が付いていけていないのが現状です。この部分に関してはまた別途説明する予定です。
 なので、正直ゲーム業界などに行ってしまうのは致し方ない流れですね...
※この部分に関しては、花村ヤソさんの『アニメタ!』という漫画で分かりやすく取り上げられておりますので詳しく知りたい方は是非!

・膨大な仕事量
 
自分も昔は何となしに30分のアニメを見ていましたが、びっくりするくらい沢山の工程を経てアニメは作られております。
 だいぶ端折って説明しますが300カットをすべて手描きで計5000枚から時には10000枚も描かなくてはなりません!仮にですが1枚1時間として1万時間(416日!)です。当然複数人で作っているので実際は平均1話数3ヵ月~6ヵ月程で作られています。※これ以下の日数で作られることもざらですが3ヵ月切ると本当に修羅場です...
 仕事量に関しては一番キツいのは自分の役職である制作進行です。
 朝、夜問わず素材を動かし、常に状況を確認して進行するというのは並大抵の精神力、忍耐力、行動力では出来ません。なので、一番離職率が高いのが制作です。ですが、自分の役職だからということもありますがアニメ制作において制作は重要なポジションです。そして最後にクオリティを左右するのも制作の力が大きいです。ただ、仕事量に対して賃金が見合わず、早くて数カ月、持っても1年、2年で辞めてしまうのが大半なのが現状です。

■後進育成不足

 アニメ業界では真似ぶという伝統が今でも続いています。
 クリエイティブな仕事のスキルアップでは自分の目で見て、考え、吸収していくという過程は絶対に必要ですが、アニメの仕事はかなり特殊な仕事です。普通に生活していても絶対に得られない業種なのですから、最低限必要な知識、経験は新人の内に教育しないとスキルのないまま年数だけ経ってしまいます。
 アニメーターさん、制作共に、教育不足のため仕事が更に大変になってしまいせっかくの人材が辞めてしまうというのを何人も見てきてました。
 最低限のコーチングは必要なのですが、業界構造的な問題もありそういった専属のポジションの方はおらず、特にアニメーターさんに関しては先輩と仲良くなり師匠になってもらうというスタイルが主流です。しかし、教えて貰う側の負担が大きいですし、均一なスキルが身に付かず 
 これは業界全体で考えていかないといけない問題であります。

■人材不足を防ぐには

 マイナスな面ばかり書いてきましたが、かなり自由な業界です。フリーの方は自由な時間で働けますし、社員だとしても服装規定は一切ありません。僕の先輩たちではレインボーな髪の色やモヒカンやコールスローなど様々で個性があって面白い人ばかりでした。毎日が学園祭の準備期間みたいな感じというのが一番近いでしょうか。
 こういった自由さを残しつつ、いかに賃金を上げつつ効率化して労力を減らし仕事を継続できるようにするかが重要です。
自分が考える改革案として
・アニメーターさんの働き方改革
・教育職の確立
・ワークフローの改善及び統一
というのが急務だと思っております。一つで一つ内容が多くなるので詳しくはまた別の記事で書いていきたいと思います。
 
 最後までご拝読いただきありがとうございました!
次回は業界の"作品過多"を取り上げていきますので引き続き拝読いただけましたら幸いです。
 

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