乳糖不耐症について

だいぶ日にちが空いてしまいました。
こまめに投稿できる方は本当にすごいですね。

最近乳糖不耐症について尋ねられることが数回あったので、今回は乳糖不耐症について小児科医としてまとめてみようと思います。

乳糖不耐症とは

乳糖不耐症は、普段の生活でもときどき耳にする機会があるかもしれません。牛乳などの乳製品を摂取した後に、お腹が張ったり、腹痛や下痢が出る場合、乳糖不耐症の可能性があります。だいたいは摂取してから数十分〜数時間以内に症状が出てきます。

原因は

乳糖不耐症は、乳糖を分解できないことから起こります。
乳製品などには ” 乳糖(ラクトース) ” という糖分が含まれています。これはそのままではエネルギーとして使用できないので、ラクターゼという酵素が腸の中で分解して栄養として吸収されます。
乳糖不耐症の方では、このラクターゼがほとんどない、もしくは足りないために分解できず、腸に水分を引き込んでしまい、腹痛や下痢が起こります。

真性(一次性)の乳糖不耐症という、先天的にラクターゼがない方もいますが、実は数万人に1人の非常に珍しい疾患です。この場合には母乳やミルクすら摂取が困難なため、新生児期から無乳糖ミルクを使用するなど医学的な介入が必須になります。

ただラクターゼが足りないという、後天的な(二次性)乳糖不耐症は珍しくはありません。小児科領域で多いのは胃腸炎後などでラクターゼが減ってしまい、腸内環境が安定するまで一時的に乳糖不耐症となることがあります。子供の頃にで指摘されるのはほとんどがコレに当たると思います。これは基本的には時間経過で改善します。

また、ラクターゼは年齢が上がっていくにつれて減少していくため、ある程度年齢が上がってくると、摂取量によっては乳糖不耐症の症状がでることががあります。
人種差も結構ありますが、一般的には5-7歳ころからラクターゼは減少し始めるといわれています。なので、小学校以降で給食の牛乳などで下痢してしまうなどはこちらの影響が大きいかもしれません。

実はラクターゼが減るのは、他の哺乳類も同様で、年齢が上がれば母乳を飲む必要がなくなるため、自然と分解する酵素が減っていくものと考えられます(もしくは摂取する頻度が減ってくるので、徐々に作られる酵素が減っているのかもしれません)。これは後天的な乳糖不耐症というより、「乳糖分解酵素活性非持続 Lactase persistence」と表現されることもあります。

治療と経過

胃腸炎後などの二次性乳糖不耐症の場合
基本的にはだいたい2週間から1-2ヶ月程度の経過で治るものなので、治療適応とはならず、よくなるまで乳糖を避けるのが主になります。
しかし、年齢によって対策は変える必要があります。乳児期は母乳、ミルクは栄養の基本ですし、幼児期も貴重なカルシウム源の一つになるので、むやみに避けすぎることにも注意が必要です。

乳児期であれば
① 母乳・ミルクの量を摂取エネルギーとして問題ない程度に減らす
② 乳糖分解酵素(ガランターゼやミルラクト)を哺乳時に服用する
③ 乳糖を含まないミルクにする(ノンラクトやボンラクト)

幼児期であれば
カルシウムを少し気にする程度でよいので、乳糖不耐症でも症状が出にくい牛乳を使用した加工品、チーズ、ヨーグルトなどは摂取することを意識しておくのが無難だと思います。これらまでむやみに除去することは、不要なことが多いです。

*乳糖分解酵素活性非持続の場合
これは時間経過で治るものではありませんが、ラクターゼが全くないわけではないので、ある程度の量は摂取できることが多いです。なので上記と同じように、乳糖不耐症でも症状の出にくい加工品・チーズ・ヨーグルトなどは摂取を継続してよいと思います。
牛乳も量が多くなければ飲めることが多く、またホットミルクにすると飲める方もいるので試してみていただくことも良いと思います。

その他注意すること

① 本当に乳糖不耐症?
僕もそうなんですが、もともとちょっとしたことで下痢しやすい人っていますよね。そんな方の場合、自分で導き出したり、周囲にいわれたりして「ぼく、乳糖不耐症かも」と思ってしまうことがあります。
思い込みの力でも下痢や腹痛は出すことは実際できるんですよね。文献的にもそんな報告があり、乳製品だと思わずに摂取すれば同じものでも摂取できてしまうというパターンもあるようです。
なので、それほど確定的ではなく、毎度ではないようでしたらあえてすぐに乳糖不耐症とはいわずにちょっと様子をみているのもありだと思います。

②牛乳アレルギーと違うの?
牛乳アレルギーで下痢をすることもありますが、牛乳アレルギーの場合にはやはりじんましんや咳など他の症状が出ることが多いです。
また食べられるものにも違いがあります。乳糖不耐症の場合にはチーズ・ヨーグルトなどは食べられることが多いですが、牛乳アレルギーの場合はチーズは牛乳よりだいぶタンパク質が多いのでアレルギー症状が起こりやすいですし、ヨーグルトも同様に症状が出ておかしくないです。


以上、乳糖不耐症についてまとめてみました。
誰かの参考になれば幸いです。

参考文献
・乳糖不耐症 下条直樹先生 小児外科 Vol.47 No.4 , 2015-4
・ファクトブック よくわかる!乳糖不耐症 一般社団法人 Jミルク

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