ヴェニスの金貸し(fb版)

「ヴェニスの商人」を読んでどうしてもシャイロックの事が気になっているウチに思いついた妄想ストーリ。
(先に上げたモノの微修正版)

ヴェニスの商人の話を知らない人は分からないかも知れないけど、それでも個人的には満足するストーリに出来上がったので、無謀にもあげてみます。

#シェークスピア
#シェイクスピア
#ヴェニスの商人
#シャイロック

それでは、
かの有名なヴェニスの街の悪徳高利貸し、シャイロック!
彼が、なぜあのシャイロックとなったかの話、
はじまり、はじまり〜♪



シャイロック、彼はヴェニスの街で金貸しをしている敬虔なユダヤ人の子として生まれた純朴な青年だった。

キリスト教徒ばかりの土地でユダヤ人として生きていたが、キリスト教徒からの差別やイジメの中でも、何ごとにも真面目な彼は父の後を継ぐべく学び、そして成長していく。

彼には幼馴染となるキリスト教徒の友人ロレンゾーがいた。ロレンゾーは皆の前で、積極的にシャイロックを守る事には臆病だったけど、二人でいる時はシャイロックを頼り、時に助けた。
そしてシャイロックも友人としてロレンゾーを信用していた。

そんな青年時代、シャイロックがあるユダヤ人の娘に恋をした。その名はアガタ。彼女はユダヤの戒律に縛られない自由な性格で、キリスト教徒の迫害もものともしない強さと明るさがあった。そんなアガタに誰も好意的であった。キリスト教徒であっても彼女に好意を持つ者は多かった。

根っから真面目で奥手なシャイロックは彼女に話しかける事は出来なかったが、彼女から話しかけてきた。
心から湧き出る嬉しさと共に、戒律を大事にしない彼女を咎めたが、彼女はあっけらかんに笑うだけだった。

そんな時、彼女の父親の事業が暗礁に乗り上げた。シャイロックは自分の父にアガタの家に融資するように願うが、真っ向から否定される。そもそもアガタの家はユダヤ人コミュニティの中で戒律をまもらないと、鼻つまみ者とされていた。

シャイロックはアガタの父を助けようと、彼女の父の事業を学び経営にアドバイスをした。アガタも経営を積極的に学び、二人の努力でなんとか苦境を脱する事が出来た。
彼女との仲も良くなり、アガタもシャイロックの誘いに乗り、安息日に一緒にシナゴークに向かう様にもなった。
トーラーを読む中で、彼女が好きな箇所は、アダムがエバと始めて出会ったシーンだった。「エバはアダムの骨から作られたとされるけど、二人は一体となるのだから男女間にそもそも差はないのよ」というのが彼女の主張だった。

しかし、アガタの父の商売上の復活と成功を好ましく思わない者もいた。キリスト教徒でもある商売上の競合相手。ユダヤ人が商売に割り込み、不当な売値のダンピングを行ったという主張が町の裁判にかけられる。

その時の裁判官は、ロレンゾーの父だった。シャイロックは友人に裁判の不当性を訴え、こちらに味方してくれる様に願う。そのときにロレンゾーが父を説得する条件として持ち出したのが、アガタとの交際だった。
ロレンゾーもアガタに好意を持っていたのだ。シャイロックはその不当な取引に憤慨しつつ、それはアガタが決める事と、友人がアガタに結婚を申し込む事を了承する。

裁判は結果的に上手く行き、ロレンゾーはアガタに求婚する。シャイロックが止めてくれると信じていた彼女はそれで答えを二日待つ様につたえる。
彼女は想いを書いた手紙をシャイロックに送る。しかしシャイロックは父の用事で別の街までの用事で旅立った直後だった。シャイロックは彼女が断る事を信じていたが、居ても立っても居られずに父に仕事を願い出たのだった。

