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NFTは後先考えずに「天下一品」のスタンプカードのノリでばら撒くべし

こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。

「NFT」と言うと、以前はオリジナルのデジタルアートや数量限定のデジタルコレクションがNFTとして高値で売買されることが大きな注目を集めていたため、暗号資産と同様に値動きがあって投資目的あるいは投機目的で取引されるものというイメージがまだ強いかもしれません。

しかし、最近は企業がNFTをマーケティング目的で活用し、一定の条件を満たしたユーザーに対してNFTを無料で配布する動きが広がっています。お金にならないNFTを受け取って何になるんだと疑問に思われるでしょうが、そこにはユーザーの心をくすぐる様々な工夫が取り入れられています。
そこで今回は企業がNFTを配ることの狙いや効果について考えていきます。


NFTを証明スタンプとして配布する

NFTについては色々な説明がありますが、ここではブロックチェーン上で発行される固有のデジタル証明書としての性質を取り上げます。つまり、企業がNFTをユーザーに対して配布するというのは、企業がユーザーに対して何かしらの証明書を付与することを指しています。

もう少し柔らかい言葉で説明するためにスタンプに例えて話しましょう。

例えば、あるラーメン屋で名刺のように積まれた紙のスタンプカードを見かけることがあるかと思います。お店側は、お客さんにカードを無料で配布し、お客さんがラーメンを1杯食べるごとにその証明として1つのスタンプを付与します。この仕組みは今ではお店ごとの専用アプリによってデジタル化が進んでおり、「天下一品」などのラーメン屋では1杯の証明が企業データベース上のスタンプとして記録されています。

これがNFTの場合、お店でラーメンを1杯食べたという証明がブロックチェーン上のスタンプとして記録されることになります。先述した紙のスタンプカードと専用アプリと証明する内容は同じですが、NFTによる証明は誰もが参照できるパブリックな台帳に改ざんの難しい形で記録されるという点で他との優位性を持っています。

紙のスタンプカードによる証明がアナログで不便であることは想像に易いと思いますが、なぜ専用アプリではなくNFTによる証明が望ましいのでしょうか。それはNFTの方が外部への連携やアプローチが遥かにしやすいからです。異なる専用アプリ同士では「天下一品」でラーメンを1杯食べたことの証明を転用することが大変ですが、NFTであれば同じ台帳上で統一された規格によって他のサービスと容易に接続することができます。未来的ですが、ラーメンNFTによってメタバース上のキャラクターの体力を回復させるなどの用途も考えられます。

また、NFTによる証明ではお客さんの消費行動を把握しやすくなります。NFTを配布した個々のアドレスを覗くことで、その人がこれまでに何の証明を所有しているかや、将来的にはその証明をもってどのような行動を起こしたかまでがサービス横断的に確認できます。ラーメンNFTの所有者に対して健康やダイエットに関する広告を出すなど、それらの特徴に応じて企業は次の施策を打つことができます。NFTを配布することもキャンペーン要素を含みますが、それを配布して初めてweb3ライクなマーケティングを始められるのです。

もちろんこれを単独で行っていては効果が薄れてしまいます。同じ「天下一品」の中でもメニューやキャンペーンなどによって証明を色分けする必要がありますし、さらにはラーメン屋に限らず様々なプレイヤーが同じ台帳上で証明を行うことで複合的な取り組みが可能になります。

NFT配布の事例から学ぶ

ここからは実際のNFT配布の事例を紹介しながら具体的な動きを見ていきましょう。

ポテトNFT

カルビーnote記事より引用

2023年4月に日本の大手菓子メーカーであるカルビーがポテトチップスをモチーフとしたNFTの配布キャンペーンを実施しました。日本人でカルビーのポテトチップスを食べたことがない人はほとんどいないと思いますが、うすしお味やコンソメパンチ味、のりしお味など対象商品を購入し、商品のパッケージを指定の方法で折りたたんで撮影することで、その証明としてポテトNFTがもらえます。
ポテトのキャラクターが可愛くてそれだけでも欲しいと思うユーザーはいそうですが、この取り組みでは購入および撮影の回数に応じてポテトNFTが進化するというゲーミフィケーションの工夫がなされています(ダイナミックNFTの活用)。レベルに応じてタネから芽の状態、そしてキャラクターの状態へと5段階で成長し、ランダムで金のキャラクターが出現したユーザーに対しては特別商品もプレゼントされます。

