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ウクライナでの戦争 日本も他人事ではない?(1)

2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。
それ以来ニュースでは連日、ロシア軍の攻撃を受けるウクライナの様子が伝えられています。

平和な生活を突然奪われ生命の危機に晒されているウクライナの人々のことを思うと本当に胸が痛みます。
自国の利益のために他国へ侵攻するなど、プーチン大統領の選択はもってのほかだと思います。

「もし日本でも同じようなことが起きたら…」
そんな不安から
「日本も平和憲法(憲法9条)を廃止して、しっかりとした軍を持つべきでは?」
「日本も核兵器を持って、他国に舐められないようにしなければ」
といった意見も聞かれます。

しかし、これはかえって日本を危険にさらす発想です。
「事故に遭っても大丈夫なように保険に入ろう」と同じ感覚で
「他国から攻められないよう強い軍と核を持とう」と考えるのは早計です。
世界情勢はそんなに単純なものではないからです。

ウクライナには侵攻される前から軍がありましたが、それでもロシアに侵攻され人々の暮らしは破壊されました。
これはウクライナ軍の不備によるものではありません。
プーチン大統領の人間性の問題だけでもありません。
ウクライナは、ロシアとアメリカとの勢力争いに巻き込まれてしまったのです。

ロシアとアメリカの勢力争い

第2次大戦後、アメリカとソ連の冷戦が長く続き、両国が世界の各地で覇権争いをしてきたのはご存じのとおりです。
ソ連をはじめとする社会主義国家に対抗するため、アメリカや西欧諸国は1949年にNATO(北大西洋条約機構)という軍事同盟を作りました。
しかしソ連は1991年に崩壊したため、それと同時にNATOは存在意義を失うはずでしたが実際には現在も続いており、むしろ加盟国は増えています。

この状況がロシアに緊張感を与え続けていて、欧米諸国はそれを知りながらNATOを存続させています。
こういう勢力争いが現在もまだ続いているのです。

こんな中、日本を含む中小国家の身の振り方としては「どちらか一方の勢力についていれば安全」という単純なものではありません。
なぜなら、日本が最も頼りにしている大国であるアメリカが、今後は頼りにならないばかりか日本を危険に晒してしまう可能性もあるからです。

安全な身の振り方を考えるためには世界各国の事情、特に大国の事情についてよく知っておく必要があります。

ロシアとアメリカ 各国の事情

ロシアは寒くて国境線が長いという地理的条件ゆえに不凍港(一年中凍らない港)と緩衝国(親ロシアの国)を強く欲し続けています。
他国から侵入されないために国境線は守る必要がありますが、ロシアは国土が広く国境線がとても長いため、それを守るのは容易ではありません。だからロシアは隣国を緩衝国で固めたいのです。
ロシアに対して関心の薄い多くの日本人にとってはこのことはあまり知られていませんが、ロシアとのパワーバランスを常に意識している欧米各国にとってはこれは周知のことでしょう。

一方、アメリカはこれまで「世界の警察」として様々な国際紛争に関わってきました。
しかし、自ら戦争に赴くことで出費がかさみ、自国民の兵士を犠牲にすることで大統領の支持率も下がるということを経験し、だんだん戦争に消極的になってきています。
最近のアメリカを見ると、オバマ政権のリバランス政策では世界戦略を見直し、トランプ前大統領はアメリカファーストを掲げ国際問題に対し消極姿勢を見せ、そしてバイデン大統領は去年、アフガニスタンからアメリカ兵を撤退させました。

「自国のパワーバランスを相対的に上げる」という発想

でも、だからといってアメリカは「世界での地位が下がっても良い」とは考えていないでしょう。
「世界の中の強いアメリカでいたい。でも、お金や労力は使いたくない。」
アメリカの権力者はそう考えた結果、アメリカ自らが戦争をするのではなく、ライバル国が他国と戦争をするよう仕向けてライバル国を消耗させ、相対的に自国の地位を高めるという方法を思いついた可能性があるのではないでしょうか。
今回の件に関してアメリカが積極的に仕向けたとまでは言わないものの、ウクライナへの軍事侵攻が起こらないよう積極的に配慮したとは言えないように思えます。

今回のロシアによるウクライナ侵攻の経緯を見ると、今年1月の時点で、ロシアがNATOの東方拡大阻止を求めたのに対してアメリカはこれに応じないと回答しています。

2004年にバルト3国をはじめとしてルーマニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリアの7カ国がNATOに加入し、2008年にはウクライナとジョージア(旧名はグルジア)がNATO加盟を申請していて、緩衝国が欲しいロシアとしては「近隣諸国がこれ以上NATOに入るのは許せない」と我慢の限界に達していることをアメリカは知っていたはずです。
そんなロシアにそっけない回答をすれば、ロシアが軍事行動に出る可能性があることをアメリカは知っていたのではないでしょうか。

ウクライナに侵攻すれば西側諸国から制裁を受けることはロシアも予想し準備をしていたようですが、世界の多くの国から非難されて制裁を受けた上、古くからロシアとの繋がりが深いウクライナの人々からも嫌われ、自国の兵士も犠牲にして、ロシアとしても失うものが多いはずです。
一方、ロシアが消耗したり国際的地位が下がったりすればその分、アメリカの国際的な力は相対的に上がります。
また、今回の戦争で西側諸国は原油をロシアから買うことができなくなり原油価格が上がるため、産油国であるアメリカには経済的メリットもあります。

自らを犠牲にすることなく国際的な力を相対的に高め、経済的にも潤う…
アメリカにとってこんなに都合の良いことが果たして偶然起きたのか?と私は疑問に思います。

今回のロシアの軍事侵攻がアメリカの計算によるものなのかどうか、私には分かりません。
しかし、もし今回のことで
「アメリカの国際的な力が相対的に上昇し、経済的にも潤う」
という成功が得られれば、アメリカは再び同じ成功を得たいと考えるでしょう。

そして、次の舞台はアジアになるかもしれません。

日本は安全保障の話となると軍隊や武器を整えることや軍事同盟のことばかりが話題になりますが、それだけを考えていたのでは国の安全は守れません。
軍備や軍事同盟は戦争の抑止力としてまったく不十分であることを、私たちは今回のウクライナの出来事から学ばなければなりません。

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