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最新の中央銀行デジタル通貨(CBDC)情勢について -今後のビットコイン等に与える影響は?-

エグゼクティブサマリー

「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」について世界各国の中銀で検討・研究・発行が相次いでいます。
この背景には、「ビットコイン」の登場により様々な暗号資産(仮想通貨)が開発され、「ステーブルコイン」の登場により、国際間取引が従来の金融システムの敷居より低くなったことや、ブロックチェーン・分散型元帳技術・スマートコントラクトなど、新しい技術の有用性が確認されたことに加えて、2020年10月にはバハマやカンボジアでCBDCが発行されたことがあります。そして何より、中国念願の人民元の世界的地位向上を目的に中国人民銀行が2022年北京冬季五輪までに発行を検討中の「デジタル人民元(e-CNY)」に強烈な危機感を覚えたため、安定した金融システムを持っている先進国でも、影響を調査しつつ様々な議論が進んでおり、コロナ禍によりキャッシュレス決済の必要性が改めて認識されたことも、各計画を進める追い風になった背景にあるのは間違いないでしょう。
一方で基軸通貨である米ドルを持つがゆえに、慎重姿勢を崩さなかった米国が、今年9月にはデジタルドルに関してワーキングペーパーを発表予定となっており、大きなターニングポイントになりそうです。
長らく発行計画はなかった日銀も「デジタル円」の発行計画を進めており、キャッシュレス比率が他国より圧倒的に低い国内では、今年4月から実証実験に向けて本格的に環境構築が進んでいます。高齢化社会で様々な議論が発生してくると思われますが、そう遠くない将来の労働人口を考える限り国益に適っていると考えられるため、奇しくもドルショック(ニクソンショック)により通貨体制が大きく変わってから50年となる今、官民一体となり計画を着実に進めるべきタイミングが来ているのではないでしょうか。

1.中央銀行デジタル通貨(CBDC)について

「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」とは、日本銀行のHPでは次の3つを満たすものと書かれています。
(1)デジタル化されていること
(2)円やドルなどの法定通貨建てであること
(3)中央銀行の債務として発行されること
と大まかに定義されています。具体的には中央銀行は、誰でも1年365日、1日24時間使える支払決済手段として銀行券(簡単に言うと日本円のこと)を提供しています。中央銀行の当座預金は実は既にデジタル化されているのですが、中央銀行の債務を、新しい情報技術(ブロックチェーン・分散型元帳技術など)を使ってより便利にデジタル化できないかという考えから、CBDCは世界各国で導入検討・実証実験を行っています。
2020年10月には世界に先駆けてバハマ中央銀行の「サンド・ダラー(砂のドル)」とカンボジア国立銀行の「バコン」が発行されており、日本国内では今年4月に実証実験を開始している「デジタル円」などが計画されています。そんな中、主要国ではとりわけ中国人民銀行が「デジタル人民元(e-CNY)」導入に向けた準備を急速に進めて、他国では真似できない規模とスピードでの実証実験を開始したことでも注目されています。
このCBDCが各国中銀で活発な議論を始めることとなったのは実はつい最近のことなのですが、暗号資産交換業者ディーカレットのディーラーである筆者の私が、技術的な部分を省き、幅広く世界の発行状況と過去の経緯などについて、ビットコインの話を交えてディーラー目線で簡単な解説をしたいと思います。

話は2000年代まで遡ります。それまで非常に強い力を持って中央集権的に金融システムを管理運営していた銀行等により、2008年にリーマンショックが発生。これを鎮めるべく各国政府が中央集権的に自由市場に介入していることに関して批判する意味を込めたと思われる、ビットコインのブロックチェーンが、2009年1月3日に開始したこと。その後の暗号資産市場の拡大により、暗号資産が国境を越えて自国の規制を飛び越えるような形で、既存金融の外側で流通が始まるだろうといった懸念が、少しずつ広がったことが“きっかけ”と考えられています。

