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Early Mobilization

最初に昔のNewYork Timesの記事から

2008年から2015年の65歳以上の35000人の人工呼吸器管理患者は1/3が挿管中に亡くなり、1/4だけが最終転機は自宅であったと報告されています。どれだけ人工呼吸器管理が厳しい状態で有るか知らしめる報告です。挿管前の意思決定が大切と思います。


今日は以前自分でまとめたICUでのリハビリテーションについてです。



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1990年台頃から徐々に呼吸理学療法が普及してきました。しかし当時の管理とは全く異なるものでした。


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鎮静、鎮痛のスケール化に伴い

ABCDE bundleの考え方がアメリカで普及し日本でもstandardとなってきました

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A:痛みの予防、管理の実施、またその評価

B:日々の覚醒トライアル、自発呼吸トライアルの実施

C:鎮静、鎮痛剤の選択

D:せん妄のMonitoring、管理

E:早期の運動、離床

F:家族への励ましや援助 等が提唱され

上記を一つだけでなく患者の治療指針としようとしたものが

ABCDEF bundleです。

スライドの作成が2017年なのでABCDEFまでしか記載していませんが

現在は良好な申し送りなども含めたABCDEFGH bundleが提唱されています

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ABCDE bundleの有効性を検討した報告も増えていきました。

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ABCDE bundleの導入前後の比較研究では

人工呼吸器離脱が早期となったり、せん妄の減少、ICUでの離床機会の増加の変化を統計学的有意差を持って認めました。

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PAD ガイドライン(後述します)に則った治療であるABCDEF bundleの全てではなくとも一部の実施、遂行であっても意識障害が改善したり、生存率が改善すると述べられています。

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Critical Careでは解説として日中覚醒させ動ける状態、環境設定を行うことで人工呼吸器から開放されると報告しています。


ここからはABCDEF bundleひとつひとつにfocusを絞って解説をしていきます。

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2013年にアメリカで出版された集中治療室における成人症例の痛み、不穏、せん妄の管理に対するガイドラインでは痛みの管理が第一とされています。その頭文字をとり(pain,agitation,delirium)PADガイドラインと呼ばれています。2018年には改訂版が出版されここにImmobilitiyとSleepが加わったPADISガイドラインが出版されています。あまりしっかりと読み込んでないのでここでは当時のガイドラインのPADガイドラインについて概説します。

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Assess,Treat,Preventの項目に分かれています。AssessmentのスケールとしてNRS,BPS,CPOT,RASS,CAM-ICU,ICDSC等が挙げられています。

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BPSは人工呼吸器患者において3-12の間のスコアリングで患者の疼痛の評価を行います。5以上が疼痛があると考えるとされています。

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CPOTはBPSに似たスケールですが発声の項目があるのが特徴です。

CPOTでは3点以上で疼痛があると判断されます。

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RASSは不穏を評価するスケールとして有名です。鎮静管理目標は-2~0となります

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最後のせん妄は急性に生じ変動する意識、認知に加え知覚障害を伴う状態と定義されています。

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その時のせん妄があるのかないのかを評価するツールとして

CAM-ICUがあります。感度も高いですがせん妄の重症度については評価できません。

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ICDSCもせん妄の評価ツールでスコアリングにより点数の推移などにより重症度の評価が可能です。

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せん妄予防のケアとしては上記のように患者本来の生活に近づけるような環境調節が重要とされています。

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早期の離床、運動では最低条件、基準を示した日本集中治療医学会が出版したエキスパートコンセンサスが有名です。

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近年の報告では段階的(坐位、立位、歩行など)の標準的に明記されたprotcolの使用をした研究があります。

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理学療法士が設定した独自のプログラムよりも標準的に定められたプログラムに則った介入によりICUの退室が早まり、ADLが向上し、せん妄が減少し、3ヶ月後の自宅復帰が増加したとされています。

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またベッド上のエルゴメータやNMESなどを使用した研究も徐々に始まり現在進行中です。現在のところ明らかにNMESや自転車エルゴメータの早期介入の優位性を示した論文は少ない状況です。

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次は実際の呼吸理学療法についてです。

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呼吸理学療法を行った群とコントロール群では優位な無気肺の改善等の差はなく優位性は示せないとの報告も散見されます。

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呼吸不全はⅠ型Ⅱ型に分類され更にⅠ型呼吸不全でも拡散障害や換気血流比不均等などに分類されます。その中でもシャントによる酸素化の低下は酸素投与でも改善せず人工呼吸器管理を要する程のインパクトを与えます。

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下葉では換気量も多く

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血流も多いことが上のFigureから見て取れます。

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加えて細菌の繁殖は肺胞の開大、維持を目的としたOpen Lung Conceptの治療により細菌の繁殖を抑えることができたとされています。よって無気肺などの細菌繁殖の温床となりうる部分の改善が肺炎予防に有効であると推察されます。

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上記の先行研究から

中枢気管支などの排痰が無気肺解除に寄与しその結果として

肺炎予防、改善につながると考えられます。

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実際に行われる無気肺解除の手技としてリクルートメント手技や

ポジショニング等が挙げられます。

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先行研究では肺コンプライアンスは実施後維持されないものの

酸素化は実施後も改善するとされています。

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2008年のレビューでもRecruitment Maneuversの実施後に酸素化が改善していると報告されています。


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A-aDO2は肺胞気酸素分圧と動脈血酸素分圧の差を示す指標です。V/Qミスマッチではほぼないが無気肺の指標となるVenous admixture(静脈血混合)に差があることがわかります。よって上腹部手術後の症例ではシャントがA-DO2の開大(酸素化不全)に影響していることが示唆されます。

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含気はARDS症例では腹臥位で均一になり、健常者でも背臥位では下葉の含気が低下することが報告されています。

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背臥位では下葉の含気がなく腹臥位では肺底部まで羊肺ですが含気があることが示されています。

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左が背臥位、右が腹臥位で黒が無気肺を示します。背臥位のDorsal(背側)で無気肺が多く認められますが腹臥位ではventral,dorsal共に無気肺を認めません。

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ARDS症例では長時間の腹臥位(16時間以上)は死亡率を改善させると報告されています。

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日本の研究ではsemi-proneでも腹臥位と酸素化能は変わらないと報告されています。人的労力、リスク管理の観点から実施しづらい病院では前傾腹臥位が有効である可能性があります。

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人工呼吸器管理のプラトー圧が一定でPEEPの割合を増やすと死亡率が減少し

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Driving Pressure(Pressure Support)の増加で死亡率が増加するとされています

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一部では経肺圧を揃える肺胞は常に虚脱せず酸素化が改善するとされています。

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経肺圧は肺胞に加わる圧を考慮した考え方です。未だ経肺圧をMonitoringしながらの管理が有効かどうかの一定の見解は得られていません。

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COPDのように動的過膨張を呈した肺など脆弱性を呈す呼吸機能では強い自発呼吸と運動により肺損傷のRiskがあると考えます。COPDに対しての早期リハではnegativeな報告がされています。


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加えて挿管などにより咽頭の知覚低下、筋力低下などによりICU起因性嚥下機能障害高率で発生するとされているため抜管後の吸引などでの肺炎予防などのリスク管理が求められます。


大まかな部分ですがICUでのリハビリテーションについて概説しました。2017年に作成したものなので若干現在のconsensusと異なる部分あると思いますので適宜ご指摘いただけると幸いです。

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