夢を叶えた五人のサムライ成功小説【フライパンズ編】3

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。

数時間が経過した。
楽屋では二人が話しを続けている。


互いにそれぞれの主張を言い合って水掛け論が収まらない。
すでに二人以外、ビル内には社屋を巡回する数名の警備員しか居なかった。


誰も居ない通路は不気味なまでに静寂で二人の会話のみ響き渡っていた。

『茂太、頼むから分かってくれないか!お前が嫌いとかじゃない。いつからかお前はおかしくなった。いや、お前には別の誰かが取りついている』


『それはお前の妄想だ。現にお前以外の誰一人、そんなことを口にする奴なんて居ないじゃないか』


『それは言えないからだよ』
『だったら証明できるのか?』

弘樹はもはや精根使い果たしていた。
もう言葉を吐く力さえ奪われていた。
そんな時だった。


『あら、もう聞いてられない。二人とも親友じゃなくって』


二人は耳を疑った。
だがその声はいっこうに止まない。


『そんな二人が争うなんて私もう辛くてもう見るに耐えない。私が証明してあげる』


そう言って弘樹と茂太の前に突如、女装をした男が姿を現した。


毛深い髭跡を隠す濃い化粧と口紅、長い髪に大根のようなぶっとい足を覆うスカート。


身の丈は190センチほどあろう体型、もはや女装は無意味に等しいオカマのそれさえ満たしていなかった。

二人はたじろいた。
特に弘樹が慌てふためいた。


『おまえ、お前が茂太に憑依しているのが原因だな』
『憑依だなんてひどいわ』


茂太は眼を丸くして聞いてみた。
『お・・・お前・・・誰だ?』
二人が身構える。


突如、現れたオカマの霊は諭すように話し始めた。


『梅塚たっくんと申します。オカマの幽霊です。二年前に交通事故に巻き込まれ死にました。この世に未練があって成仏できず、茂太くんの肉体を住処としています』


なんで自己紹介を始めるんだ、しかも自己紹介は敬語かよ!と弘樹は思わずツッコミを入れたかったが、茂太が『お前は誰だ?』と聞いたから素直に答えたんだなぁ!と耐えしのいだ。

茂太は弘樹の言っていたことを信じた。
理解に努めた。


『弘樹、この事を言っていたのか・・・』
『あぁ、ようやく分かってくれたみたいだな』


そう言葉を返す弘樹。


百聞は一見にしかずだな!と捉えて、弘樹はとりあえず、霊に礼を言った。


『たっくん、ありがとう。これまで説得に費やした膨大な時間が嘘のように、お前の出現であっさり相方は理解してくれたよ』
『おいおい、コンビ解消するとは言ってないぞ』

たっくんが口を挟む。


『弘樹くん、霊に礼は冷酷な仕打ちよ。それより茂太くん。コンビは解消して別の道に転身したら? いい就職先を紹介するわ。このまま芸人を続けていても弘樹くんに迷惑もかかるし、上から睨まれてどの道、成功できないわ。人脈を舐めたら大怪我するわよ。芸能界と作家稼業は特に縦社会だから。あっ、そうそう。あと極道社会とあの世もね』

室内に冷えた空気が流れ込む。
二人はゾッとした。
たっくんに怖さはないが幽霊には違いないからだろうか!

茂太は渋々、弘樹の提案を受け入れた。
『弘樹、お前の言っていたことは本当のようだ。お前に迷惑がかかっても良くないし、残念だがコンビは解散させよう』


弘樹は胸が痛かった。
だが仕方なかった。
黙って首を縦に振って弘樹は茂太の両手を握りしめた。


たっくんは満足そうに『うんうん』と頷いていた。

『二人とも、落ちこまないで。さぁ、三人で気分を入れ換えましょうよ。飲みに行って騒ぎましょ』


オカマの霊は厚かましかった。
だがとても優しかった。


マネージャーには翌日にも結果を報告することで収まりがついた。


実はマネージャーもまた上司からフライパンズの存在をなんとかしろと圧力をかけられていた。


三人?は冷気と静寂に包まれたビルを後にした。
警備員にはたっくんの姿は見えない。

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