そのような中、中国ではいち早くビットコイン(BTC)の匿名性に注目した一部の富裕層により、中国国内から海外に資金を移転する手段として利用されたことで、ビットコイン(BTC)相場が押し上がってきました。これにより中国国内でのマイニング(マイニングとは取引データを承認する作業のことで、この作業に対し新しいBTCが報酬として支払われ、金などの採掘に似ていることから「マイニング」と呼ばれる)意欲が拡大し、世界で最もマイニングに熱心な国となりました。
これに対して、2013年12月には中国人民銀行が金融機関に対しビットコインを使った決済の中止を要求。そのうえ、中国念願の人民元の世界的地位向上のための国際通貨基金(IMF)の準備資産である特別引き出し権(SDR)の構成組み入れを目指し、人民元の改革を推進するアピールと人民元高抑制などを目的に、2015年8月に20年ぶりに人民元切り下げを実施。これにより国内資産の海外流出が加速していき、一時経済的なショックを誘発する事態になりました。この反省として中国当局は、資金流出を防ぐべく大幅に規制強化して、人民元の海外向け為替取引等の取引額上限設定かつ事前報告制にするなどして自国の外貨流出を防ぐ政策を打ちました。その結果、富裕層はビットコインやICO(イニシャル・コイン・オファリング)、ステーブルコイン(安定した価値を実現するように設計された暗号資産の一種であり、その中でも2015年2月に発行開始されたテザー社のTether(USDT)が主要な地位を占めている)を利用し資金移転を急ぎました。当然2017年にはICOが規制され、2021年にはマイニングに対する規制も行われました。

中国はこのように断固とした対応をしてきた過去がある反面、ブロックチェーン・分散型元帳技術・スマートコントラクトなどの新しい技術が現実的に広がったことに関して、各国に先駆けて注目し、後述する、国の威信をかけCBDCの研究を行ってきました。これにより大規模な実証実験を計画した中国人民銀行の「デジタル人民元」が発表されたことで、人民元の世界的地位向上と基軸通貨であるドルの覇権を脅かすのではないかといった懸念から、それまで熱心には取組んでこなかった米国がCBDCを検討せざるを得ない状況に追い込まれた形となりました。

2019年6月には米フェイスブックなどの団体が発表したデジタル通貨「Libra(リブラ:現ディエム)」の登場が鮮明でしたが、グローバルなプラットフォームであるがゆえに、国の金融政策や資本規制の効果を薄めてしまうなど既存の通貨・金融システムの秩序すら脅かすのではないか、個人データ保護が荒いのではないか、独占問題など多岐に渡る批判を受け、リブラはG7各国により計画の見直しを迫られる形となりました。
このように、民間の発行するデジタル通貨はそれぞれの国と連携して行う必要性を改めて認識する契機にもなっています。しかしながら、コロナ禍によりキャッシュレス決済の必要性が改めて認識されたことも、各計画を進めるきっかけになったことは間違いないでしょう。

2.デジタル人民元(e-CNY)について

中国人民銀行が7月に公表したレポートの「Progress of Research & Development of E-CNY in China」によると、デジタル人民元については世界に先駆けて2014年にはCBDCの研究をするタスクフォースを立ち上げ、2016年には専門の研究所を設立し実証実験の計画を立案開始、2017年には計画の承認に伴い、指定された深センなどの都市で実証実験を開始しました。2019年12月~2021年6月までに、中国における人口の約1.5%もの個人ウォレット2,000万個を発行。7月末時点でも実証実験中の都市で小売り・飲食店など132万を超える場所で実際に決済ができることで、総取引回数が7千万回、取引金額にいたっては345億元の本格的なテストを行っています。

では、なぜ中国がここまでの規模で実証実験を行っているかというと、中国念願の人民元の世界的地位向上が目的であるからです。GDPが世界2位の中国ではありますが、2021年1月の国際銀行間通信協会(SWIFT)の発表によると、人民元のシェアは2.4%と米ドルの38.26%と比べて圧倒的に低いままです。そのため、シェアを拡大する一環としてデジタル人民元普及を考えているようです。

最大のお披露目会場となるのが2022年2月に北京で開く冬季五輪で、外国の選手や観客が実際に利用できるようにするべく邁進しています。今年5月には、四川省成都・広東省深セン・江蘇省蘇州・河北省雄安新区など冬季五輪の会場で利用者を絞って20万人もの規模で実験していて、この結果により2022年までには発行を開始する計画となっています。

注目される具体的な機能としては、本人確認の度合いに応じて利用額に限度を設けたうえで、世界で最も早く普及した決済サービス、「支付宝」(アリペイ)・「微信支付」(ウィーチャットペイ)と似た設計が取り込まれており、QRコードやバーコードを読み込んだり表示したりして決済する、中国人が慣れ親しんだ機能に加え、スマートフォンなどの機器同士をぶつけることで相手に送金できる新機能が追加されています。これはデジタル人民元が現金のひとつであると位置づけて、強制通用力を持たせるべく設計されていて、いちいち銀行口座を挟まずに流通させることができるので、災害時でも携帯の電源さえあれば決済手段として使える点が画期的です。

