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おとうとはスナフキン

私は双子で、2つ上の兄と同い年の弟がいる。

この弟というのがまぁ夢追い人で、長年、あなたはスナフキンですか?というような生活をしている。

親戚一同の中で一番のイケメンで、きょうだいの中で最も高学歴。学生時代は無双で、それこそバレンタインデーは毎年数えきれないほどチョコをもらっていた。街をあるけばスカウトされ、有名雑誌の街角スナップにも何度も掲載されていた。

が、若い頃に外見でちやほやされるのはいかん、とおもう。

見事に正統派の人生ルート?から外れた弟は、これまで一度も定職についたことがない。ギターを奏で、歌を歌い、舞台やら映画でなにやらやっている。年に一度はギターと本を抱えて、ふらりと外国に旅に出てしまう。

もちろんバイトをしないと喰ってはいけない。

両親はヒッピー文化をもろ被りした人たちなので、自分たちは最高学府を出た高給取りのくせに、子どもたちには見事なまでに自由放任を貫いた。それはもう徹底していたので、自分が親となった今、よくまぁあそこまで放任でいられたなぁと呆れるやら、あっ晴れと感心するやら。

30歳になる目前に「さすがにこのままだと道を踏み外すから、定職に就くように諭してよ」と言ったら、両親は「あんなに情熱を傾けてできることもそうそうないやろ。放っとけ」と。

ダメだこりゃと思って、結婚して二児の父になっていた兄に同じ事を頼んだら、「俺もハナコも普通に働いてるんやから、一人くらい夢を追う奴がいたってええやろ。芽が出なかったら、親の遺産は家含めて全部、奴にやるぞ。ハナコもそのつもりで、このまま経済的に自立してろ」とかなんとか。

まったくうちの家族は揃いも揃ってと、私だけが弟になんどか「定職につけ」と言った。傍で見ていて、努力だけでは実を結ばない世界にいるのは大変だろうな、と思ったのだ。芸事ではなく仕事の世界だったら、頑張れば頑張った分、自分に返ってくる。そっちの方が、弟の能力が存分に活かせるんじゃないかな、と。

が、成人したきょうだいに口出しは無用であった。二十代半ばまでは家族で一番仲良しだったけれど、今では最も距離がある。まぁ、根が温和なので、話しかければ普通にこたえてくれるけれど、昔のように向こうから話しかけてくることはまずない。

定職に就いた私と就かなかった弟。この年になるとどっちもどっち。むしろ弟の方が幸せかも。暇を持て余すということがなさそうだから。姉としては、彼は優しいし子ども好きだから、きっと妻子がいたらいい家庭を築いたんだろうなとか思っちゃうけれど、余計なお世話ってものである。

弟はたまに実家に顔を出す。姪っ子である娘が宿題をしていると覗き込んで、二人でなにやら話している。評論文や詩の解釈なんかは、唸りますね。こやつ、だてにスナフキンじゃないな、と。

昨年「仕事辞めるんだ」と報告したら、「おお~良かったやん。長い間お疲れ」と言ってくれたのに、なぜ、私は夢を応援できなかったかな。経済的に自立して、誰にも迷惑かけているわけじゃないのにね。

私の生命保険の一つは、退職金がなさそうなキミを受取人にしてあるので、許してね。


とここまで書いてて、同じ年だから生命保険はあんまり使い道というか、使う時間がないかもと気づいてしまった。まぁ、向こうの方が健康的で長生きしそうだから、いいかな。




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