募金NFT


セブン銀行キャンペーンHPより引用

つい最近、私もセブンイレブンのATMで見かけたのですが、セブン銀行が環境貢献活動への募金の証明としてアーティストのNFTを配布するキャンペーンを実施しています。募金者はATMから好きな金額を募金し、明細表のQRコードを読み取ることで4種類のアートNFTからランダムで1つを受け取ることができます。募金活動は個人の行動に紐づくものであることから、ここでは譲渡できない形式でのNFT(SBTの活用)が採用されていることも特徴です。

アーティストNFT

プレスリリースより引用

TikTokや、Youtubeの「THE FIRST TAKE」でも話題となった人気アーティスト「新しい学校のリーダーズ」が、KDDIの運営するNFTマーケットプレイス「αU market」にて、メンバーが書き下ろした習字NFTをプレゼントするキャンペーンを実施しています。ライブやグッズではお馴染みの習字をモチーフとした「一筆入魂NFT」を専用ページから誰でも簡単に受け取ることができます。
このキャンペーンは今夏に開催される一大音楽フェスのSUMMER SONIC 2023と連動した企画となっており、ファンは会場内に設置される専用ブースで習字NFTを提示することで会場限定NFTを追加で受け取ることができます。これら全てのNFTを受け取ったファンに対しては限定コラボグッズがプレゼントされ、さらにはNFT保有者だけに向けたスペシャル情報が秋頃に届けられる予定です。

このように商品の購入や募金、イベントの参加など様々な証明としてNFTは無料で配布されています。NFTは表に見えるカラフルな絵柄のデジタルコンテンツをユーザーに売り付けることばかりが考えられていますが、本質的には何かの行動や権利の証明としてユーザーの手に渡ることが重要ではないでしょうか。

NFTは小さな証明であっても「天下一品」のスタンプカードのノリでユーザーにばら撒くべきです。幼い頃に学校で何の意味もない皆勤賞をもらって嬉しかったように、他人から何かの証明をもらうことでユーザーは一定の満足を得ます。証明によって何をするのかについてはNFTであれば後からでもデジタルに設計することができます。

NFT配布でできること

最後に、企業がNFTを何かの証明としてユーザーに配布するメリットについてまとめます。

新たな顧客接点ができる

企業のマーケティングを考える際に、今ではGoogleやYahooなどの検索エンジンや各種ウェブページが最大の顧客接点になっています。Cookieというウェブページの閲覧証明のような仕組みによってユーザー情報や行動履歴などを取得し、それらを分析しながらプロモーションの最適化を図っています。

また、TwitterやInstagramなどSNSも重要な顧客接点になっています。SNSによって人と人とのつながりや興味関心が可視化されるようになったことで、それらをグループ化したり、投稿や口コミを分析したりして新たな広告戦略を立てることができるようになりました。

NFTは、これらに代わりブロックチェーン上で顧客接点を持つきっかけとなり、まさにCookieのような形であらゆる証明情報を共通の台帳上に記録することができます。将来的にはそこに学歴や職歴、資格情報など個人に関する情報も含まれ、さらには実需のともなったトークンの決済情報も確認できるでしょう。

今ある企業ごとの顧客データベースが全てオンチェーンになるとまでは言いませんが、個人や企業の行動を追うことができる世界共通のデータベースが拡大していくことが予想されます。だとするならば早くからNFTを配布してパイを広げておくべきではないでしょうか。

多様なコミュニティが生まれる

NFT配布のもう一つのメリットとしては、同じNFTを持つ人同士でコミュニティが生まれるということです。

例えば、イベントに参加した時には記念品が配布されることがありますが、それをもって参加者同士が知り合う機会もなければ事後的にやりとりすることもありません。記念品がSNSで拡散されることはあっても盛り上がりは一時的です。しかし、NFTの場合には、アドレスの中身を見ることによってその人が同じイベントに参加していたことが永続的に確認できます。

趣味嗜好についても同じです。事例として紹介した「新しい学校のリーダーズ」に関連したNFTを所有していれば、その人がアーティストのファンであることがわかりますし、ファン同士で繋がることもできます。その数が増えることで同じファンの中でも愛着度合いを測ることができます。

このようにNFT配布によって多様なコミュニティが生まれると、その特徴に応じてマーケティング施策を講じることもできます。CryptoPunksやBored Ape Yacht ClubといったNFTコレクションは富裕層コミュニティとしての性格が強く、TiffanyやGucciなどのハイブランドとのコラボが進んでいます。

国内企業の方からは「NFTを使って何かやりたい」という相談を受けることが多々ありますが、まずは後先考えずにNFTを配ることから検討してみるとアイデアが出やすいかもしれません。

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