利用する市民からはプライバシーに関しての懸念が出ていないわけではありません。今まで、アリペイやウィーチャットペイでは企業がフロントにあったがゆえに利用しやすかったのが、中国当局に直接監視されることに関し不安を覚える声が多少なりともあるようです。
しかし、長らく中国共産党の一党独裁による監視社会は、AIなどの技術発展に伴いその深度を増していることから、国民の大多数は当局による介入を受け入れており、「今まで以上に便利になるのであるなら、自分は犯罪をしているわけではないから気にする必要はない」との考えでいるようです。
この部分は日本など他国では、非常にセンシティブなのでブレーキが働き、発行までの障害になる部分と思われますが、中国はこの部分を容易に突破して普及していくと思われます。その後、近年アジアやアフリカ諸国で大規模な経済支援策「一帯一路」計画を推進していますが、このデジタル人民元のメリットを武器に少額ながらでも提供することで、人民元の国際的なシェア拡大が計画されていると考えられ、中国主導の経済圏確立が最終的な狙いのようです。

3.世界のCBDC情勢について(2021年7月末時点)

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BIS Papersより抜粋

この世界地図で塗られているのは、2021年7月までに世界中の中銀がCBDCに関してなんらかの検討、研究、発行実施を検討・発表している国の一覧となっています。アフリカ諸国が出遅れ気味であることが確認できます。

まずは米国について、米連邦準備制度理事会(FRB)は現在も慎重姿勢を貫いています。ディエムに対する迅速な対応とは打って変わって、自ら発行するための行動は現在までFRB高官や各地区連銀総裁による発言でしか本気度は伝わってきませんでした。
しかしながら7月の議会証言でパウエル議長が発言したように、2021年9月にはワーキングペーパーを発表するとのことで、ここが大きなターニングポイントになりそうです。すでに民間のステーブルコインなどが流通していること、ドルが基軸通貨になって長いこと、民間のイノベーションを阻害する可能性について各連銀からCBDC発行に否定的なコメントも出ていたことから、どの程度の内容になるかは世界各国の中銀関係者から熱い視線が注がれています。

欧州については、欧州中央銀行(ECB)が7月14日にデジタルユーロの発行に向けた本格的な準備を開始すると発表されました。商標登録など事務的な内容も進んでいることが分かっています。約2年間の調査期間に、マネーロンダリング(資金洗浄)対策、既存の金融システムなど悪影響を与えないようにするよう保有上限などを設け、使い勝手の良いモノにして現金を補完するための設計を進めると発表されました。
どんなに早くても発行までに5年はかかるのではないかと見られており、検証結果に問題があれば白紙撤回もありうるといったスタンスは崩していません。

国際決済銀行(BIS)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行(IBRD)などが、今年7月に共同報告書を公表した「BIS Papers(Auer, Haene and Holden (2021))」によると、国際間取引の支払におけるCBDC利用の可能性や現在までの課題に関して、各中銀の取り組みを3つのモデルに分類して紹介しています。ほとんどの国が検討している自国独自発行、他国のCBDCに対する規制や監督などを共同で研究するケース、カナダやシンガポールのように決済システムを共通化して自国発行するケース、中国人民銀行がタイやシンガポールと実験している(Inthanon-LionRock)のようなCBDCの国際取引プラットフォーム構築のケースについて網羅的に解説しています。それぞれに一長一短があることと、国際間取引には多大な議論の余地があることが示されました。

他国発行のCBDCについては、中国主導の動きがどこまで広がるか今後の動向に注目が集まっています。歴史的には、約80年前に国際清算同盟(ICU)が共通通貨「バンコール」を提案したが結局は廃案となった考え方が、もしかしたら日の目を見る機会が来るかもしれません。

4.国内のCBDC(デジタル円)情勢と発行のメリット・デメリット

日本国内では長らく「CBDCを発行する計画はない」と日本銀行が発表してきていましたが、国際決済銀行(BIS)と欧米7カ国からなる中央銀行と共同研究を実施しており、CBDCを検討する際の基本原則及び基本的特性として、「通貨・金融の安定を損なわず、公的・民間マネーとの共存・補完しイノベーションと効率性の促進すること」を発表しています。
そして、2021年4月より実証実験の「フェーズ1」に関して、実験環境を構築するための作業などにかかる業務委託先として日立製作所を入札の結果選定し開始しています。これは決済手段としての基本機能の確認を中心とした検証を行う段階とのことで、2022年3月まで実施予定です。
2022年度中には民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験も視野に入れて検討する」と発表されており、「フェーズ2」のお披露目はデジタル人民元のお披露目とされる北京冬季五輪後となりそうです。