期限は過ぎ、絶望したアガタは求婚を受け入れる。そして式を急いだ友人の結婚式の場で、シャイロックは戻ってくる。「私の骨の骨、私の肉の肉が奪われた」と叫ぶ。

一幕終了



二幕

結婚式から半年が経った。陰鬱な性格となったシャイロックはますます父の仕事の手伝いに精を出し、また父を越える苛烈な借金の取り立ては仕事の成長をもたらした。アガタの妊娠の噂が街に響くが、そんな噂は彼の苛立ちを加速するだけだった。彼女は娘を産み、その名をジェシカと名づけた。

彼はますます仕事にのめり込む様になる。事業を導いてきた父も心労から倒れ、シャイロックは一家の主人となった。そして父の死の床で、彼はアガタからの手紙の存在を知る。
そして、娘のジェシカが実はシャイロックの子である事を知る。ロレンゾーは酒に溺れ、その家庭は決して幸せなものでは無かった。
名家ではあるものの、破産状態にあった友人の家へ向かうシャイロック。

ロレンゾーは酷く酔った状態で、シャイロックを、そして彼がユダヤ人である事、そして彼の妻もユダヤ人の血を引いている事を、口汚く嘲る。

その時ロレンゾーの家に別の借金取りも訪れる。その借金取りはロレンゾーに利子を取らぬ約束でお金を貸し、彼は驚くべき事に彼の妻を担保にしていたのだ。

アガタを連れ去ろうとする借金取りに友人と二人で立ち向かうシャイロック。アガタは娘を守る為についていく事を了承するが、二人は抵抗する。「抵抗するならその肉の一部でも貰い受ける」と悪魔の様に笑う借金取り。
激しい格闘の最中、日没の鐘が鳴る。その日は安息日であったのだ。一瞬シャイロックの動きが止まり、彼は打撃を受け気を失う。

気がついた時には半狂乱となったロレンゾーと、泣いているジェシカの横で血塗れで死んでいるアガタ。彼女の胸ははだけ、乳房は剣で抉り取られていた。当時の借金取りの流儀としてちょうど一ボンド分。

シャイロックは娘を引き取り、ユダヤ人ではない借金取りを撲滅すべく金貸しにますます精を出す。
その苛烈な取り立ては治らないがあくまで決め事を明確にする彼のやり方と、利子は取るがどんな相手にも貸す姿勢によって、結果的に、人殺しをする様な金貸しは少なくなっていった。


ヴェニスの街は発展し、多くの商人が成り立ち、船舶の発展と海外との取引の増加で、多くのキリスト教徒の商人も増えてきた。
彼らは悪どい金貸しを憎みつつ頼る。

幼い時に母親を無くし、その後は乳母に育てられたジェシカは、不幸な事件も忘れ、思春期と多感さとそして仕事ばかりの父親に嫌悪感を隠さない。

シャイロックは地方から奉公に来たランスロットにも厳しく当たり、彼からも嫌われている。

そんな時、街の名士であるアントーニオーが彼を頼ってくる。昔から彼への侮蔑を隠さなかった男。今までアントーニオーはシャイロックからお金を借りる事なく事業を成功させてきた。しかも、彼は利子を取らず気前よく友人にお金を貸していた。その彼がシャイロックを頼ってきた。

シャイロックは担保として胸の肉一ボンドを求める。

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閑話休題。(ヴェニスの商人の本筋へ)
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老年となったシャイロックは娘の家に引き取られていた。ジェシカは望んでキリスト教徒となり、シャイロックも改宗を強制され、口数の少ない老人となっていた。
傍ではキリスト教への改宗を進めるためもあってか、ジェシカがキリスト教の聖書を朗読している。
彼はなぜか、アダムがエバと初めて会ったシーンで涙を流すのだった。



主なる神は人から取ったあばら骨でひとりの女を造り、人のところへ連れてこられた。 そのとき、人は言った。

「これこそ、ついにわたしの骨の骨、 わたしの肉の肉。 男から取ったものだから、 これを女と名づけよう」。 

それで人はその父と母を離れて、妻と結び合い、一体となるのである。

創世記 2:22-24 口語訳



彼らはもはや、ふたりではなく一体である。 だから、神が合わせられたものを、人は離してはならない

‭‭マルコによる福音書‬ ‭10:8-9‬ ‭口語訳‬‬

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