第17回書き出し祭り感想 1-02『蜘蛛になる』

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蜘蛛になる

良かった所

非常に陰鬱なお話でありながらすっと読めてしまう高い文章力が素晴らしいと思いました。
いじめの描写部分が実にリアリティを感じさせてくれる内容で読んでる私自身、少し口を抑えたくなるような展開でした。
この救いのないところから、突如与えられる立場の逆転と、
そして絶望の中、救いを求める彼女に主人公が彼女の生殺与奪権を持ったように思わせている部分の締めの四行が読んでて心がゾクッとする実に素晴らしい部分だと思いました。

また、彼女が誘拐された後に少し主人公の心が晴れるところが実に恐ろしい。短いながらもこの表現は非常にうまいと思いました。

ジャンルや雰囲気の関係上好みは分かれる作品だと思いますが、作者もそれはご理解済みだと思います。
好きな人はとことん好きになるであろう良好な書き出しだと思います。

気になった所

読んでいていくつか気になったところがありました。
一つ目はこの作品に対して読んでて
一番ヘイトが来る相手が先生になってしまっている所。
次いで母親もしくは誘拐された彼女となっている感じなので、
誰も主人公を救ってくれる世界の理不尽さや救われなさを上手く表現している一方で誘拐された彼女にそこまで「ざまぁ」と思わせてくれないところでしょうか。

次いで、タイトルとのミスマッチです。『蜘蛛の糸』で罪人であるカンダタはお釈迦様に蜘蛛を助けてた唯一の善行により糸を垂らしてもらえるわけですが、蜘蛛が糸を垂らすわけではないんですよね。
おそらく主導権を持っているのが主人公なので、糸を垂らし、それを切るか切らないかをジャッジできる側なので
主人公を蜘蛛として表しているのだと思いますが、ちょっとわかりにくい気がしました。

最後に、あらすじや本文から察するにこの誘拐犯はおそらくすでに何人かの小学生女児を誘拐しているはずです。
(最初が半年、そして直近が二週間前、この二件だけということはないでしょう)
残りの子はどうなったのでしょうか。もちろん今までの誘拐犯と今回彼女を誘拐した男が別人という可能性は否定できませんが。
今まで誘拐された子達は殺されてしまったのでしょうか。
それを明示する必要があるかといえばないのですが、
ここまで暗い展開をやっているのであれば、彼女に自分は命の危険が差し迫っていると思わせるような描写があっても良かったかもしれません。
(複数人いたら外の主人公にそこまで希望を持てないでしょうし)


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