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親子留学がしたかった

今はもうほとんど使っていないメールを整理していたら、娘が4歳になったばかりのころに、幼馴染に送ったものが出てきた。

育児日記はつけなかったので、こんなことを考えていたのか、と我がことながら新鮮だった。どこで何をしたかは覚えていても、その時の気持ちはすっかり忘れていたから。

娘の4歳の誕生日は旅先の香港で迎えた。メールには、親子留学先としての視察だと書いてある。 なんと、全く記憶にない。

会社に早期退職の制度があって、42才になると応募できるから、あと3年働いてお金を貯めたら2、3年は海外で暮らして、遊びや生活を通して娘をバイリンガルにしたいの。(もっぱら就職しやすいようにという親心…。子どもたちが大人になるときは、アジアの優秀な人たちと職を争わなきゃならないものね)



早期退職は娘が生まれたころから楽しみにしていた。だけど、もともとが大量採用のバブル世代に抜けてもらうための施策だったので、氷河期世代の私たちはいつもニンジンをぶら下げられたまま、応募できる年齢が目の前で何度も上がってしまって、42歳になっても権利はなかったのだ。

アジアの優秀な人と職を争わなきゃいけない、なんて考えていたんだ。今なら内向的な娘が海外で仕事をするなんて想像もつかないけれど。子育てとは、子どもの成長にあわせて、現実を知るというか、諦めを知るというか、まぁそういうことなんだわ。

あの頃は親子留学=会社を辞めて無職でいくということだったけれど、noteの世界を知った今ならば、マレーシアやタイの企業に転職するとか、リモートで仕事を持って行くとか、色々と選択肢はあっただろうな。

香港では子どもをほとんど見かけないから、ガイドさんに理由を聞いたら、家の中で遊ぶんだって。国民の4割が、7畳一間に一家4人で暮らすのが平均的な生活と説明されたばかりだったから、そんなに狭いのに家で過ごすの?とびっくり。香港が不夜城なのは、家が狭いから、眠くなるまで外で時間をつぶすからって話を聞いたばかりだったの

ガイドさん曰く、シンガポールも大人気の親子留学先だけど、車社会だから子供だけで遊びに行くことはできないんだって。イザベラ・ローズだったけ? 明治の初めに、「日本は子供たちの天国だ」と言った外国人がいた気がするけど、平成の世になってもそこは変わらないのかもしれないね。来年40歳の私たちが、懐かしく&ありがたく思い出すのと同じような子供時代を、娘から奪ってはならない、と思った旅だったわ

日本は子どもたちの天国だといったのは、イザベラ・ローズではなくて大森貝塚の発見で有名なエドワード・モースですね。テキトーなこと書いてるな。

そうだった。放課後、ランドセルを玄関で放り投げてそのまま飛び出していける子ども時代を重視して、超ドメスティックな子育てをしたのでした。

そろそろ外遊びも卒業する小5から2年間だけ海外に連れて行こうとしたらコロナでロックダウン。完全に時機を逸したのだ。

15円でどこまでも乗れる2階建ての路面電車が一番のお気に入りで。お誕生日は前にお勧めしてくれたペニンシュラのアフタヌーンティでお祝いをしたのだけど、3段トレーには見向きもしないで「もう帰ろう。2階建ての電車に乗ろう」って言われてがっかり。観光客は30分くらい話のタネに乗るものらしいんだけど、娘の希望で3日間乗り倒したから、今ならどこでも案内できるかも

そうそう、奮発したケーキより15円の路面電車の方がいいと言われたんだった。それにしても、いくら大人しい子とはいえ、4歳児をアフタヌーンティーに連れていくなんて、我ながらどうかしてる。私が行きたかっただけなのが見え見え。

香港では1日は現地発のツアーに参加して名所を巡り、1日はマカオに行って、残りの3日間は、一向に飽きない娘に付き合って朝から晩まで路面電車ばかり乗っていた。あの頃は、路線図を見るのは専ら私の役目だったけれど、今は海外に行くと、娘がスマホのアプリでパパっと調べて「次で降りるよ。2番に乗り換え」なんて、目的地まで連れて行ってくれる。本当にあっという間に、一瞬で大きくなってしまった。

娘が何も食べられなかったらいけないと思って、パスタソースを持って行ったのが裏目に出たわ。6日間で外食したのは2回だけよ。その2回もマック。何が悲しくて香港まで行って、ホテルでパスタ茹でなきゃいけないの?

結局、娘が海外で現地の食事ができるようになったのは、同い年のお友達と一緒に行った8歳の台湾からだった。それまではレストランに入ろうとすると怖がるから、毎回、青の洞窟シリーズに助けられていた。そんなこともすっかり忘れていた。


娘には常々「もう。帰国子女にしてくれたら、こんなに英語に苦労しなかったのに」と文句を言われている。

私も模索はしたのだ。忘れていたけれど。

「まぁ、いいじゃん。日本の小学校も楽しかったでしょ?」

いつものセリフに、少しだけ説得力を持たせられそう。

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