では、改めて国内でCBDCを発行していくメリットとデメリットをまとめてみましょう。
まず、CBDC最大のメリットはスピードではないでしょうか。デジタル通貨であるがゆえに、CBDCはその中銀が新たに発行を決定し実行すれば、印刷機や硬貨製造に加えて間に入る銀行や運搬などに疎外されず、直接市場や人々のウォレットに流れていくことができると考えられています。これは、昨年からのコロナ禍でアメリカや日本などが実施した経済支援金が、CBDCであればもっと早く支給できただろうと考えられ、「フリードマンのヘリコプターマネー」の理論がより現実的なものになる可能性があると考えられます。(私はMMT論者ではないですよ)
メリットとしてそのほか羅列する限りでは次のようなものと考えられます。
日本で莫大なリターンを得られるメリットの一つが、高齢化社会での農村部など過疎地域における「現金の輸送・保管コスト・ATMの維持・設置費用の低減」や「紛失・盗難リスクの低下」。そして、最新の犯罪収益移転危険度調査書にも記載されているように、現在日本で最も犯罪に利用されるのが現金であることに対して「脱税やマネーロンダリングなどの捕捉・防止」や、リブラ構想でも問題になった「プラットフォーマーなどの民間決済業者の寡占化防止」などです。「各銀行特有の仕様となっている問題からキャッシュレス決済における相互運用性の確保」や、日本ではあまり関係ないですがアフリカ諸国や中南米など一部の後進国では社会問題でもあり、ビットコインなど暗号資産の発展が大きく期待された「銀行口座を持たない人への決済サービスの提供」と、「海外送金のコスト低下」などが挙げられると考えられます。

一方でいくつか考えうるデメリットとしては、利用履歴が国に管理されることに関してのプライバシーについて懸念する声が大きいと思われますが、それより大きなデメリットとしては「抑制できないインフレ懸念」ではないでしょうか。
2008年のリーマンショック以降、各国中銀は大規模な量的緩和策によってドル・円・ユーロなど自国通貨を大量発行してその危機に対応していますが、結果的にはインフレは起きませんでした(特に日本)。いろいろ議論はある中でも、銀行の役割として供給されたものの大部分を各中銀の当座預金にそのまま入れたからだと思われますが、CBDCだとどうでしょうか。最大のメリットである、発行後、直接ウォレットに入ることを上手く設計するなどの最適なコントロールをしないと抑制できないインフレ(ハイパーインフレ)が発生することがデメリットとして考えられます。ただ、日本の場合はデフレマインドにより長らく達成できていない2%のインフレ目標が容易に達成する可能性が高いことから、必ずしも完全なデメリットにはならないと個人的には考えます。(中南米やアフリカ諸国などの場合はハイパーインフレを起こす国が必ず出ると断言に近い予言をしますよ)
デメリットとしてそのほか羅列する限りでは次のようなものと考えられます。「クラッキングやハッキングに対するセキュリティ対策コスト」、「電気が喪失するような災害時の利用が可能であるか」や「発行の独占を通じて民間主導の決済イノベーションを阻害してしまうかもしれないリスク」などがあり、現在の国内状況から議論が発生し計画を阻害する最大の要因として「商習慣の変化によるIT弱者(なんという言葉が良いのだろうか)と利用推進者の二極化によるトラブルコスト」が日本国内限定の最大のデメリットになると考えられます。

今回、オリンピックで各国プレスが来日しびっくりした事としてFAXの利用頻度の高さがあります。PCRの検査集計でもFAXが中心であるように、ITを使えない人を中心にした社会・公共・行政運営の問題が出てくると思われます。
日本はここ何十年と長らく学ばなくても生きていける社会を作り上げてしまったことで、ITを受け入れようと勉強しない人々が発生し、各国に比べDXが大幅に遅れています。これは、高齢化社会であることを盾に、ITが分からなくても満足な公共・行政サービスが受けられるような仕組みとなっていること、つまり弱者を中心にした考えが非常に強いことから、海外のようにITを勉強しないと便利な公共・行政サービスが受けられないような仕組みは根付きづらい状況となっているためです。
経済産業省の発表によれば、「PayPay」、「Ponta」、「nanaco」などの電子マネーに加え「Suica」やクレジットカードなどをまとめた、キャッシュレスサービス決済比率は約20%です。主要国が40%~60%であると発表されていますが、日本がいかに低い割合であるか判ると思います。ただ、政府はこのキャッシュレス決済比率を2025年の大阪万博までに約40%に引き上げていき、いずれは世界最高水準である約80%までの引き上げを目指し推進していることから、CBDCはこの計画をしっかり達成させるためにも早期に開始しなくてはいけないフェーズに入っていると思われます。

主要なデメリットの最後に「ビットコインなどの暗号資産が取って代わるように無くなってしまうのではないか」との懸念については、ステーブルコインに関してはその可能性が高いのは否めませんが、特にビットコインのような暗号資産はCBDCの対極にあるものとして、発行上限までは今後もインフレヘッジの手段としてニーズが無くなることはなく、引き続き価値を保有し続けると暗号資産交換業に携わる個人として強く考えています。

5. CBDCが今後のビットコインや暗号資産(仮想通貨)に与える影響について

直接の影響はないものと思われますが、ステーブルコイン、例えばテザーに対する規制により、ビットコイン価格に向かい風が発生することは考えられます。CBDCが登場してくることでステーブルコインがどのような影響を受けるかは今後も注目すべきポイントと思われます。

現状、ビットコインに関して言うと、欧米では既存金融の参入が続いていますが、従来ビットコイン投資に関してネガティブな発言が多かった、富裕層を対象に資産管理を行うプライベートバンクに対して、ビットコインの購入を望む富裕層やファミリーオフィスの顧客は少なくないと思われます。どのタイミングで参入してくるかというのは相場を占ううえで、非常に注目すべきポイントであり、プライベートバンク参入は大きなターニングポイントになると思われます。そのような大口が続々参入してくることで、将来的には価格を安定させるために、PKO(PKO:Price Keeping Operation)のような機能がなかったことにソフトですが対応できるようになってくると思われます。そうすることで、徐々にビットコインの特徴であるボラティリティは低下していき、今までそのボラティリティに殺されてきた決済性が緩和されることで、CBDCやステーブルコインのような決済性が改めて注目され、代替手段として今後も生き残っていくと思われます。

個人的な考えでは、ニクソンショック(金とドルの交換停止)で始まって、プラザ同意(1985年にドル高の是正を各国で決めた)などの政策があっても、繰り返された通貨危機やリーマンショックを経て、ビットコインが誕生してきた中、「ドル依存」から脱却すべくエルサルバドルが世界で初めてビットコインを法定通貨に導入するなどと同様の動きが今後も中南米やアフリカで広がる可能性もあります。CBDCが世界的に普及したとしても、ビットコインが無くなるのではないかとの懸念に関しては考えづらく、過去にはデジタル人民元のニュースで大きく反応したことから、ブロックチェーンが連想されることでビットコインの認知拡大が発生し市場全体には追い風となることが今後もありうると思っています。

6.まとめ

ここまでCBDCの情勢について書いてきましたが、デジタル人民元の登場により、おそらく国際間取引でもCBDCが使われるための議論が進むと思われます。将来的にはその完成度と一路一帯政策の推進から人民元を利用する割合が増えてくると考えられますので、その時日本が置かれる立場を考えると難しいかじ取りが必要になると考えられます。
一方、国内の状況としてキャッシュレス比率が低いのは、高齢化社会に加え、現金に圧倒的な信認があるためです。これに対して、「CBDCは日本銀行に裏付けされているうえ、現金の補完的な立場であるから安心して利用してほしい」と、どこまで民間に浸透させられるか。既存のキャッシュレスサービスのイノベーションを阻害するものでなく、従来のテレビでの大規模マーケティングに加え、ネットでの広告など様々な取組みが必要だと思われます。そう遠くない将来の労働人口を考える限り、国益に適っていると考えられるため、官民一体となり計画を着実に進めるべきタイミングに来ているのではないでしょうか。

2021年8月12日
トレーディングチーム ディレクター
前田慶次

参考資料
「Progress of Research & Development of E-CNY in China」
http://www.pbc.gov.cn/en/3688110/3688172/4157443/4293696/index.html

人民元、世界での決済シェアが5年ぶり高水準-SWIFT
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-02-18/QOPD1AT1UMA501

BIS Papers(Auer, Haene and Holden (2021))
https://www.bis.org/publ/bppdf/bispap116.pdf